四畳半掌編集
前田渉
一. ブラックニッカのアルコール
ウィスキーを一口飲んだ。度数37パーセントのブラックニッカだ。喉元をすぎるとすぐむせた。久々に飲んだから、喉がびっくりしたのだ。鼻を炙るようなアルコールの匂いが、私の頭をくらませる。一瞬で、アルコールが頭に回って、わずかに平衡感覚が損なわれた。右手で頭を抱えた。顔をしかめているのがよくわかる。けれども、悪い気はしない。むしろ快いくらいだ。ソー・グッドだ。息を吐くと、アルコールの匂いが漂った。ああ、いい気分だぞ。ベリ・ナイス、ベリ・ナイス、ベリ・ナイスな気持ちだ。ナイスな酩酊の兆しが私のなかに芽生えた。しかし、アルコール臭い息だな。
少しだけ、ブラックニッカの瓶を高く掲げる。その向こう側に、高校生のときに買ったパソコンのディスプレイがあった。ろくに使いこなせない、無駄に大きな真っ黒の画面に私は映っていなかった。スマホの液晶には映るのに、何でこいつには映らないんだろうと思った。
電気スタンドの明かりを消した。真っ暗になって、画面の反射がよくなるだろうと思ったのだ。一気にあたりが見にくくなった。
けれども、別に部屋が真っ暗になったわけではなった。街灯の白と、月明かりの青がカーテンのかかっていない窓から流れこんできて、机の上のブラックニッカのラベルもよく読める。アルコール度数の表示を見た。確かに37パーセントだ。金色の文字がうっすらと輝いた。
ディスプレイに私は映らなかった。むしろもっと光の吸収率が上がったみたいだ。その画面を私はじっと見つめた。しばらく待ったけれど、何も変化はない。目が慣れて、ディスプレイ周りのものの輪郭がくっきりしてきた。
手許のブラックニッカが波うつのが感じられた。この液体は琥珀色だ、だが今はわからない。キャップをあけて、ウィスキーの匂いを嗅いだ。アルコールの香りが湧きたってくる。でも、これは実際にはウィスキー自体の香りなのかもしれないな。私はたいして酒を知らないのだ。
ウィスキーを飲んだ。こんどは一口じゃなくて二口だ。濃いアルコールが喉を灼いた。それでも我慢して、もう一口いったのだ。ぐわんとめまいのような揺れが襲った。胸のあたりが気持ち悪い。またしてもむせた。疼く胸元をさすった。だいぶ苦しい。でも悪くないな、アルコールでえずくのは。もちろん、不快だよ。けどさ、苦しいのが私のような気がするんだ。私の人生は苦しむもので、苦しいのが私の人生だ。やっと咳が収まってきた。最後にもう一口だけウィスキーを口に含んだ。気持ち悪い酩酊感がまたやってきた。
(2022.12.1)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます