第16話 ヤガミとその仲間たち

 初仕事のドアの解錠がうまくいったのに、なぜかその部屋にいた大男から胸ぐらをつかまれて、宙に浮いてるライト。その大男は、周囲に人がいることに気付いておらず、自分にガーガー言ってくる。


「なんだ、子供の空き巣狙いか!容赦せんぞ!」


 床に投げつけられそうな勢いだ。


『さて、ライト。宙神会の時みたいに、腕力じゃなくて、体全体を使って対処していこう』


 自分自身に話しかけ、ライトの体でも可能なことをやって自己防衛することにした。まず、肩の力を抜き、下腹から膝辺りまで重心が下っているように意識する。床下まで引っ張られるイメージでもいい。


「ぐっ、くっ!」


 大男が両腕でライトの体を持ち上げていたが、急にずっしりと重さを感じ、ふらついて床に下ろそうとしている。はい、定番のスネもしくは膝下付近をゴン!と蹴る。


「痛っ!」


 思わず手を離した所で、ヤガミ一同がライトを隠すように前に出てきた。


「はいどーも、スガルトさん、こんにちは~。子供相手に容赦ないなぁ~」

「え!なんで、あんたらいるんだよ」

「だって、借りた物返さないって、ダメじゃないのさ~。期日過ぎてんの、契約書見てよ」

「そんな言われても、俺文字読めないし」

「日付ぐらい分かんだろうがよぉ。金は返さない、子供には手を出す。自警団に通報しようかな?」

「アンタだって自警団じゃないか!金貸し業者なんてやっちゃダメだろ!」


 初めて聞く内容だったけど、他人からしても踏んじゃいけない地雷な話って、察する時あるよね。


「オレはなぁ、だ。あんな奴らと同じじゃねぇ!」


 体格差はかなりあったのに、ヤガミが前蹴りすると、大男はきれいに飛ばされていた。同行していた3人が取り押さえに行き、ヤガミは室内に入っていった。自分は、モンじいといっしょに少し離れた場所で待機することにした。

 モンじいから、言われる。


「宙ぶらりんな時は、相手のあご蹴るのもいいぞ」

「そんな的確に出来ませんて」

「とにかく、ライトが怪我しなくて良かった」

「また入院するのは勘弁してよ」


 部屋から出てきたヤガミが、イラ立っていた。


「おいおい、スガルトさんよ。どこに金隠してんだ!」

「金が無いから、借りたんでしょ。返すものもないっしょ」


 おー、すごい開き直り。手足を縛られ、袋叩きにあっている。


「そこの二人、一緒に入って探すの手伝ってくれ」


 ヤガミに言われるがまま、室内へ。


「臭っ」


 思わず声が出る程の汚部屋。


「人集めて、これ全部出すか?」

「ヤツに聞いた方が早いでしょ」

「んぁ~、気失ってるから時間かかんぞ」


 そんなやり取りがあり、何気なく聞いてみた。


「ヤガミさ~ん、あの大男が金借りる理由って知ってますか?」

「あいつは、ウチの娼館によく来てたんだ。男娼が専門でな、一人のやつに入れ込んでた」

「あらまぁ」

「あいつに貢物でもしてたかな?おい、ウスター!サルサにスガルトのこと聞いてみてくれ」

「了解しました」


 ウスターという人が走って行った。おそらく7階で話を聞いてくるのだろう。

 今度は、モンじいがヤガミに話をしていた。


「この中で、金になりそうな物は見つかりそうにないが、差し押さえるのか?」

「そうだな、少しでも金にするなら、ネロリ街まで行って売るしかないだろう」

「このコンピュータは、ライトのために欲しいかな」

「そう言って、安く買おうって魂胆だろ?ジジイめ」

「イヒッ」


 外で大声がする。


「おい、部屋を荒らすんじゃない!」


 意識を取り戻したスガルトが騒いでいる。ヤガミが再度通路に出て、スガルトを蹴っている。


「言えよ、おい!金目の物があるだろうが!」


 なんとなく聞いてみたかったので、自分も通路に出てみた。


「ライト、危ねぇから近寄るな」

「すみません、ちょっと聞いてみたいことがあって。スガルトさん、いいですか?」

「なんだ、ガキィ!」

「痛くされるの普段からお好きでしょ?」

「え?」

「こういうのって、小さな手だと効くと思うんですよね」


 手足を後ろで縛られているので、触れるか触れないかギリギリの所で、脇や脇腹をサワサワと手を動かす。


「ひょー、ちょっと待って。待てって。はぁぁん」


 ちょっと引き気味のヤガミが言う。


「ライト、お前ぇ何やってんだ・・・」

「痛みに慣れている人が暴力受けても平気でしょ。予想外の事をされると、耐えられなくなる」

「・・・おい、タルタル、ソイ、手伝ってやれ」


 もう一人いたヤガミ同行者の男たちも、くすぐり地獄に参戦してくれた。とても嫌な顔してるけどね。


「ね~、どこにあるの?言わないと、あと二人残ってるから、くすぐりに参加してもらうことになっちゃうよ」

「このガキうるさいんだよぉぉん、おふぅ、おふぅん」


 ヤガミが口を挟んだ。


「おい、ライト!あと二人って、俺とモンじいのことか?イヤだぞ、俺は」

「・・・ちょっと手伝ってみるか」


 まだ、出番じゃないがモンじいが、意気揚々と参加。


「ライトは、もっと攻めていいぞ。こういう場所だ」

「かっはぁんぬぅ~ん。言う言う!スピーカーの中!」


 奇声を発して、耐えられなくなり白状した。ヤガミが、スピーカーを工具を使って壊すと、中から指輪等、宝石が出てきた。


「なるほど、金が宝石になってたか」


 袋に宝石を入れていると、ウスターが戻ってきた。


「ヤガミさん、サルサから預かってきました」

「ずいぶん贈られてたんだな」


 ウスターが預かってきたのは、やはり宝石等装飾品で、スピーカーから出てきた物より数が圧倒的に多かった。


「サルサも困っていたようです。あまりにも多量に贈り物をもらっているので」

「ん~、これは換金するしかねぇな。」


 頭をボリボリ掻きながらヤガミが指示した。


「まず、2人でスガルトを2階に連れてけ。1人は、この入口で見張り。俺は、人を集めてこの部屋の物全てを回収する」


 モンじいと自分は、また少し離れて待っていた。


「いろいろ世話になったな。これ、代金な」


 モンじいが代金を受け取った。


「ライト、お前ぇは変わってるな。そういう異なる発想が生きるには必要なんだろうな」


 ヤガミがライトの頭をぐしゃぐしゃと撫で、モンじいとライトは鍵屋に戻ることにした。

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