第4章「強襲ニンジャ・篁 綾音」
第12話
ソファから身体を起こした女子中学生は、身体の節々から感じた痛みに顔を顰めた。ソファで寝ていたからだろうか。
――寝てたのか。
小柄な彼女の名前は、物語に関わりがない。
身体を起こして見遣る、ソファとセットのローテーブルの上には、ラップのかけられたおにぎりと漬物の皿が。
「お母さん、お父さん……」
女子中学生は手を伸ばすのは、おにぎりよりも先に皿の隣に置かれている手紙だった。
便せん一枚の手紙に書かれているのは、極々、短い言葉。
――リビングまで出て来てくれて、ありがとう。ちょっとずつ、外に出て行けるようになると、お母さんも、お父さんも嬉しいです。
手紙を読んだ後、おにぎりと漬物の載った皿からラップを取る。
おにぎりは塩昆布という渋い具だったが、漬物とセットになっている事で女子中学生は吹き出してしまった。
この組み合わせのダジャレを想像できるのが、彼女のセンスだ。
「塩昆布は、よろこんぶ。お漬物は、お
こういうダジャレを好むのは父親譲り。
母親が用意した手紙を読み、父親が用意したおにぎりと漬物を頬張る彼女の状態は、一言で表す事ができる。
ひきこもり。
原因は、彼女の性格による。
中学に上がってすぐ、教室で荒っぽい男子が流血沙汰になるケンカをした事にショックを受け、それから学校へ行けなくなった。
もう家から出なくなって一年が経過している。
「もう少し……」
それに対する申し訳なさが、彼女の口から言葉になって
「もう少し、待って――」
今でも他人に接する事に抵抗を覚えてしまう。
それでも少し前に進む力をもらえている場所を、
***
その日、部室へ来た女は、ヨウへ不躾た視線を向けた。
「新人?」
それでもヨウは、3人目のチームメンバーへ軽く頭を下げる。
「初めまして。ホント、初心者のヨウです」
射貫くような、または値踏みされるような視線を受けている気がしてしまうので、少々、萎縮してしまっている事を自覚するヨウだが、同時に相手と同じような視線を向けている事は無自覚だ。
その女は、長身アバターを使っているセコ、低身長のアバターを使っているモモの、丁度、中間になるのだから平均的な身長のアバターを使っている。
深い紫というゲームらしい色のショートカットヘアに、卵形の小顔というのも、ゲーム内では平均的といえるだろう。
目を引くのは、寧ろ装備の方だ。
ヨウが「えと……」と、言い淀んでしまう程、露出度の高い「ゲームのくノ一」といわれれば納得させられる外見である。
所在なさげに目をキョロキョロさせていると、モモが可笑しそうに笑い出す。
「ござるとか拙者とかいわないから、緊張しなくていいですのよ」
バカにしているような響きも含まれしまっているのだが、モモは
だからいわれた方も気にしない。
「私は、
握手を求めて伸ばされたヨウの手は、ぱしんと軽く叩かれた。
ただ、よろしくされるつもりはない、というような拒絶ではないらしい。
「見ての通り、忍者よ」
ぶっきらぼうに振る舞うのが、彼女の流儀――モモ姫と同じ「なりきり」だ。このチームでは、相手の言動をポジティブに解釈する事もマナーとなっている。
だからモモがいった「ござるとか拙者とかいわない」というのも、嫌味や皮肉でいっているのではない。続く言葉も同様に。
「この
ヨウに紹介できる、自慢の仲間なのだ。
「すごいんですのよ」
もしスタートがモモ、ヨウ、綾音の3人だったら、鎧竜を撃退ではなく撃破できていたはずだ、と胸を反らせるモモは、その逸らせた胸でヨウの背を押した。
――今度こそ、あんな小さいのでなくって、飛行機に必要な石や金属が取れる鎧竜を狩りましょ。だから、手伝ってっていってしまって。
モモから、そういわれた気がしたヨウは、
「今度、お願いできますか?」
綾音は眉間に皺を寄せてしまうが。
「鎧竜?」
切れ長の目は少々、キツい印象を与えられるが、ヨウは「はい」と頷き、一歩といわず二歩、三歩、近づいていく。
「この前、もも姫と二人でいったんです。でも撃退はできたけど、セコさんが飛行機で助けに来てくれなかったら、斃せなかったです」
「……ふーん」
この綾音の返事も、気のない返事とも聞こえるのだが、そうではない。
セコがパンッと膝を叩いて立ち上がるのは、今のが綾音流の肯定だからだ。
「なら、決定ね」
三人の肩に両手を回し、ぐいっと引っ張る。
「鎧竜くらいを
巣穴から逃げ出してきた子供の鎧竜ではなく、大人の鎧竜を正規の依頼で討伐するのだ。
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