極苦の代償を持って戦うのはもう嫌だ。だが、守るにはこれしかない

波多見錘

第1話 転移は突然に

新作です。

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 転移した。よくわからんことが起きてよくわからんことを夢で言われてから目が覚めたら、違う世界にいた。


 俺がそう判断を下すまでは数時間かかったのだが、これには訳がある。

 さすがに森の中から森の中に移動したら、転移した感覚も薄いんだ。―――そう、こいつらと出会うまでは、ここで異世界であるということもわからなかった。


 「ゴハッ!?」

 「だ、大丈夫ですか!?」

 「と、とにかく……みんな、急いで家に戻るぞ!この人の治療を!」


 その現地人であろう人たちの声を聞いて、俺は吐血して意識を失った。

 なぜこうなったかというと―――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺の名前は深山直人みやまなおと。YouTuberだ。ジャンルは心霊系で、よくそう言ったスポットに行っては、生配信をして視聴者を怖がらせている。


 この間、登録者数が10万人を達成し、盾をもらったばかりだ。このまま勢いに乗せて、これで食っていけるようになりたいものだ。

 ―――今の職場に文句はないが、やはり俺にはこういう自由なことができることを仕事にしたい。パソコンに向き合ってるのもちょっときつい。


 ほかの人はどんな気持ちで動画投稿をしているのかは知らないが、少なくとも俺の動機は素晴らしいものとは言えない。だが、たまたま人気になれた。だからこそ、退職願を書こうかどうかをとても悩んでいる。


 と、そんな話は置いといて、俺は今、海外の心霊スポットに来ている。


 そのスポットとは、行方不明者が大量に発生している森だ。

 この場所は、かつて戦争で多くの人が死に、その怨念が溜まっている場所と言われている。前述したとおり、ここに来た人がよく行方不明になっている。


 ここで配信すると言った時は、さすがに危ないと反対する意見も多かったが、俺が押し切った。

 視聴者も内心は、見たいと思っているに違いないからな。そんな思いに応えるのが、配信者魂ってもんだ。


 だが、それは間違いだった。この森は不用意に近づくべきじゃなかった。


 配信が、同接数3万を回ったくらいだったかな、それなりに夜も更けてきたころ異変があった。


 ガサガサガサ、と物音が突然し始めたのだ。


 内心ビビりながら、テントの外に出て周りを確認する。


 「誰もいない……」


 誰もいなかった。

 コメントも、多数のアンチコメントは見受けられたが、俺を心配する声や周りを探索して来いというものが見られた。

 よし、視聴者の要望に応えよう。


 「これから、少し探索してみようと思います」


 そのまま俺はテントを出て、周りを撮影し、ネット上に配信した。


 しばらくは大したことはなかったのだが、テントが見えなくなるくらいのところまで見て、さすがに戻れなくなると感じた俺は、コメントを見てテントに戻ろうと思った。


 だが、そのコメントを見つけた時に興味が完全にそちらに向いた。


 『今、女の子がいなかった?』

 「え?女の子?絶対、いるわけないでしょこんな深夜の森の中に」


 だが、配信を巻き戻して確認した視聴者がこんなコメントをした。


 『いや、絶対映ってる』

 『てか、手振ってね?』

 『やばいよ。マジで帰ったほうが良いって』


 さすがに、視聴者がこれだけ言うものだから、俺も配信を少しさかのぼって確認してみた。


 すると、視聴者の言う通りに先ほどテントを出て、進んだ方向とは逆の方向にカメラが向いたときに、木の陰に7歳くらいの女の子がこちらに手を振っていた。


 なにこれ?ガチもんじゃん


 内心怖かったが、俺は決めた。


 「今からこの女の子がいたところに行ってみたいと思いまーす」

 『馬鹿だって』

 『荷物置いて帰れ!』


 そんな帰れコールがコメント欄に響くが、ここで配信をやめたら俺の人気が落ちてしまう。


 クソ親父のせいで、こちとら中卒で働いてんだ。

 少しくらい楽させて生きさせてくれよ。好きなことで食うて行けるくらい人気になるには、こんくらいしないといけないんだよ!


 俺の青春全部ささげて、母さんの貯金と合わせて、どうにか妹2人を大学まで通わせたんだ。後は楽にさせてくれ。


 「はい、ここがさっき女の子が映ってた現場なんですけど……なんもいないなあ」


 現場に戻ってくると、案の定ではあるが女の子はいなかった。まあ、そんなに心霊現象は簡単じゃないからなあ……


 そう思いつつ、テントに戻ろうとすると、見てしまった。


 「ひっ……なにあれ……」


 テントの出入り口から女の子が覗いてる……


 俺は慌ててテントに駆け寄って、中を確認した。撮影してみるも、少女どころか蟻の子一匹いない。


 ん?森の中なのに虫がいない?今、夏だぞ?蚊の一匹くらい、中に入ってくるだろ。


 すると―――


 ゾクゾクゾク、と急に背中に悪寒が走った。


 コメント欄が『走って逃げろ』のコメントであふれかえっている。あふれかえっていたのに、俺は逃げずに後ろを見てしまった。


 「ひっ!?」


 もう2メートルもないであろう距離に、なにも認識できない真っ黒い影がいた。



 ―――――なんだあれ、なんだあれ、なんだあれ!


 俺の五感すべてが警鐘を鳴らした。


 俺は、カメラだけ握りしめ走り出した。今は配信では、画面がとんでもないことになっているだろうが、もう関係ない。


 「まずいまずいまずいまずいまずい!」


 あれはまずい。そうとしか言いようがない。すべてを飲み込むような黒。すべてを否定するような黒。なんにでも負のエネルギーを与えてしまうような黒色の影だった。


 すぐ後ろを振り返ると、その影は俺の追いかけてきていた。


 「うわあああああああああああ!」


 そこで俺の意識は途絶えた。


 『お兄ちゃん!?ねえ、大丈夫!?』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ここは……


 気がついたらわけのわからない場所にいた。


 上下左右、すべてが曖昧。それどころか、なにもわからない。


 俺はその空間で目を瞑り、どこが下だかわからないが、寝そべっているような感覚だ。


 しかし、目を瞑っているというのに景色がわかる。あたりは赤いだけで、なにもない。


 そう思っていると、突然光が俺の目の前に現れた。


 な、なんだ!?

 神?そんなこと言われたって……は!?力を渡す!?なに言ってんだよ!


 光はしゃべってはいないが、伝えたいことは頭に伝わってきた。

 だが、荒唐無稽すぎて何が何だかわからん!


 てか、ここどこだよ!は?元の世界に帰れない?選ばれた?なにに?答えられない?ふざけんなよ!帰らせろよ!


 俺の主張に、光はなにも答えず、これだけ伝えてきた。


 いかなる力も代償を伴う。だが、失う力を増すごとに、お前は神に近づく。


 本当になにを言ってるのか、理解ができない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 目が覚めると、また俺は森の中にいた。

 ズキッ、と頭痛がするが、体調に問題はない。ただ、昨日の出来事と夢の話がどうも引っかかる。


 力……帰れない……選ばれた……


 全部わからん。


 とりあえず、俺は昨日の配信の反応を確認するために、スマホを起動した。だが、スマホは圏外を示し、SNSを見ることができない状況となっていた。


 「あれ?ポケットWifiの充電切れたかな?」


 そう思い、ポケットから機器を取り出すとまだ充電は残っていた。

 ちっ、壊れやがった。


 とりあえず、テントに戻ろう。


 そう思い、俺は来た道を戻ったつもりだったのだが……


 「テントなくね?てか、こんな木あったっけ?」


 道に迷った。

 まあ当たり前と言えばそうだ。思いっきり、方向とか関係なしに走ったからな。だが、この森ってこんなに茶色の幹の木ばっかだったっけ?


 昨日は灰色の幹の木が多い印象だったんだけどなあ……


 ああ、走りすぎて植生が変わったのかも


 しばらく歩いていると、開けた道が見えてきた。

 いやあ、これで森を抜けられるな。


 そう思っていると、突然キンキンと、金属のぶつかり合う音が聞こえてきた。


 なんだ?と思い、そちらのほうを見ると大勢の人に囲まれている馬車?みたいなものがあった。


 なにあれ?いまどき馬車?

 てか、よく見たら全然道が舗装されてねえじゃん。あれ?来たときはもっと舗装きいてたよね?


 え?


 本当になにこれ?











異世界テンプレその1

襲われてる貴族の馬車

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