第23話

 サイドカーにクラウザーくんを乗せて街道を走る。

 クラウザーくんご満悦。

 その……なんだこの陽の者感。

 陰の者である俺とつるんでていいのだろうか?


「お兄ちゃんは陰キャじゃなくておもしろ変人枠じゃね? 頭の中体育会系だし。人と関わって来なかったわりに人見知りしないし」


 セレナが余計な事を言いまくる。

 やめろ……それ以上追い詰めると自分を孤高の存在だと少し思ってる陰の者の心が死ぬ。

 俺を文学読んで真に受けて奇行に走る痛い子に育てたくなければやめろ!


「ギャグ漫画寄りの存在やろがい!!!」


 と不毛な言い合いをしてると王都が見えてくる。

 なんか遠くにいたゴブリンがバイクを見て泣きながら逃げていったが気のせいだろう。


「お兄ちゃん単騎で殺しまくったから伝説の化け物扱いされてるかもー。連中無駄に知能高いし」


 なんかイラッとしたのでライフルで頭を撃ち抜く。

 クラウザーくんが「すごいすごい!!!」って喜ぶので見かけ次第抹殺。

 かわいそう?

 いやないから!

 記録見たら数多の星が人型労働生物の反乱で滅ぼされてるから!

 見かけ次第抹殺が正解なのだ。

 王都に向かいながら数百体ほど始末したころ、後ろから必死の表情の馬に乗った騎士が追いかけてくる。

 え、なになに?

 頼むから報告しなきゃならんことしまくるな?

 なにが?

 え? 戦うな。オーケーオーケー。

 セレナ、上空からスキャン。


「ほいほい。数キロ先にゴブリンの巣発見。なんか砦まであるよ」


 それを騎士に伝えて、攻撃型ドローン起動。

 焼夷弾発射。

 巣ごと焼き払う。

 逃げたゴブリンはショットドローンで撃ち抜く。

 巣焼き払ったよと伝えると大騒ぎ。

 騎士が必死な形相で見に行った。

 もー、今日はこの辺でお泊まりね。

 ドローンに災害用仮設セットを運んでもらって設置。

 残った騎士たちが口を開けて固まってたが気にしない。

 ほら、シャルロットとエリック組長、それにゴードンの兄貴は涼しい顔してるだろ。

 設置が終わった頃、第三王子ことお兄ちゃんと騎士たちが帰ってきてさらに大騒ぎ。


「ななななななな、マコト! なにをしているのだ!?」


「風呂の設置ですよ。そっち男湯。こっち女湯で」


 で、みんなで見学会。


「こっちのテントは二段ベッドになってるんで適当に割り当ててください。こっちは貴賓用にいくつか個室」


「わ、私はマコト殿と同じでいいぞ!!!」


「いや、俺はそっちの二段ベッド……」


 エリック組長にガッと肩をつかまれる。


「マコト殿……マコト殿はエルダー。王族に準じた扱いになります。理解してくだされ」


 近い近い近い!!! 顔が近い!!! わかったから!!!

 と圧に屈しそうになってると、クラウザーくん上機嫌で、


「じゃあ僕と同じテント!!!」


 って言ったらお兄ちゃん大反対。


「だめ!!!」


 とブチギレ。

 そこまで怒る話か?

 結局もう一つテント空輸。

 テント設営してからキャンプの用意。

 といっても焚火は作ってくれるので湯煎して食べられるものと栄養バーに飲料を空輸。あとお菓子。

 酒は……。


「アルコール製品あげてもいいけど、お兄ちゃんは飲んじゃダメね」


 けち。


「だめなものはだめ」


 ふえーん!

 オーダーしてから数時間後に生産完了して空輸。

 飲んだことないから知らないけど昔の年代物のお酒。

 あれは共和国の技術で完全に再現できる。

 データさえあれば歴史上のどんな酒でも再現できるのだ!!!

 要するに本物の美酒の数々が、大量に、あるのだ!!!

 飲んだことないから知らないけど!!!

 まずは騎士が味見。

 顔色が変わる。

 次にお兄ちゃん。

 顔色が変わりエリック組長とシャルロットを呼ぶ。

 ……審議中。


「あー、マコト殿、これどこで手に入れました?」


 シャルロットがソワソワしながら聞いてきた。


「妹が作ったんだけど」


 審議中。

 今度はエリック組長が来る。


「あの……その、これらを作れると?」


「はい。作りたてホヤホヤです!!!」


 審議中。

 なに? なんなの?

 エリック組長が肩をがっしりつかむ。


「婿殿。聞いてくだされ。おそらくこれらは神酒ソーマと言われるもの」


「ほう」


「お兄ちゃん、前々から思ってたけどさ、この星おかしくね? 名前は西洋人種風。ただし地域ゴチャゴチャ。しかも今度はインド神話だよ」


 へー。アレじゃね?

 入植者にいろんな惑星の出身者がいたってことじゃね?

 エリックは続ける。


「神酒はダンジョンや化け物の巣でごく希に取得できます。その価値は領地が買えるほど」


「へー、じゃあこの量だと?」


「……想像もできませんな。とにかく振舞うには上等すぎる代物です。献上しましょう」


「もしかして……献上しないとまずい?」


「献上せねば……この中から誰かが死ぬことになりますな。婿殿は無理としてもシャルロット殿か私か……」


 えー、酒に命張りすぎだろ。この世界。


「じゃあ献上で」


「もー! うまくいかない! じゃあ、お兄ちゃん、アル中御用達ブランドで打線組んだの送るね!」


 なになに?

 合成清酒に、容器がガソリンタンクのウイスキーに、出宇宙前のスーパーマーケットブランド?

 なんでレシピが残ってんのよ?


「安酒愛好会ってのが存在するんだって。共和国の圧力団体で。アル中と肝臓疾患は権利らしいよ。ナノマシンによる解毒に反対してたんだって。みんな死んだけど」


 俺の知らんところでそんなアホの集団が暗躍してたとは……。

 というわけでもう一度空輸。

 リーダー三人のチェック。

 今度は合格。騎士にも配る。

 クラウザーくんには炭酸ジュースを渡す。なお俺もだ!


「なんと!!! 上等な!!!」


「こんな上等な酒飲んじゃっていいんですか!? え? 本当に?」


「この味を記憶に留めねば!」


 と過剰に喜んでもらえた。

 宴会は深夜まで続いたのである。

 なお俺とクラウザーくんはさっさと寝た。

 次の日、騎士たちほぼ全員がダメになったので一日追加。

 懲りずに次の日も酒盛りしたので、その次の日もダメに。

 結局、俺たちはグダグダな状態で王都に到着したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る