(4)
少し時間は前に遡って、今は昼休み前の体育の授業。
俺、秋宮薪は尾行とは言い難い尾行をして筋肉痛に襲われながらも、なんとか今日の体育の授業を受けていた。尾行で筋肉痛とか、俺は引きこもりかな? はい、正解です。
生憎今日の競技はサッカー。ふざけんな、サボれねーじゃねーか!
スポーツは苦手では無いが、特段出来るわけでもない。それよりあんま人に注目されたくないので、じっとコートの端っこでやってる感を出すのが俺のセオリー。これがペテン師、シナリオ通り。やっぱラッパーになろっかな俺?
と、全国のラッパーを敵に回していると
「お~い、秋宮! 上に行ったぞ~!」
遠くで俺の名前を呼ぶ爽やかな声がした。
――月島だ。
「なにが行ったんだよ~」
いきなり声をかけられ不思議だったので、ありったけの声を張る。
「ボールだよ~ボール~!」
「? ボール?」
意味が分からないと思って上を見たら……太陽が目の目に……って⁉ 降って来た⁉
――ドンッ!
性格には、空から鉛みたいな重さのボールが降ってきた。顔面直撃。しかも鼻の頭に当たった。痛いやつやん。
俺は突然の痛みに耐えきれず。地面に膝を付く。
「うわっ! いって~‼」
「ごめん、秋宮。クリアしようとしたらそっちに行っちゃった」
いつの間にか、傍に来ていた月島。
行っちゃった、じゃねーよ! お前サッカー部だろうが。退部にさせてやろうか?
「それにしても派手に当たったなー」
「た、他人事みたいな言うな。お前のせいだろ」
「ごめんごめん。あまりにも……その……はっは! 当たり方とリアクションが面白かったからついうっかり。っはっは!」
「本音出てんじゃねーか。人の不幸は蜜の味ってか」
もとはと言えば、俺がちゃんと集中してなかったのが悪いのだから、あまり月島に対しても強くは言えない。
「いや、本当に悪かった。次から気を付けるよ」
「頼んだぞ、キャプテンさん」
「蜜とまでは行かないけどね」
「もうそこはどうでもいいよ……」
彼なりに謝ってるし、悪気は無さそうなので、これくらいにしておく。
しといてやろう!
「それじゃあ片付けは……秋宮と月島。お前ら今日当番な」
授業後、まさかの月島と当番になってしまった俺は授業の道具を片付けていた。しかし、今になって考えてみると、まさかとは言ったものの、これは逆にチャンス。月島と仲良くなっておく、とっておきの機会。社交辞令ってやつか。
「よいしょっと……」
倉庫で一人荷物を運んでいると
「外の出し物は終わったぞ、秋宮。残るはあとそれだけだな」
「あ、ああ。了解」
いつの間にか片づけを終えた月島が倉庫の扉に立っていた。
「それにしても、ほんと今日のは面白かったなー」
「お前の方からその話題持ち出すな。それ言っていいの俺だけだからな」
道具を片し終えて教室に戻る際、そんな会話を振ってきた。
「っていうか、秋宮とこうしてちゃんと話すの初めてだな。改めて一年間よろしくっ!」
「こちらこそ、よろ」
「ふーん……なるほどねえー」
「な、なんだよ?」
「なんか秋宮のイメージ、思ってたのと違うな」
「おい、どういう意味だ?」
あれもしかして、今俺煽られてる? さらーっとバカにしてる?
「あ、いやいや。悪い意味じゃなくてね? 実際こうやって話してみたら結構話しやすいし、予想以上に話に乗ってくれるし」
「月島ほどじゃないけどな」
彼のコミュ力は俺とは決定的に違う。天と地の差。こんな差どこで付いたんだろう……日頃の行い?
「俺もそんな高くは無いよ」
謙遜しちゃって~。
「別にこれは自然と身に付いたものだから。俺が望んで手に入れたもんじゃないんだよ」
「色々と大変なんだな」
「まあね。ただ秋宮と話してるとそんなことも忘れるな」
「なに、私のこと狙ってるの? こわいんですけど~」
「っはっは。やっぱ秋宮面白いよ。今のはボール落下事件ぐらい面白かった」
「だったら俺はお前を傷害罪で訴えてやる」
「ひねくれてるなー。内村航平みたいに」
「それはガチでひねってる人やん」
もう突っ込むの疲れたので止めていいですか?
「まあとにかく、これからよろしくな。秋宮!」
なんか、ちょっと話せたらいいなー程度に思っていたら、想像以上に懐かれてしまった。この成果と俺のいじられ度合い。天秤にかけたら少しだけ前者に傾きそうなので、今日はこれで良しとしよう。
だ、だからと言って、お、お前と仲良くだなんて、か、勘違いするなよ⁉
※
「うわっ! いって~‼」
突如、男子の方からそんな断末魔?が聞こえてきて思わずそっちを向いた。
あれは……薪君? どうしたんだろう? ボールでも当たったのかな?
まあ薪君なら仕方ないね、うんうん。
そんなことを考えている私、清水楓は、ふと同じ方向を見ている女子に気が付いた。
「うさぎちゃんも気になるの?」
白石うさぎちゃん。
葉月ちゃんの恋敵(仮設定)のイケイケな女子だ。今日もその夕日に照らされている稲穂のような、金髪ショートの髪をさらりとなびかせて、魅惑的な瞳を向けている。
「あ、いや。なんか断末魔みたいなのが聞こえたから」
確かにあれは死ぬ直前かのような声だった……薪君、生きてるかな?
「やっぱりそうだよね~」
「うん。あと光の声がしたから」
そこで思わず私はウッとなる。
「そうだ。うさぎちゃんさ、最近月島君と一緒に良くいるところ見るけど……」
恐る恐るそう切り出してみる。急すぎたかな……?
「良く見てるねー」
彼女はうっすらと口角を上げる。
「ねーね、楓はなんでだと思う? 私が最近光といる理由」
「……」
挑発とも言えるそんな発言に、私の中で良くないことを考えてしまう。
「そんな深く考えなくていいのに~」
「で、でも……うーん。月島君のことが気になる、から?」
こんな私にしては、思い切って聞いてみた。でも数秒後、この過度な思い込みは呆気なく空回りする。
「……っはっは‼ ちょっとなにそれ~うける~!」
「え、ええ⁈」
「楓の中じゃ、そんな風に見えてるんだ、私―」
「だ、だってうさぎちゃんが思わせぶりな態度取るから!」
私の回答がそんなにおかしかったのか、サッカーの試合中だと言うのに、その場でお腹を抱えて大笑いする。
私はとたんに顔が熱くなるのを感じて、必死になって弁明を試みるも今の彼女には到底届いてないっぽい。
「じゃあ、なんでなのよっ! うさぎちゃん!」
「ええ~……さあね~。まあ、付き添い的な?」
お手上げのポーズを取りながら、うさぎちゃんはすごい意地悪をする子供のような笑顔でそうはぐらかしてくる。付き添いって……全然意味わかんないし。
せっかくいい情報を聞き出して葉月ちゃんに教えてあげようと思ったのに……でも本当になんでだろう? マネージャーだから? でもそれだと最近になって一緒にいることに説明が付かない……なら……うわあ!
分からんっ!
むむむ……うさぎちゃん、なかなかにやりよる。
思わぬところで、彼女に強敵の予感を感じた体育の時間であった。
――ピー!
試合終了の笛が、いつのまにか校庭に駆け巡った。
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