白紙の彼女は独りぼっち
小串圭
プロローグ
0.転校生
高2の春。アンドロイドの転校性がやってきた。
「は、はじめまして、私は新川ミコトです。よろしくお願いします」
教師の傍らに立つ彼女は、席に座る僕らに向かって挨拶をした。
新川ミコトの話す言葉は、とても流ちょうだった。機械が音を鳴らしているはずなのに、スピーカーから鳴るそれではなく、喉を震わせた肉声にしか聞こえない。
言葉だけでなく、姿や仕草も自然だ。ぎこちなく強張った表情から、緊張しているように見える。些細な表情のせいで、ロボットである彼女が、感情を抱いているように感じてしまう。
それに造り物だからか、新川ミコトは、まごうことなき、美少女であった。
制服を着た彼女は理想的な女子高生のそれであった。
肩まで伸びた黒髪は艶やかで。端正な顔立ちをしている。おそらく、彼女の姿を見るだけで幸せに感じる人間が大半だろう。その証拠に男子のほとんどが呆けた顔で彼女に見とれている。けれども、女子から反感を買う美麗ではない。どちらかといえば愛嬌のある美しさ。「綺麗」というより、「かわいい」に属する。
新川ミコト自身も、己のビジュアルに自信があるのか、こんな注意喚起をした。
「私はオーバー社で制作された正真正銘のロボットです。見た目や言動は限りなく人間に近いですが、私はロボットです。感情を持った風に装いますが、私に感情はありません。いいですかみなさん。私に感情の一切は存在しません。そこを決して忘れないでください」
つまり、遠まわしに「私に惚れるな」と言っているのだ。
しかし、その注意喚起を言っている素振りすら、人間っぽく見える。
「――テストとして、突然ロボットが来るとのことで、皆さん、驚いたと思います。でも、私は皆さんと友達になりたいです。仲良くしたいです。……だから、……よろしくお願いします!」
結びにミコトはなんだか熱い感情を込めたように言いながら、深々とお辞儀をした。頭を下げるときの表情も完璧だった。哀愁と愛嬌の二つを兼ね備えたその表情は、クラス全員の心を鷲掴みにしたようで、彼女が頭を下げた瞬間、万雷の拍手が降り注いだ。
皆、手を叩いている。
新川ミコトを歓迎している。
ただ一人、拍手をしない奴がいた。
憎しみを込めた目で、彼女を睨んでいる。
僕、青木加地だ。
僕はただ一人、彼女の姿を見て暗い顔をした。
彼女の姿が、過去に、僕を絶望させたロボットと瓜二つだったからだ。
ほぼ反射的に、トラウマが蘇ってしまう。
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