第38話 はんなり佳人とハードボイルドが『贈る』後押し
「ヴィンダさ――わぷっ!」
と言葉を呑んだのも束の間、不意に僕の顔を自分の胸に押し当ててきた!
く、苦しい! やめて! 恥ずかしい!
「気張りや男の子! そや! 帰ってきたらあんたの練習相手になったる! いざちゅう時もたついとったら恥かいてまうやん?」
突然変なこと口にして、ヴィンダさんを慌てて引き剥がした。
「ぶあっ! なななな、なんてこというんですか!?」
「
「……………………………………………………~~~~~―――――ッ!??」
「ぷっ! あはは! そないに顔を真っ赤にしてもうて。ほんまにかいらしいなぁ、みー坊は!」
くそぉ~~~また揶揄われた!
「こぉら、ミナト困っているじゃないの。その辺にしときなさい」
グディーラさんが後ろからヴィンダさんの頭を丸めた紙で軽く小突いた。
「なんや? それともグディーラがみー坊の相手したる?」
「バ、バカ! なんてこと言うのよ! だいだいねぇ――」
「ほんまかいらしいなぁ、グディーラは――」
グディーラさんがヴィンダさんを引き摺り去って、ほっとつくやハウアさんが肩を抱いてくる。
「安心しろ。もしもんときは俺様がどうにかしてやる」
そうだよな。ハウアさんなら。そういう期待が少しある。
「それともこのままなぁんもしないで嬢ちゃんを見殺しにするつもりか?」
「そんなこと出来るわけないだろ!」
「だよな。ならあとはやるだけだ」
怖気づいたところで、故郷の二の前になるだけ。
アルナを
「んじゃ俺からも一つアドバイス。老婆心だと思って聴いてくれ」
ふとレオンボさんが拳を胸に添えてくる。
「男女の間柄で重要なのは感謝の言葉。それと二人が最高の関係だって信じられる
「別にアルナとはまだそこまでの仲じゃ……でも、ありがとうございます」
うん? ちょっと待って、自分は一体何しに行くと思われているんだ?
「んじゃ、いくか! ミナト。嬢ちゃんへ愛の告白をしにな!」
「だぁもう! なんでそうなるんですか! 終わったら好きなだけ揶揄いに付き合いますから! 今はやめてください! さっさと行きますよ! ハウアさん!」
「待って、ミナト」
腹を抱えて笑うハウアさんにうんざりしながら協会を出ようとすると、グディーラさんが引き留めてきた。
「いってらっしゃい。必ずアルナを連れて帰ってくるのよ」
何故か頭を撫でられる。どうしたんだいったい?
「はい! 絶対アルナと一緒に帰ってきます!」
力強く頷き、ハウアさんと共にアルナの下へと向かった。
そして暗闇の元凶である寄宿学校を目指し、町を駆け抜ける。
「ミナト。さっきは悪かったな。お前の言う通り俺様はお前達の気持ちを分かってやれてなかった」
「いいよ。僕も悪かったし、というからしくないよハウアさん」
ハウアさんがいつになく落ち込んでいるので調子が狂う。
いつもは笑い飛ばしたり、
「まったく豪快で、いつも堂々としているハウアさんはどこにいったんですか? 僕達の頼りになる兄貴分なんですから、らしくないですよ」
「……そうだな! こんなの俺様らしくねぇっ!」
本調子に戻ったハウアさんが肩を抱いてくる。やっぱりハウアさんは大胆不敵、傲岸不遜でないと。
「ナマ言いやがってっ! にしてもミナトって意外に
「やめてくださいっ! 自分でもそんな気がしてるんですからっ!」
「悪りぃ悪りぃ。あと、ミナトに一つ話しておかなきゃいけねぇことがあんだ」
思い出したかのように、ハウアさんの口から語られたのは、気絶させられてから後のこと。
何でもアルナ自身、僕の隣にいるのが相応しい人間じゃないって言っていたとか。
私のような血に塗られる醜い人間が近くにいていいはずがないだとか。
「だとよ」
「なんですかそれ? まだアルナはそんなことっ!?」
「おいおい、俺にキレるんじゃねぇよ」
「すいません」
うん……ハウアさんに怒ったところでしょうがないよね。
側にいていいか悪いかなんてアルナが決めることじゃない、そもそも善悪の問題でもない。判断するものじゃなくて望むもの。
「現実的な話をすっと、嬢ちゃんが殺しをやめられるかどうかぶっちゃけ難しいところだな。いずれはやめられるかもしれねぇが、長い時間かかるぞ。ありゃぁ」
「……支える覚悟なんてとうの昔に出来ています」
にぃっと犬歯向きだしにして笑ってハウアさんは頭をくしゃくしゃに撫でまわしてくる。
「そりゃぁそうか。あの嬢ちゃんと付き合おうってんだからな。それにしても相当に面倒臭い女に惚れちまったなぁ、これから苦労するぞ? ま! そいつが惚れるっていうことだな。同時に地獄への片道切符を握るってことよ」
「そんな大袈裟な……でもこんなに大変だとは考えてもみなかったなぁ」
「まぁアルナ嬢ちゃんは特殊だけどよ。あれぐらいの年ならまだいいぜ。グディーラとかヴィンダみたいに歳をとると余計に面倒くさくなる。どっか連れていけとか、美味いもん食わせろとか、他の女を見るなとか。やたらうるさくなるんだよなぁ~」
「またそういうことを言うから二人に怒られるんだよ」
でも、他の女性を見惚れるなっていうのは当たっているかも。
「うるせぇな。ほっとけ、俺様が言いてぇのは男つうのは惚れちまった弱みで、その我儘を聞かなきゃならねぇ。今のうちオスに生まれた宿命と思って諦めておけ」
諦めるかは別として、そういうものだと心に留めていれば気が楽かもしれない。
「そんなの百も承知だよ。けど今は目先のこと! アルナを助けなきゃ!」
「違いねぇっ!」
町を走り回って程無く、寄宿学校の前に到着する。そこは以前アルナが通っていた学び舎。
煉瓦造りで歴史ある建物が、現在は女吸血種に感じた禍々しい象気が漂ってきている。
「くせぇな。血の匂いだ」
「え? そうですね。確かに……」
流石は狼人種。鼻がいい。
指摘されなければ気付かなかった。ということは十中八九アルナが既に戦っている。
僕は呼吸を整え、象気を練り上げ、身体を臨戦態勢に持って行く。
突然ドォーンという轟音ともに青白い閃光が校舎から昇った。
「あれはっ!? アルナの雷!」
「急ぐぞっ!」
時間帯は夕刻だったのが幸いしたのか、校舎内はもぬけの殻だった。
天井はほぼ半壊。煉瓦の外壁にしても半分ぐらいが崩れ落ちている。
雷鳴が騒然と響き渡り、無数の稲妻が昇り、黒血の槍が降り注ぐ。
最早阿鼻叫喚の渦中と化した学舎を進むこと、講堂でアルナ達を見つけた。
「待て」
正面から突入しようとしたら、ハウアさんがまたしても引き留める。
この人はヴェンツェルの時も留めたけど、意気込んだ相手を思いとどまらせる癖でもあるのか?
「上から回るぞ」
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