3-5 新たな魔法を創るぞ! 後編
良いアイデアが浮かんだ。
それはなかなか突拍子の無いことだが、実現出来ればかなりの性能になりそうだ。
「到着だぜ、お二人さん」
「ありがとう、ネジャロさん」
アイデアをくれた少年少女から離れ、人影のない魔物溜まり、元い新たな実験場に到着したトワは、イメージした魔法を創り上げてゆく。
要点となるのは、どんな攻撃も届かないこと。
「……よっし!準備完了。かかってこいゴブリン!」
棍棒を持ったゴブリンに石を投げつけ、ヘイトを取る。
ウギャウギャと喚きながら、棍棒を振り回し突進してくるゴブリン。
それに対しトワは、丸腰のまま突っ立っているだけだ。
当たり前のように棍棒は振り下ろされる。
しかし、それはトワに触れるかどうかのギリギリなところ。
棍棒が消えたと思ったらゴンッと音を立てた。
命中したにはしたが、ゴブリンが想像していたよりも随分下。
トワに一切のダメージを与えることは無いままに、地面を打ったのだ。
「……ギャ?」
「でーきたぁー!」
確かに当てたはず。
そう思ってそうなゴブリンは尚も棍棒を振り続けている。
それを見て大喜びしながら、トワはぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねた。
「アラン!ネジャロさん!みてみて!」
「お、おおー?」
「どうなってんだ、ありゃ?」
ゴブリンがいくら棍棒を振り続けても、それは当たらない。
いや、届いていない。
実験も終了で良いので、不憫になってきたゴブリンにはご退場頂いて――
さて、トワが発動している魔法の原理はこうだ。
体の周りに凝縮した異空間を生み出し続け、古いものから破棄してゆく。
すると、相手の放った攻撃は生み出された異空間に呑まれ、次第に威力を失い消える。
どんなに強力な、例えば星をも破壊する爆弾だろうと、別の星から見ている分には巨大な花火に過ぎない。
究極の当たらなければどうということはない。いやいや、届かなければどうということはない戦法である。
「ネジャロさん、大槌で攻撃してみてください。
アランは
「いや、さすがにそれは危ないよ」
「大丈夫ですって!当たりませんから!」
大切な彼女にそんなことしたくないアランと、編み出した防御魔法の性能を試したいトワ。
平行線な言い合いを止めたのはネジャロだ。
「全力で殺っていいんだな、お嬢」
「もちろん!バッチコーイ!」
止めようとするアランを宥め、ネジャロに向き直る。
当のネジャロはいつもの厳つい顔をさらに厳つくして、トワ作の石の大槌を振りかぶる。
「いくぜ、歯ァ食いしばっとけ」
大槌は勢いよく振り下ろされ、トワを叩き潰さんとするが
やはりその体に触れる寸前で消え、一瞬の後爆音を響かせ地面に激突した。
「フー……お嬢が大丈夫だって言うんだからそうなんだろうとは思っていたが、本当にワケがわかんねぇな」
そんなことを呟くネジャロは、大槌でゆっくりとトワを打っている。
左から右に、右から左に。
トワに触れるはずの時だけ大槌の先端が消え、体から外れると元に戻る。
まるで実態がない。ホログラムでも攻撃しているかのようだ。
「ほら、大丈夫だったでしょ!次はアランの番ですよ!」
なおも心配そうなアランに近づき耳打ちする。
「じゃあ、攻撃してくれたらキスしてあげますから」
「……分かった」
甘い誘惑を囁かれたアランは、歯ぎしりしながら抗っていたが遂には負け、目の前に立つトワに掌を向けた。
『精強なる風よ、刃となりて、敵を切り裂け。
これに切り裂かれた魔物は幾度も見てきた。
向けられた掌から数センチも離れていないが、心配する必要は無い。
やはり無傷だ。
「よしッ!完璧!」
傍から見たらまあ不自然だが、盾がふよふよしていたりしないし、恐らくどんな攻撃でさえも無効化できるのだ。
多少ことを差し引いても宝くじの高額当選ほどのお釣りが出るもんよ。
それも冒険者ランクをあげるまでの辛抱だしね。
異空間を鎧のように纏う事にちなんで『
おっと忘れてはいけない
「ありがとアラン。ちゅっ……」
「あっ……」
――ちょっと、そんなに恥ずかしそうにしないでよ。こっちまで恥ずかしいじゃん……
そばでニヤニヤするネジャロに落ちていた木の枝を投げつけ、ブラックウルフたちで憂さ晴らしをしに行く。
5匹にもみくちゃにされ、ているように見えるがヤツらは何も無い空間を噛んだり引っ掻いたり。
完全に無害なわんころと化したウルフたちは案外可愛く感じ、倒さずにそのままおさらば。
顔の火照りも収まったところで、そろそろ宿に帰ることになった。
その前に、ギルドに寄って魔石や素材の換金をしなければ。
二日間、トワの実験体になり、ネジャロにのされ、アランに切り裂かれた魔物の総数はかなりのもの。
「下位魔石80個。ブラックウルフの毛皮が28枚に、レッドウルフの毛皮が7枚……
えっと買取金額が……ちょうど金貨一枚になります」
「おぉー!」
「お、おめでとうございます。
貢献度が一定に達しましたので、アラン様トワ様は青石級に。ネジャロ様は緑翠級となります。
新しいプレートを作成致しますので、少々お待ちください」
駆け出し冒険者が山のように素材を持ち帰ったことで、受付嬢は面食らっていた。
奥で「大型新人だよ!今のうちに唾つけとかなきゃ!」なんて会話が聞こえたが、聞かなかったことに……
それはそうと、新たな魔法だけでなく、冒険者ランクまで上がり、更にはお金もたくさん。とても充実した二日間となった。
新しい冒険者プレートの受け取りを待つ間、大勢からパーティ参加を申請する声がかけられた。
登録から三日で青石級二人と緑翠級一人。
どうもかなり高ペースらしい。
でももう仲間は十分なのだ。
「ネジャロさん。厳つい顔の出番ですよー。適当に愛想笑い振りまいてて貰えます?」
「作り笑いしときゃいいんだな。任せろ」
ただの笑顔。いや、侮るなかれ。
「よォ兄ちゃん。オレたちの仲間に加わりたいなら、それ相応の誠意見せてもらいましょか」なんて音が聞こえてきそうな不気味な笑顔。
スーッと人が掃けてゆく。
だがしかし、空気の読めないしつこいのもいるようで
「僕のパーティにいれてやるから、明日の朝八時に第三ダンジョンの前に来い。僕の伝説の証人にさせてやるんだ。ありがたく思えよ」
こんなことをぬかすバカまでいる。
一体どんなバカか、ツラを拝んでやろうと顔をあげてしまったのが最悪だった。
「へぇお前、平民のくせに良い顔をしているな。僕の妻にしてやる。ほら、宿に帰るぞ」
――うっわ、だるー……
アホなことをぬかすバカは、茶髪でいかにもな感じの顔つきをした青年だった。
親の金で雇われたであろう護衛たちでさえ、困ったような顔でため息をつく始末。
傍若無人なクソ貴族とは、まさにこいつのようなやつのこと指すのだろう。
「悪いけど、この子は僕の恋人なんだ。君はお呼びじゃないよ」
――え!アラン!?超かっこいい!
予想していなかった紳士すぎる姿。
バカから私を隠すように抱いてくれるアランの後ろで、ネジャロもウンウン頷いている。
「は?黙ってろよ平民風情が!」
勝手に言い寄ってきて勝手に恥をかいただけ。
こちとら悪いことなんて何もしていないのに、突然剣で斬りかかってきた。
「ッ!?グッ」
「アラン!?」
なんとか鞘で受けたようだが、咄嗟のことと利き腕じゃなかったこともあり、勢いを殺しきれず腿に深い傷をつくってしまう。
大切な人が傷つけられ、ブチ切れた。
意識が切り替わるような感覚。
そいつは敵だ。殺せ。という感情に支配された感覚。
アランの傷は一瞬で巻き戻され、トワはバカを睨みつける。
「な、なんだよ。その平民が悪いんだ。僕は貴族、それも侯爵だぞ!」
「だから何?クズに変わりないじゃない?」
いっそ
もう少なからず人の目がある。
少しはまともに考えられる理性が残っていたトワは、バカ侯爵に向け掌を向ける。
至近距離での魔法の発動。
そんなもの、普通なら詠唱のスキができるため、体を動かした方が圧倒的に早いのだから悪手だろう。
そう、普通ならばだ。トワの場合は意味をなさない。
何の前兆も無く放たれた
護衛は剣を抜こうとしているが遅い。
もうその刃は破壊してある。
みっともなく泣き叫ぶバカ侯爵を蹴飛ばし、アランを抱きしめる。
「ト、トワ……?」
「私の事を庇ってくれてありがとう。
でも無理は禁物よ。傷つくのは嫌だわ」
「そうじゃなくて、そうじゃなくて!
なんであの人の腕を切ったんだ!」
――腕を切った。だから何?
あれは敵。
敵は殺すか、せめて無力化しないと。
今回はたくさんの人に見られているから、これくらいで済ませてあげただけよ。
剣で斬られるという怖い思いをしたのだ。恐怖でおかしくなってしまったアランを再び抱きしめて、頭を撫でてあげる。
――こうしてあげれば、誰でも嬉しいものね。
後ろでは駆けつけた治癒術師がバカ侯爵の腕をくっつけようと、詠唱する声が聞こえていた。
「ネジャロ。私、間違ってないわよね?敵は消さなきゃ、だわ」
「……まあ、そうだな。その理屈は、まちがっちゃいねぇよ」
――ほら、私は正しい。きっと、アランも落ち着いたら分かってくれるわ。
今回の件は相手が言いがかりをつけて先に攻撃したこと。
トワが使った魔法が、初級攻撃魔法の
そのことを見ていた大勢の冒険者が証言したことで、キツめの注意だけで済んだ。
三人とも問題なくランクアップを済ませ、宿へと帰る。
「次、何かしたら殺すわよ」
壁にもたれかかり、青い顔をしているバカ侯爵にそう呟き、ギルドを後にした。
その夜、アランは一緒のベッドで寝てくれなかった……
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