第2話 罪の意識
聖華暦832年 10月 ダンゲルマイヤー領バウルスハイム
僕、リコス・ユミアは13歳になった。
あれからもう一年になる。
僕の住む街バウルスハイムは、アルカディア帝国の大貴族であるダンゲルマイヤー侯爵家の領地にある工業都市だ。
この街では『機装兵』、その部品を作る企業が沢山あり、僕の父さんもこの街で機装兵の部品を取り扱う問屋を営んでいる。
『機装兵』は全高8m前後の人型兵器。
アルカディア帝国はもちろん、東方のカーライル王朝・聖王国や南方の自由都市同盟、北方のカナド地方、人の住んでいるところなら、どこにでも有る。
機装兵は魔獣から街を守ったり、隣国との戦争に使われたりする。
平和の為には無くてはならない、なんて軍人さんや機装兵に関わってる人は言っているけど、人殺しにも使われる武器には違いない。
だから、僕は機装兵があまり好きじゃない。
嫌いでは無い。全部が全部、人殺しに使われている訳ではないから。
軍学校では機装兵の簡易版である従機を操る授業もあるから、嫌いだとか言ってられないのもある。
僕は軍学校中等部に通っている。
ここにはあの時の事……僕が人を殺した……を知っている人はいない。
友達はいる。だけど、必要以上に群れたりしていない。
そのせいか、とっつき難い、近寄り難い、どこか冷めてる、なんて陰口を叩かれる事もある。
何にしても、付き合いが悪いのは事実。
学校の成績は、まぁ自分で言うのもなんだけど、上位の30番内にはいる。
両親には心配を掛けたくないから、勉強は頑張った。
でも勉強が出来て人付き合いが悪いと、自然と人が寄り付かなくなるものらしい。
クラスでは浮いた存在になりつつあった。
それに『魔眼持ち』というのも関係している。
『魔眼病』は病気、感染るかも知れない、という認識は誰しもが持っている。
可能性は極めて低いのだけれど、決して『0』では無い、そう思っている。
だから、みんなも必要以上に僕に接して来たりはしない。
不当な扱いや差別をされないだけマシではあるが、今の僕にはこの状況の方が助かっている。
誰かに胸の内を打ち明ける事が出来れば、それはどんなに救われるだろう。
でもそれは出来ない。出来るはずが無い。
僕が人を殺した事を皆が知ったら、皆は僕の事をあからさまに避けるだろう。
不当な扱いや差別を受けたりするだろう。
自業自得なのだから、僕がそれを受けるのは当然の事だ。
だけど、それは僕の両親にも降り掛かってしまう。
僕の所為で両親が不当な扱いや差別を受ける事には耐えられない。
だから、僕はこの事を胸に仕舞って皆と距離を取っている。
僕は卑怯者だ。
罪を贖う方法を探しているのに、それは嫌だと逃げている。
誰にも迷惑を掛けずに贖罪する方法……そんな都合の良いものなんて無いというのに……。
そんな事をつらつらと考えている自分に、また嫌気がさしてしまう。
「………、……スさん、リコスさん!」
自分の名前が呼ばれているのに今気が付いて、慌てて声の主を見た。
教壇で先生がやや苛立った表情で僕を睨め付けていた。
「リコスさん、先生の授業がつまらないのは判りますが、授業とは関係無い事を思索するのは感心しませんねぇ。」
ネチッとした嫌味な言い方ではあるが、授業中に上の空になっていた自分に非があるのだから、これは仕方がない。
「申し訳ありません、クロビス先生。以後、気を付けます。」
男性にしては細面な先生は小さく頷くと、教科書に目を落として朗読の続きを始めた。
歴史の授業は嫌いだ。
僕達『新人類』と邪悪な創造主『旧人類』との種の存続を掛けた戦い、アルカディア帝国の建国と新人類同士の今に至るまでの確執。
歴史はどこまで行っても血に濡れている。
歴史は人殺しの記録、そんな風に思ってしまう。
人殺しは罪で、罪は贖わなければいけない。
歴史上の偉人や英雄と呼ばれる人達は、どのように罪を贖ったのだろう。
一番知りたいのはその方法なのに、授業ではその事をちっとも教えてくれない。
歴史の授業で戦いの記録を見せられる度、いつもその事を考えてしまう。
僕は卑怯者だ。
贖罪の方法を探しているのに、誰も教えてくれないと言い訳にしている。
そんなの自分で見つけるしか無いって、僕自身判っている事なのに……。
こんな事で贖罪なんて出来るのだろうか……。
それとも僕は、早く罪の意識を払拭してしまいたいだけなのだろうか……。
そんな事をつらつらと考えている自分に、また嫌気がさしてしまった。
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