サテライト・リライト

まるま堂本舗

第1話 遭遇

 社内の部署で少し離席して、席に戻ると、メモが置いてあった。


『アダチさんから郵送物です』


 封を開けてみると、タワーマンションモデルルーム見学チケットとパンフレットが入っていた。なんだかよく分からないので、内線でアダチさんに聞いてみることにした。


「ど~も~、アダチです~」

「お疲れ様です、ササキベです。封書見たんですけど、何なんですか?」

「いやね~、タワマンのモデルルーム予約取ってたんだけどね、出張入っちゃって行けそうにないから、あげる」

「自分は、マンション購入とか考えてないですよ」

「そこね、話題になってる場所で、この辺では一番高い建物になるんだって」

「価格が高い方ですか?」

「いんや、階数と価格の両方」

「んなっ、買えるわけないでしょ」

「見学だけでもOKて書いてあるから、差し上げます」


 強引に押し付けられた感が否めないが、40を超えたおっさん枠の人がマンション購入してても、特に問題ないわけで、それなら見るだけでも、話のネタになるのか。一応、営業職扱いだもんな。


 その後、タワマンの予約サイトから、予約を取ってみた。


 週末、予約していたモデルルームに行ってみたんだ。自分の前の予約組は家族連れで、子供が飽きないようアイスやお菓子でのおもてなしも用意してあった。しばらく、待合いスペースで待たされる。


「ササキベ様、大変お待たせ致しました。こちらへどうぞ」


 ようやく別室に通されると、真っ白の床と壁の部屋でドアや開き戸はあるものの家具等がない。


「ここなんですか?」


 そう質問すると、営業用スマイルの女性スタッフがゴーグルを渡してきた。


「弊社のモデルルームは、実際のお部屋空間とVRを合わせておりまして、家具等設備はVR内で組み換え自由となっております。ですので、ササキベ様がゴーグルと操作パネルで配置や天候等を操作しながら、ごゆっくり見学頂けます」


 さっそく、ゴーグルと音声案内ヘッドフォンを装着し、操作パネルを持った。


「ようこそ、モデルルームへ。これから音声案内に合わせて、各部屋をご案内致します」


 玄関から廊下を通って、各部屋を見る前にダイニングキッチンとリビングの方に案内され、大きな窓から見える日中の景色や、もし高層階を選んだ場合の風景とVRならではの環境設定がアトラクションのようで、ちょっと楽しい。女性スタッフは受付に向かったはずなので、誰も見てない。そう思うと、表情出しながら、はしゃいじゃう。


「ここにソファー置いたら、テレビの配置はこの位置だろうな~。結婚したら、子供部屋がこっちで、嫁さんとの部屋が・・・」


 VR空間は、妄想も捗る。すげぇな。家具配置の組み合わせで、楽しく悩める。何もない空間で、おっさんが、座り込んでゴーグル内の映像を確認するため、キョロキョロしながら、ニヤついている。


 再び立ち上がって、脱衣所と浴室の確認をしようと進んでいる時、足元が揺れて、壁にぶつかった。ゴーグルとヘッドフォンを外して辺りを見ると、照明が消え、ホコリっぽかった。


 ゴゴーン!


 衝突音のような大きな音がして、外で交通事故が起きたのか?と。スマホを取り出し、ライトで照らしながら、受付の方まで進んでいく。ドアを開けると、誰もいなかった。相変わらず、外では大きな音が鳴り響いている。


「ササキベ様!早く逃げてください!」


 受付スタッフが外から呼んでいる。慌てて、外に出てみると、ほんの1時間くらいの間で大惨事だ。通りにある車は、落下物により大破しており、周囲のビルも燃えていたり、破損している。人々は、どこに逃げるべきか右往左往して、悲鳴と怒号が聞こえる。

 何が起きたんだ?状況が分からないのに、どこに逃げる?この周辺には、地下鉄が通ってないから、ビルの地下へ逃げ込むか?でも、さっきからガラスの雨が降ったようで、血まみれの人達がいるんだ。道路は、逃げるため暴走した車ばかり。追突事故が至る所で起きている。どうする、どうする。


 グォォン、グォォン


 遠くの空で飛行機が飛んでいるような音がしている。


「まさか、戦争?そういうニュースは今朝言ってないぞ。え~、今朝言ってたのは、何かあったかな・・・。えっと、まさかね」


 思い出したんだよ、ニュースで言ってたことを。


「本日、天体ショーが見られるかもしれません。複数国による『機能停止した人工衛星を大気圏突入で燃焼させましょう』という取り組みで、数十基という人工衛生を順番に角度を変えながら、大気圏へ突入させます。この時、大気の摩擦で燃えるのではなく大気圏に突入する物体は、とてつもない勢いで前方の空気を押しつぶします。その押しつぶされた空気中の分子同士が激しくぶつかり合って熱が発生します。だから、燃えるんですね」


 そうそう、摩擦熱じゃないんだってな。知らなかったよ。って違う!どこかに逃げなきゃ!

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