第40話
ダイブ・ブレーキを開いての急降下爆撃――特に垂直降下爆撃は、対艦攻撃の華といえるだろう。
物量に頼れるのだから、個人技の良し悪しが線化に直結してしまう技術など検討するに値しない、と多くのプレーヤーに切り捨てられた技術は、セコのチームがフューラー・マキシマムへ放つ最初の一撃に相応しい。
――Hit!
全員のHMDに命中を示す単語が躍った。
そしてHit!の次は……、
――1st……Break!
20トン爆弾は、フューラー・マキシマムの3つある装甲の内、1つを破壊したのだ。
「よし、戻ってくる。二枚目を頼むぞ!」
操縦桿を引き上げて上昇していくイーグルは、自分の活路以外を意識から追い出している。
まだ第1甲板を破壊しただけで、第2、第3を破壊する必要があるし、フューラー・マキシマムは甲板がガタガタになっているグラフィックこそ表示されているが、ゲームの世界では飛竜の離陸に支障はない。
「了解」
返事をしたセコは、視界の隅に綾音のグライダーとモモの航空機を捉えた。
「
次からは通常弾での攻撃になる事だけは、セコにとって謝らなければならない点である。
ここだけは主義、趣味から離れてもらわなければならない事は、イーグルも承知の上だ。
「任せておけ!」
補給に戻るイーグルは、心持ち大きな声を出していた。
――ワシはスペックでは戦わん。主義で戦う。
もっと効率のいい方法はいくらでもあるのだが、「効率がいい」という理由だけで押し付けてこないからこそ、イーグルはセコとチームメイトなのだ。20トン爆弾はイーグルが最も好む兵器であるが、使えない事を「我慢しろといわれた」とは絶対に思わない。
「すぐ戻るわい!」
足の遅い攻撃機だがというイーグルだったが、ジョシュアが「チッチッ」と舌を鳴らす。
「オヤッサン、急ぐ必要はナイですよ」
否定の意味だ。
「ゆっくりでイイ。ゆっくりはスムーズ、スムーズは早い。そうデショ?」
相反する言葉が、実は直結するから面白いとジョシュアは笑う。
「それに、こっちの心配は薄れルよ」
笑みを浮かべた顔を眼下へ向けると、フューラー・マキシマムの甲板上で次々と爆発が起きている。
「アヤネの攻撃が始まったら、少しは楽になるカラね」
グライダー上で弓を構えている綾音からの攻撃だ。
狙いを付ける必要がないとなれば、綾音は弓ならば3秒に一回、火縄銃ならば5秒に一回、発射できる。
第2甲板を破壊するには火力が低いが、甲板から飛び立とうとする飛竜を足止めするには十分だ。
「サンボーイ! アヤネが飛竜の離陸も阻止してくれてイル! アヤネに向かっていく飛竜を阻止しマスよ!」
ジョシュアは愛機を旋回させ、綾音が作り出した火の海から飛び立った飛竜を目掛けて飛ぶ。
「ギギ……」
こちらを向けとばかりに放たれた銃弾に顔を上げる飛竜は、飛来するジョシュアに対し、急制動で応えた。
大きな弧を描いているジョシュアも減速しようとしているが、減速と加速は飛竜の方にこそ分がある。
――
それに対し、ジョシュアはフットペダルを蹴る事で対抗した。
機体を無理に水平移動させようとすれば、減速と相まってい失速する。
しかし落下する事で、いわば重力のアシストを得て機体を急旋回させ、直後にフルパワーを掛けて揚力を回復させれば、ジョシュアの機体はS字を描く様な軌跡で飛竜の背後に回り込む!
「
背後の取り合いならば自分の方が上手いと、ジョシュアの銃弾が飛竜を貫いた。
――hahaha.
チーム全員へ送ったメッセージに載せたのは、ヨウと初めて出会った時、指摘されたもの。
それだけノっていると思っている。
背後からもう一匹、飛竜が、しかも死角を突いて来ている事に気付けたくらいに。
「
加速で航空機よりも優れているといっても、ミドルスピードからトップスピードへ移ろうとしている航空機に接近できる程ではないだろう、と一文字を描いて飛ぶジョシュア。
追った飛竜に対し、ジョシュアはセコが以前、ヨウに見せた機動を取る。
機首を上げ、ランディングギアを出し、逆立ちするような体勢で急減速して背後に回り込み――、
「Shoot!」
二匹をあっと言う間に叩き潰した。
「
ネットスラングで「最強!」という雄叫びをあげるジョシュア。
ノっている。
確かに、何もかもが最高に達しているという感覚を覚えてしまうくらいに、ジョシュアの腕は高まっていた。
だからこそ、自分でいった事を忘れてしまっている。
――空戦は、コンバットエリアに入って1分で決まる。離脱のタイミングを考えるんダよ。
このコンバットエリアは敵の間合いという意味であり、既にジョシュアは長く留まりすぎていた。
「ジョシュア、上空! 右上から来てる!」
セコの悲鳴。
それが聞こえた時には、ジョシュアの頭上から激怒状態の飛竜がブレスを吐き出していた。
「
回避しようと全速力を出していたジョシュアは、幸か不幸か直撃だけは回避できたのだが……、
「目か!」
突然、真っ暗闇の中に放り込まれたかのように消失した視界は、キャノビーを割られ、破片が目に突き刺さった事を示している。
バッドステータス・失明。
治癒魔法か、もしくは街での処置で回復可能であるが、航空機に乗っている状態では、どちらもできない。
「ジョッシュが! もも姫!」
何とかならないかと、声が裏返る程、大声を出してしまうヨウであったが、モモからの返事よりもジョシュアの言葉の方が早かった。
「サンボーイ、敵は……フューラー・マキシマムはどこだ?」
何をいっているのかは、この状態でも分かる。
「目の前! ちょっと右!」
いや、この状態だったからこそ、ヨウにも分かったのだ。
「
スロットルを開き、操縦桿を握るジョッシュ。
「――
最大の速力でジョシュアの機体はフューラー・マキシマムに体当たりを敢行したのだった。
その結果は三行。
――DEAD.
ジョシュアが戦闘不能になった事。
そして……、
――2nd……Break!
――3rd……Damage!
第二甲板を貫通、第三甲板を半壊させた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます