白川ダム

 手ノ子八幡神社前の路肩に停めた車の運転席から煙草の煙が流れ、ハザードランプの点滅に紛れて消えていく。誘われたように車内に蘇った年季の痕跡たちに、助手席の楪は、刀袋を抱きしめて頬を緩めた。


「どうかした?」

「いえ、懐かしいなーって」


 問いかけて来る視線の角度も、不思議な安心感があった。『彼』が往ってから自分の妊娠が判明するまでのたった数か月でしかなかったが、随分と馴染んでいたようだ。

 あの日から英の吸う銘柄が彼の愛飲していたものと同じになったからだろうか。いや、あるいは――


「今日はがいないからねえ」

「ですね。ハナさん、小野川温泉でも気を遣ってくれていたでしょう。いつもすみません」

「やめてよ。本当に気を遣うってんなら、禁煙するのが正解だもの」


 そう言って、英はまた窓の外へと視線を向けた。ハザードの点滅に合わせて何かを堪えるように瞬きをし、それより拍の伸びたテンポで煙を吸い、吐き出す。器用なものだと思った。実際、ヘビースモーカーでありながら、英のカラオケの腕はで一番上手い。

 フィルターのぎりぎりまで燃えた吸殻を携帯灰皿へ捻じ込むと、何度か揉んでから、英はポケットの中の別の銘柄の箱と入れ替え、ドアポケットに挟んだ。


「それって……前の?」

「流石にね。同じの吸ってるなんて知られたら、絶対バカにされるもの」

「ああ、してきそう……」


 目を閉じれば、にへらっとした半笑いが浮かんでくる。

 楪も思わず服の皺を確認してみてから、そんな自分がおかしくなって、やめた。なんだかまるで、紲那を置いておめかしし、別の男に会いに行く浮気女のようである。






* * *






――数十分前・米沢警察署


 コンビニで買い溜めたおにぎりや菓子類でささやかな夜食会をしていた楪たちは、到着してきた吾妻へ挨拶をしようとして、その背後にいる矢野目夫妻の姿に目を丸くした。


「どうして……」


 訊ねる楪に、吾妻はバツの悪そうな顔で額を掻く。


「あの後すぐに、署に電話がかかってきてね。同行したいと」

「きょ、許可したんですか!?」

「俺たちが無理を言ったんだよ。こっちは携帯でかけて、通話繋げている間に署まで行って……」


 大輔の白状が真実であることを、じっと下唇を噛んだ美優の小さな頷きが肯定する。

 そこへ新しい足音がやってきたかと思うと、入り口の引き戸に手をかけて、落合がぬっと顔を出した。


「入口で立ち話なんてしてんなよ。中入れ、中」

「落合さんまで!?」


 ぽかんと口を開けている英に、彼は「よう」と片手を上げる。


「俺は別口だがな。米沢の一課と組むって聞いたんで、向こうで十三課と一番付き合いのある俺にお鉢が回って来たってわけだ」

「ああ、繋ぎ役ですか。面倒かけます」

「気にすんな、ちょうど米沢観光もしたかったところだ。――っと、いたいた。おうい、山王浦! 聞いたぞ。せっかく昇進した傍から署長に喧嘩売ったって、ええ?」


 探し人を見つけた落合は、ずかずかとオフィスの奥へ向かっていった。

 二人が旧交を温める豪快な笑い声が少し遠くに響く中、楪たちはまた、気まずい沈黙に包まれた。


「ねえ美優。今の米沢は危ないって言ったよね?」


 腕の中で眠る互いの子供を慮って声量を抑えたせいか、いやに責めるような声が出てしまい、楪は口を噤んだ。

 美優ははじめ震えるように、徐々に大きく揺らすように首を振り、「だからだよ」と絞り出す。


「今度はどうなっちゃうの?」

「えっ……?」

「二年前、私に逃げろと言ってくれた時の楪も、今と同じ顔をしてた。その時は、旦那さんが殉職したんでしょ? 今度は? さっき立ち上がった時、少しふらついていたでしょう。そんな体で……本当に帰って来るんだよね?」


 楪は二の句が継げなかった。帰って来ると断言するのは容易い。帰れる保証はないと断ち切るのも容易い。だが、今はどちらの言葉も、軽々しく口にしてはいけないような気がした。

 まして、吾妻を通して紲那を託そうとする願いを、親友にしてしまった身としては。


「帰るよ」


 だから、決意を口にした。

 紲那を預けることを決めたことに、自分に何かあった時の保険という意味は確かにある。しかしそれ以上に、美優と大輔に預けるからこそ、必ず引き取りに――無事の生還を報告しに行くのだという、自分への檄でもあった。

 神頼みとは、こいねがうことではない。そう教わったから。


「私たちはちゃんと帰る。帰る場所を守るために、行くんだよ。だから今は、まだ大丈夫なうちに、吾妻さんと山形に戻って。ね?」


 そう言いかけた唇に、そっと美優の人差し指が当てられた。


「楪たちが帰ってくるなら、尚更私たちはここで、紲那くんと待っているよ」

「……どうして?」

「だって――」


 美優に耳打ちされた言葉に、楪は目を見開いた。高清水らを打ち破るということばかりで、その発想には至っていなかったからだ。


「うん。そうだね。ありがとう」


 危うく、自ら我が子を『はぐれ者』にするところだったと、はにかむ。


「もういっぱいいっぱいで。そこまで気が回ってなかったや」

「でしょー。楪は昔から、人のことばっかりで、自分のことは忘れるもんね」

「んんっ? それはおかしくない? 人のことを考えていたら、気付いているはずでしょ」

「そんなことないよ。母として、妻として、自分を勘定に入れてないから気付かないの」

「あー……だね。えへへっ」


 高校時代にそうしていたように、顔を近づけ、おでこを擦り合わせて笑い合う。

 美優は自慢の親友だった。はじめは大輔との馴れ初めを隠そうとしていたように、色々と考え込み、抱えてしまうきらいはある。けれどそれだけ真剣に思考を巡らせることのできる彼女だからこそ、いつも自分に必要な言葉をくれるのだ。


「それじゃあ、紲那をよろしくね」

「うん、任せて」


 美優は咲希を大輔へ預けると、空いた腕でそっと紲那を受け入れる。けれど母親の腕を離れたことを本能で気取ったか、紲那はむずむずと目を開けた。


「まーま?」

「ごめんね紲那。ちょっとママたちおでかけしてくるから。少しの間、美優お姉ちゃんと待っててくれる?」


 頭を撫でてやると、彼はまんまるの目でじいっと美優を見てから、やがて、こくりと頷いた。


「――皆さん、完成しました!」


 取り調べ室から転がり出るように、目の下にクマをつくった相森が飛び出してきた。続いて出て来たニコラの手には、古い文献のように紐で綴じられた一冊の本が握られている。


「……最高の『義経記』よ。あとは神様がぎなた読みをしてくれないことを願うだけね」

「宗貞くん、お疲れ様。本当にありがとう」

「お礼は、成功してから受け取るよ。時間の都合上、白蛇のことまでは書けなかったしね」


 ニコラと楪に支えられ、椅子まで辿り着いた相森を、芽瑠がざっくり診断していく。異常なしの一言とともに夜食を差し出され、コーヒーで一息ついたところで、相森はようやく矢野目夫妻に気が付き、いっぱいいっぱいの愛想笑いと会釈をした。

 楪はニコラから受け取った本を机に置き、一度合掌をしてから小脇に抱えた。


「それでは、行って参ります」

「うん。長南さん、漆山さん、気を付けてね。行才さんと無音さんも、よろしく頼みます」

「はっ」


 吾妻に敬礼をして、楪たちは部屋を飛び出した。






 残った吾妻は、部下たちが夜食を残していった丸テーブルに矢野目夫妻を促すと、紙コップにお茶を注いで差し出してから、自分の分の缶コーヒーを探した。

 指先が震えて、プルタブを起こすのに苦戦する。不甲斐ないと思う。

 事件は現場で起きているという有名なセリフがある。それは重々承知している。これまで何度、自分が代わりに前線に立てればと思ったか。しかしその度、当時唯一の部下だった英と、彼女に引き抜かれた名顧問から、十三課の長たる振る舞い方を窘められた。


――部下こどもたちが帰ってくる場所を守ってくれ、父っつぁん。


 今や『家族』も増え、随分な大所帯となった。頻繁に顔を出す芽瑠や、不定期に訪ねてくるニコラの二人も、親戚の娘のようだ。


「(うん、解っているよ)」


 一度深呼吸をすると、プルタブは容易に起きた。苦笑しつつ、苦味で舌を潤す。


「……その、少し不思議に思っていたんですけど」

「うん?」


 美優に訊ねられ、吾妻は中程まで呷っていた缶を下ろした。


「今回のように米沢まで来るのは、出張みたいなものでしょう。はじめから、保育施設だとかに紲那くんを預けたりはしなかったんですか?」

「それは、僕としては耳が痛い話だね」


 吾妻は困ったように目を細くした当然、その案はあった。自分の家で預かると提案したこともある。だが彼女の場合、幼い息子を連れて歩くことには、重要な意味があった。


「紲那くんは紲くんの息子。つまり、オナカマの直系に当たるんだよ。そして漆山さんは、巫女になるための儀式を受けている」

「ああ、執筆のために伺いました。岩谷で神附けをしたんですよね?」

「そう。彼女自身の意思で巫女の力を扱えるわけではないのだけれど、一つだけ例外があってね。紲那くんに触れている時のみ、周囲の『異なるもの』の気配を感じ取れるんだ」


 あごに手を当てて耳を傾けていた相森は、不意に、あっと声を上げた。


「確かに、小野川温泉での楪さんの立ち回りは、先が見えているように感じました。成程、ある種の千里眼……」

「しかし、どう動いているか解っても、避けられるとは限らないのでは? 自分は空手を修めていますが、熟達者の動きは、見えたと思った時には当たっているものです」

「その通り。だから漆山さんは、産後からずっと、長南さんにみっちり剣の稽古を付けてもらっているんだ」


 頑張っているんだよと、吾妻は微笑んだ。

 自分も昔剣道を嗜んでいた身として、少し羨ましくもあった。現代武道は自己修錬の術と謳われる。実際に戦う機会はないどころか、防衛のためであっても、鍛えた技を使用すれば逆に罪に問われてしまうほど。

 一方で、活人剣という教えがある。本来は他者を傷つける剣ではあるが、その振るい方によって、あるいはその背中で、他者を活かすことができるというものだ。『異なるものから人を守る』という目的の添え木がされた芽は、競技として研鑽を積む者たちとは別の育ち方をする。


「ちょ、ちょっと待ってください」


 大輔が眉間に皺を寄せ、瞬きを多くして言葉を探している。


「つまり、じゃあ今、楪さんは怪異の気配を探知できず、視力を失った状態で戦うってことですか……?」

「そういうことになるね」

「そんな無茶な。俺も行かせてください!」

「――あんたはあんたで、自分の子供を守る仕事があるだろうよ」


 立ち上がりかけた大輔の肩を、がっしと落合の腕が抑え付ける。


「ですが……」

「あいつらの稽古をちょくちょく見取りしているが、ありゃすごいぞ。周りの男どもがビビるくらいだ。大丈夫。ちょっとの間だけ、母親から、一人の戦士おんなに戻るだけさ」


 落合の言葉に、美優と相森がああ、と納得したように頷いた。

 プロに任せろ、プロに。そう言って、売れ行きの悪い梅のおにぎりを一つかっぱらっていく落合の背中を見送ってから、吾妻は手ノ子の方角へ振り返った。






* * *






 無線の隣にかけているスマホが、着信を告げた。画面には芽瑠の名前が表示されている。

 楪は英と目配せで頷き合い、通話アイコンをタップした。


「はい、八幡組」

『えー、こちら海渡組。こっちに大勢集まっている模様』


 もたらされた報告に、英は意気揚々とキーを回し、エンジンをかけた。


「こちら八幡組。予定通り、出ます。そちらもお気をつけて」

『お互いに。健闘を祈るですよ』


 通話が切れるのと入れ違いに、エンジンを噴かす音が大きくなり、くんっと体に軽いGがかかる。

 米沢方面から目的地である白川ダム湖岸公園へ向かうには、大きく二つのルートが存在する。一つは楪たちの待機していた、北側から飯豊町の中心部を抜けるルート。そしてもう一つは南側、小野川温泉方面から上っていくルートだ。

 時間としては後者の方が早く着く。しかし、高清水らが手ノ子と小野川温泉を行き交っていることを考えれば、こちらを通るのは危険だった。そこで二手に別れ、芽瑠とニコラが陽動、楪と英が迂回路を通って向かうことにした。


 左手を流れる川と並走しながら、山道をひた走る。ナビの予想到着時刻は残り十数分。実際には半分もないだろうが、それまでの時間がひどくもどかしく思えた。


「この辺り、避難区域なんですね」


 道中にぽつんとあった管理小屋を通り過ぎる際、ヘッドライトに照らされた外壁看板が目に入る。細かい文字こそ判読できなかったが、大きく警告が書かれていた。


「雨が降ったりなんかすれば、ダムの放水があるからね。快晴でよかったわ」


 やがて、道は大きくゆるやかなカーブに差し掛かった。ダムに堰き止められた巨大な池を、ぐるっと回り込むためだ。

 ここはまだ、月山道のダム湖で見たようなものと同じ、一般的な水面が広がっている。水没林を見ることのできる目的地は、ここを過ぎたもう少し先にあった。


「(もうすぐ、もうすぐ……)」


 カーブを曲がる際の遠心力に振り回されないよう、ドアのグリップを握って、視線を眼下の一点に集中する。

 ふと、夜空の星さえ吸い込むような深い湖面に、黒の波がさざめき立つのを感じた。


「ハナさん、何か来ます!」

「了解、とっとと抜けるとしましょうか!」


 強く踏み込まれたアクセルで、車はさらにスピードを上げた。しかし、ダム湖から打ち上がった鉄砲水のような津波は、先回りをするように山肌へと食い込んだ。

 波を形成していた黒い異形たちが道路を埋め尽くし、行く手を阻む。

 こめかみに冷や汗を伝わせた英は、それでも狼のように歯を剥いた。


「ユズ、しっかり掴まっててね」

「はい!」

「まったくぞろぞろと……仕事とパートナー、どっちが大事なのかしら!?」


 英がレバーを何度か操作すると、車はスピンをかけるようにして山肌の斜面に乗り上げた。異形たちの脇をすり抜け、覆道の上を突き進んで、再び道路へと戻る。

 サイドミラーを確認すれば、既に異形たちは追跡の態勢に入っていた。アクセル全開で引き剥がそうにも、獣のような跳躍力は容易く距離を詰めて来る。


「ハナさん!」


 異形が助手席側にしがみついたのを一瞥し、楪は刀袋を支えにダッシュボードの内側へと頭を屈めた。

 発砲音、ガラスの砕ける音、異形の呻き声――コンマ数秒おいて「クリア!」の一喝。頭を上げれば、窓に空いた穴から流れて来る空気が耳に直撃した。シートを少し引いて一息を吐く。


 最後のカーブをインコースで突き抜けると、小さな温泉宿が見えてきた。裏手に広がるキャンプ場の敷地は、文字通り黒山の人だかりの様相を呈している。


「情報は正しかったみたいね。それとも罠かしら」

「まずは水没林を探しましょう」


 湖岸公園の向こう側に目を凝らした楪たちは、そこにあった光景に顔を顰めた。


 水没林が、五色の異彩を放っている。


 観光ガイドなどで見る写真ではせいぜい、立ちこめる朝露や霧を反射した幻想的な乳白色。蔵王山の『お釜』こと五色沼や、遊佐町にあるエメラルドグリーンの湖・丸池様といったスポットは県内に存在するが、このダム湖にはそういった話を聞いたことがない。


「――ここに来て余所見かァ!?」


 車内にまではっきり聞こえるような哄笑がしたかと思うと、いつの間に現れていたキズナの横薙ぎ一閃によって、車体のバランスが大きく崩れた。


「チィ、このまま乗り込む! 揺れるわよ!」


 『弥陀の剣』によるものではなかったためか、辛うじて崩壊は免れていたものの、ボンネットの一角にはその切れ味の爪痕があった。

 キャンプ場の柵をぶち破り、異形の群れに突っ込むようにしてスピンをした車は、一度停車した。


「行って!」

「はい!」


 ドアを開けた楪は、右手に本を、左手に刀袋を持ち、あらん限りの力を振り絞って地を蹴った。

 追い縋ろうとしてくる魔の手は、再び走り出した車が牽制する。

 だがキズナはそれを一足飛びで躱すと、楪へ向かって猛進してきた。


「何を企んでるのかは知らねえが、諦めな! 弱ぇ分際でしゃしゃり出んのは罪だ! さあ斬れ、『弥陀の剣』!!」

「くっ……」


 背中に感じる殺気に、楪は歯を食い縛った。点ではなく、面でかけてくる膨大な圧力。どの方向から迫ってくるかも判らないせいで、振り返るしかない。

 足を蹴る方向をずらしながら体転換。振り上げられた刀は目と鼻の先だった。

 楪は太刀筋を見極めて足を捌いた。しかし、刀を躱すことができたと安堵したのも束の間。夜闇から飛び出してきた風船のような異形の体当たりを察知することができず、楪は地面を転がった。


「(そうか、紲那を置いてきたから……)」


 抜かった。心のどこかで油断していた。紲那がいる前提での立ち回り方に頼り切っていた。


「ったく、ちょこまかと。だがここまでだったな?」


 まだだ。迫るキズナの足音から逃げるように後退りながら、楪は刀袋を開け、刀を引き抜いた。


「へえ、やるつもりか? いいねえ、かかってこいよ」

「いいえ、これは私の刀ではありませんので」

「あン?」


 彼がすぐに使えるようにと、予め解いておいた下げ緒で、本を結いつける。

 そして、それを思いきり放り投げた。

 宙を舞った刀が、五色の池に吸い込まれる。


「紲さん、受け取ってください!」

「紲は俺だって言ってんだろうが!!」


 半狂乱に叫んだキズナが、トドメを刺すべく刀を振り上げるのが、スローモーションで映る。

 ここまでか。楪は目を閉じた。

 たとえ自分がここで潰えるとしても、どうか――


 不意に、雷が落ちたような轟音が鳴り響き、次いで、金属同士が打ち合う甲高い音がした。


「――また、妙な場所で喚ばれたもんだ」


 逆巻き、吹き荒れる風の中で聞こえた声に、楪は嗚咽を溢した。早く目を開けてその背中を映したいのに、熱で半田付けされた瞼が開いてくれない。


「何者だよ、お前……」

「そのナリしてるくせに判らねえのかよ。元ネタ知らねえモノマネ芸人とか聞いたことねえぞ」


 どうにかこじ開けた視界に、見慣れたライダースジャケットが滲む。何よりも待ち侘びた輪郭がそこにある。


「俺は漆山紲。テメエの本物ニセモノだよ」


 そう言って、彼は刀を担ぐように構えた。

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