幕間

【番外編】幼馴染みと①(三原ナズナ視点)

 単純だから、全部わかる。


 みんなが考えていることなんて、簡単だから顔を見ればだいたいわかった。


 ましてや異性――男なんて、しっかり太字で書いてあるようなもんだ。


 だから少し話せば、お見通し。――ただし例外が一人。


「ナズナ、俺Vtuberになるよ」


「……へぇ、なんで突然?」


 本当に突然だった。さっきまで『無人島に動物を一匹連れていけるなら何がいいか?』という謎な会話を繰り広げていたいたあたしの幼馴染み、栗坂恵くりさか・めぐみ――恵君は急にわけのわからないことを言い出した。


 ただ彼が変なことを言うのは、今に始まったことではない。


 出会ってから今日まで十年近くの付き合いがあるけれど、ずっとそうだった。


 何を考えているのか、わからない。


 あたしは北欧出身である母親の血を色濃く継いでいて、日本ではどこに居ても人目を引く見目麗しい外見だった。自分で言うのも――なんてことはない。

 むしろ自分が周囲からどう見られているかくらい、わかっていないと困るはずである。


 だから、たいていの人からあたしは好意的に見られていて、特にそれが異性であれば恋愛感情や性的感情になることも手に取るようにわかった。


 みんな、わかりきったつまらないようなことばかりを口にした。

 あたしのご機嫌を取ったり、逆に気を引こうと自慢し出したり、退屈で飽き飽きだったけれど、いつも笑ってあげる。


 だがこの幼馴染みは違う。


 ついでにいうと、自分がどう見られているかも全くわかっていないようだ。


「ほら、俺って目立たないでしょ?」


「目立たない……かな?」


「話し相手もナズナくらいしかいないし……本当はこのパッとしない学校生活をどうにかしたかったんだけど」


「それでVtuber? 配信するってこと?」


 うん、と自信満々に恵君が頷く。


 ――学校一の美少女と名高いあたしと、だいたいいつも一緒に居るくせに? 恵君が目立っていない?


 どういうことだろう。あたしと比べたら目立っていないということだろうか? たしかに恵君はいくら女顔だといっても、もし女性だとしたらルックスはあたしよりいくらか格下になるだろう。


 ただ恵君は男で、今の時代は中性的な顔立ちというものに人気がある。高校生になっても相変わらず制服を着ていないと女子と見間違われることのある恵君は、当然学校でも顔がいいと評判だった。


 いつも一緒のあたしと恵君は、学校でも一番目立っている二人組だろう。


「ナズナも友達少ないし、一緒にやる?」


「ひっどいなーそんなことないのに。あたしは友達いるしっ」


 友達と心から言えるような相手は、実際全く居ない。だけど上辺だけでいいのならいくらでもいる。クラスメイトはみんな友達! それでも問題ないくらいだ。


 あたしは小さいころからそうだった。


 その容姿に甘えず、空気と相手の顔色を読むことにしている。

 誰からも嫌われないような立ち回りとキャラを守っているのだからほとんどの人間から好かれるよう振る舞えていたはずだ。


 だからあたしから「あたしたち友達だよね?」と聞けば、たいていの人は遠慮はしても嫌な気にならず『友達』と答えてくれるだろう。


 ――もちろん、勘違いしたお年頃の異性は別だ。でも彼らがなんて言ってもあたしからの答えは「友達」だからあきらめてほしい。


「恵君は友達がほしくてVtuberにやりたいの?」


「友達もほしいし、なんかこうチヤホヤされたい」


「へぇ、目指せ人気者だね」


 恵君だけは違った。


 物心ついて最初に、一番身近な相手だったから? 最初はたまたま幼馴染みだから、と思ったけれど、彼を見ているとやはりそれだけではないような気がする。


「でもさ、人気者ってなったらなったで大変じゃない? 楽しいことばっかりじゃないでしょー」


「そうかもしれないけど、なってみないとわからないか」


「あたしは面倒そうだと思うけどなー」


「……すごい人気出たらどうしよ。女の子のファンとかもできるかも」


 あたしの話を聞かずに、恵金は既に脳内でVtuberデビューしようとしていた。


 珍しく恵君の考えていることがよくわかる――というか口に出ているので、あたしは少しだけ協力してあげようと思った。


「Vtuberってことは、アバターいるよね。絵描いてあげようか? 簡単にだったら動かせるようできると思うし」


「えっ!? いいの? だって……」


 あたしはイラストを描くのが好きで、ちょっとした人気イラストレーターだった。もちろんそれで生計を立てているようなプロではない。たまたま描いてネットにあげた絵が、評判よく人を集めたというくらいだ。


 ただそれも数年続けば、有料でイラストを依頼されるようにもなる。


「もちろんお代はいただくからねっ!」


「ごめん、そんなに大金は用意できないんだけど……」


「お金はいいよー。んーお菓子とかさ、小物とか? 適当に」


「なら今度パンケーキ奢るよ。放課後一緒に行こうよ」


 恵君がまた突然そんな提案をした。


 恵君は気づいていないらしい。


 あたしたちは学校ではいつも一緒に居るけれど、高校生になってからは学校外でほとんど二人きりになっていないことを。


 ――だってさ、幼馴染みでも高校生の男女が二人で一緒に居たら、付き合っているかもって思われちゃうよ。


 恵君は、何を考えているかわらかない幼馴染みなのだ。どうしてかはわらかないけれど、あたしのことを全く異性として見ない。

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