性別不詳VTuberたちがオフ会したら俺以外全員女子だった
最宮みはや
第一部 『親友編』
第1章 激動のオフ会とその顛末
第1話 視聴者数一万人超えの悲劇
インターネット越しの相手はどこか離れていて、本当の姿は見えてこないものだ。
住んでいる場所はもちろん、職業や年齢、それどころかときには性別すらも。
半年前からVtuber
とあるきっかけでさらに人気となり、今現在俺の配信に集まってきている人の数はなんと一万人を超えようとしている。
――しかし。
「すごいたくさん人来てくれて嬉しいな……えっと、今日は俺の好きなアニメの話でもしようかなぁ。スポーツアニメが最近熱くて」
『ケイちゃんもう女子だってバレバレな男子アピしないでいいぞ笑』
『もう女なの明らかに俺とか言っちゃってもう。話題も露骨に男っぽいのがあざといし』
『俺っていうケイちゃんは可愛いからもっとやれ』
『俺っ子は尊い。正直好みだ。愛している』
「あーその、それで特に好きなサッカーアニメなんだけど……」
なんとか話を続けようとするが、コメントの勢いは全く落ちず、むしろ加熱していくばかりだ。
同時に視聴者も増えていくので普段なら嬉しいのだが、今の俺は困惑していた。
――俺は男だ。
間違いなく、正真正銘男だ。
確かに、声は中性的でいわゆる女声だ。外見もなよっとしていて、中学くらいまではよく間違われていた。
いやそんなことはどうでもいい、とにかく男なのだ。
それなのに何故か今、Vtuberとしての甘露ケイ(俺)は女として認識されている。
きっかけは先日のとある出来事だ。
ただ振り返ってみれば原因は他にもあったと思う。
例えばことの発端は、Vtuberとして活動するためにアバターのデザインを友人に頼んだとき。
『ナズナっ。な、なんでこのデザイン! 俺が頼んだのと全然違う!』
『えーだって恵君の声の印象で描いたらこうなっちゃったんだもんー』
受け取ったアバターは、友人割引の格安報酬(パンケーキのおごり一回)で描いてもらったとは思えないほどのハイクオリティだった。
しかし、『イケメン』を頼んだはずが、できあがったのは『美少女』。
多少無理して見れば、ボーイッシュと言えなくもない。
体の凹凸はほとんどなくて、全体的にほっそりスレンダー。
髪の長さも肩に掛からない程度。
けれどそのくりくりした大きい目や、ショートとは言えボリューム感があって一部編み込みまれたおしゃれな髪型に、何故かうっすらと桃色に染められた頬や唇は、やはり女の子にしか見えない。
――それでも頑張れば、ギリギリ中性的な美少年ということにすれば男でも通るか?
正直かなり悩んだ。ただアバターのデザインそのものは、何度も言うがとにかくクオリティが高い。
もともとチヤホヤされたい、あわよくば女の子にモテたい。――というただの不純な動機しか持っていなかった俺は、結局もらったアバターでVtuberすることにした。
甘露ケイのVtuberデビューだ。
本名の
手探りで始めたVtuberだったが、予想に反して順調な滑り出しだった。
性別も声とアバターで女性と間違われることは多かったが、それでもまだ俺が「女声なんでよく間違われるけど、男なんですよー」って言えば驚かれながらも納得してもらっていた。
ナズナに『結果オーライでしょー』ってしたり顔で言われたときはイラっとしつつも、確かに普通に男らしいキャラでやっても俺の声やキャラにあまり合わずここまで視聴者は増えなかったかもしれない。
だが今は。
『好きなアニメよりさ、ケイちゃんってどういう男がタイプなの?』
『今度カメラ配信してください! 手だけ映してくれれば十分なんで!!』
『僕と結婚しようケイちゃん、あの約束の教会で!』
――どうしてこうなった。
もちろん以前からも、男を自称しているが女声と可愛いアバターであることから、視聴者の大半が俺を明確に男として認識はしていない状態であることは感じていた。
これはVtuberではまれにある状態で、俗に言う性別不詳だ。
男なのか女なのかはっきりしないVtuberのことをこう言うらしい。
俺は男だと公言しているから、正確にはVtuber甘露ケイは男であるものの中の人物(俺)の性別は女かも知れない、というのが視聴者の認識となる。
なのでいわゆる性別不詳Vtuberともまた違うのだが、アバターが可愛らし過ぎるせいもあって、『男と振る舞う女の子Vtuber』をやっている――みたいな扱いになっている。
Vtuberとしてのキャラは現実とは切り離され、ファンタジーなものから、一見矛盾するようなものでも視聴者から受け入れられれば成立するので、この複雑な俺のキャラが生まれているのだが――でも俺が男だって言っているんだから男でよくない? と文句を言いたくなる気持ちもある。
ただそのせいか、おかげなのか、視聴者の増え方は良かった。多分、性別問わず両方の視聴者をターゲットにできたんじゃないだろうか。
ナズナの言うとおり結果オーライなのはそうなんだろう。
想定していなかった事態だが、好スタートを切れたことに、あの頃の俺は素直に喜んでいた。
なにより、Vtuber
Vtuberのトモは俺と同じく性別不詳として扱われている。だが中の人間はこちらも俺と同じく男。多分。
声こそほとんどただの女声なのだが、普段の配信からして言葉の節々にエロガキ感が漏れている。多分女声に可愛いアバターで配信すればチヤホヤされると思ってVtuberになった下心野郎に違いない! とこいつの配信を見た俺は直感した。
俺も同じ女声の男だから直感でわかる。プロにしかないセンサーみたいなものだ。
どこか共感めいたものがあったからか、トモとは話すようになって直ぐに意気投合した。
ほんの数ヶ月、ネット越しでの付き合いだけであるが、もはやリアルとほとんど変わらない親友――あるいは悪友のような存在である。
そんなトモが配信外での通話中、突然提案してきた。
『ケイぃー、今度さオフ会しない?』
「お、オフ会……!? それって直接会うってこと!? いやだって、ほら俺たちVtuberだしさ」
『大丈夫大丈夫、Vtuberだけのやつだから。それに集まるの性別不詳組のみんなだしさ、アマネっち企画で。あとミィ君も予定合えば来るって』
「え、でもそれってほら、尚更マズくない? だって二人とも性別不詳なわけで……トモだって……」
性別不詳組――というのは、Vtuberファン界隈のみんながいつの間にか言い出した呼称だ。
俺やトモ、他にも中性的な声質や言動、男女とも判断がつきにくいアバターなど様々理由から、性別不詳として扱われているVtuber数名を視聴者達が独自にグループ呼びしているものだった。
性別不詳組というグループ名は、あくまでファン発祥の勝手につけられたものだが、そう呼ばれれていることは俺含め配信者本人たちも認知している。やはり多少意識してしまうし、せっかくグループができたならとメンバーでコラボすることもあった。
トモと最初に話すきっかけも、性別不詳組としてお互い認識していたからだった。
何度か交流しており、トモほどじゃないが、アマネさんとミィさんの二人も知り合いである。
ただ俺には二人の性別がわからないし、向こうも俺の性別はわからないはずだ。
いや、俺は隠していないし、男だって公言しているので素直に信じていてくれれば、本当の性別も知っていることになるんだけど。
しかし二人は――そしてトモも違う。
性別を公称していないのだ。俺と違って正真正銘の性別不詳Vtuberである。
トモに関してはまあ、俺だけでなく視聴者も薄々男であることに気づいているだろう。女声のエロガキ
だがアマネさんとミィさんは性別不詳であることで、ある種のミステリアスな魅力を出していた。
『ケイちゃん、エロいこと考えてない?』
「ええっ!? 考えてないって、なんでそうなるの」
『ほらオフ会だし、実際みんなとの対面での出会いなわけじゃん。だからケイも誰かと親密になってーとか考えてんでしょ』
「そんなことは――」
そうか、俺は女の子とオフ会するかも知れないってことなのか。
だって二人の性別がわからないということは、二人が異性――女性である可能性もあるということだ。
そう考えると、全くやましい気持ちがないと言えば嘘になる。
元々下心でVtuberを始めたくらいだ。もちろんそんな具体的に『彼女を作りたい』みたいな欲求があったわけではないし、今となっては『女性ファンとあわよくば』みたいなのは一切ない。――いや、女性ファンが全然いないからじゃないよ?
しかし配信者同士、それも実際に会って直接知り合うのなら。
例えば、俺とトモがそうであるように、ネットという垣根を越えて仲良くなり、その相手が異性であるなら、親しくなった男女が行き着く先はつまり――。
「い、いやないって! むしろ初めてのオフ会だし、同性との方が安心って言うか」
『なにそれ、ケイ意外にチキンだ』
「うるさいなー」
トモはくすくすると笑って、殊勝なことに少し真面目な声で聞いてきた。
『前から気になってたけど、ケイの中で僕のイメージってどんななの?』
「トモのイメージってそりゃ……」
パソコンの画面には『藤枝トモ』の名前と可愛らしいピンクショートカットの女の子が表示されている。しかしこれはトモの実際の姿とは違う。
そうだな、多分俺と同い年で、身長は俺より少し低いくらいの、小生意気な感じ――の至って普通の男子高校生。名前は多分『
「トモはトモだろ。そのまんまだよ。どんな姿でも、変わらないって」
『そっか! へへ、恥ずかしいこと言ってくれるじゃん』
「というか、トモこそアマネさんとミィさんに変なことしないように!」
『そっれはどうかなぁー。アマネっち声からして巨乳だし』
ヘラヘラとだらしない声にあきれるつつ、正直俺のアマネさんのイメージも優しげでスタイルのいいお姉さんだった。
『あっ、ケイちゃん鼻の下伸ばしてるだろ!』
「なっ、そんなことないって!」
『言っとくけど、実際に会ってもイメージ通りってわけにはいかないかんね。妙な期待しないこと! これオフ会の鉄則! アマネっちが汚いおっさんでも今までと変わらず接するんだぞ』
「トモが先に妄想してたんでしょ……」
俺はオフ会に参加する約束をしてからも、トモとの馬鹿話は続いた。
約束の日はすぐに来た。
あれからトモが語った馬鹿馬鹿しい話なんかよりも、ずっと想像だにしていないことが起きるなんて。
すべての元凶は、とあるカラオケボックスの一室で起きた。
第一回Vtuber性別不詳組オフ会場だ。
性別不詳組の四人が集まると聞いていた。しかし、そこにいるのは俺と三人の女の子だけ。
――お、俺以外全員女の子!? トモは、トモはどこいったの!?
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