第2席 脳内変換

 A:最近、脳内変換がひどくてね。

 B:どうした、いきなり? 脳内変換て何だよ?

 A:目にした文字とか言葉が、脳の中で勝手に変換されて違う言葉になっちゃうんだよ。

 B:大丈夫か、それ? たとえば、どういうこと?

 A:「最近暑いんでエアコンガンガンにして寝る」って文章があるとするじゃん。

 B:ああ。ブログとかツイッターでありそうだな。それが?

 A:それを見ると、頭の中で勝手に『エアガンコンコンして寝る』に変わっちまうんだよ。

 B:何だよ、それ? 寝る前にエアガンをコンコンするって、どういうことだよ?

 A:知らねえよ。脳が勝手にやってんだよ。

 B:気持ち悪いな。お前の脳。

 A:うるせえよ。あとな、「スキマスイッチ」っているじゃん。

 B:ああ。二人組の歌手な?

 A:デュオって言えよ。恥ずかしいな。

 B:良いだろ、別に! 分かりやすくて。

 A:「スキマスイッチ」が「スキマスイクチ」に見えちゃうんだよ。

 B:何だよ、スキマ吸い口って。何を吸うんだよ?

 A:知らねえよ。掃除機のアタッチメントじゃねえのかよ?

 B:……便利そうだな。違うだろ! 「スキマスイクチの全力少年」って何だよ?

 A:知らねえっつってんだろ! アルバイトでビル掃除してる学生じゃねえのかよ。

 B:一所懸命掃除しそうだな! 他にも何かあるのかよ?

 A:「カンガルー便」てあるだろ?

 B:ああ。宅配便か。

 A:あれを見ると、「カツカレー便べん」て脳内変換されちゃうんだよ。

 B:だから、何なんだよカツカレー便て? 下ネタか?

 A:知らねえよ。カツカレーが入った弁当じゃねえか?

 B:……そっちの弁? 書いてくんないとわかんねえよ!

 A:ラテ欄なんか、読むのが大変なんだよ。

 B:たとえば?

 A:「もののけ姫」が「そこの毛ひげ」に見えちゃうんだよ。

 B:どういうシチュエーションなんだよ? とりあえず宮崎駿に謝れよ

 A:脳内変換だから仕方ないだろ! アシタカの顎に剃り残しがあったんじゃねえの。

 B:あったかもしれねえけど! 言わなくていいよ、サンはそういうこと。

 A:  ユーミンの「恋人はサンタクロース」ってあるだろ?

 B:無限に出てくるな?

 A:あれが「冬眠の臭い豚は洗濯する」って変換されるんだよ。

 B:そこまで行ったら無理やりだろ? 何だよ冬眠の臭い豚って。

 A:知らねえよ。間違って半年も冬眠したら、豚だって臭くなるだろうが。

 B:春になって匂いを落とすために洗濯しよう、じゃねえよ! そんな歌ねえだろ!

 A:脳が勝手に変換するんだよ。俺だって大変なんだから。

 B:確かにそれだけ脳内変換が起きてたら生活しにくいだろ?

 A:いや、毎日ヨーグルト飲んでるから俺の腸内環境は最高だぜ。

 B:そこも変換すんのかよ! 腸内環境じゃなくて、脳内変換!

 A:庄内平野? 山形に行く用事はないぜ?

 B:言ってねえよ! お前、脳じゃなくて耳が悪いんじゃねえのか?

 A:気味が悪い? いや、俺は気味が悪いんじゃなくて、意地が悪いだけだ

 B:わざとやってたのかよ? もういい! やめさせてもらうわ


(おわり)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る