第2話 OB計測

「今日、月イチのOB計測の日でしょ~?」


「あ……そうだったなぁ」


 OB(オービー。※オコノミバロメーターの略)計測とは、この世界を生きる者全てに義務付けられている、居住地の適正診断計測である。


 この世界には、居住のための階層が六つほど存在している。

 ひと月に一度行われるこの適正診断によって、その者が住むべき場所を自動的に割り出してくれる。

 最も、階層の移動と言っても、毎度毎度人が山のように移動させられるわけではなかった。全体で見ても、ほんの一部の者しか移動する事は無いようだった。


「とりあえず、急いでよねっ! モグモグモグ……ゴクンッ。今回朝から並んでみたいって、シズクが言い出したんじゃない」


シズクは、先ほど見ていた先月までの報告書を、もう一度じっくりと見た。

ただシズクとイリスは、未だに一度として、この【ワースト】の階層から出た事は無かった。


「へーへー」


 イリスの言葉でOB計測を思い出したシズクは、急いで身支度を整えることにした。

計測はそれぞれ地域の役所で行われるのだが、何しろ十二歳以上全員が計測対象だ。毎回、計測日の役所は大混雑する。


「ねぇ、そういえば、なんで今回は朝から並んでみたかったの?」


「出遅れると何時間も並ぶことになったりするからなー。その点、お前の話だと、朝は全然そんな事無いんだろ? 朝早く起きるのなんて俺はごめんなんだが、待たされるのも嫌だからな。たまにはいいかと思って」


 シズクの経験上、待たされる時は本当に何時間も待たされるのである。拷問の歴史に、似たようなもんがあった気がするなとか、某人気遊園地のアトラクション待ちと似てるなとか、それなら遊園地って軽い拷問オンパレードじゃね? とか、色々な妄想に浸るしかなかったくらい暇を持て余すのである。


「それにしても、眠いの我慢してよく朝から並ぶよな。イリスもさ」


「そう? 朝並んでサクッと済ませちゃったほうが気が楽じゃない? ……ていうか、早くしてよ~。待ってるんですけどー?」


「ああ、悪かったな! 急ぐ急ぐ」


 シズクの身支度が終わると、二人は急いで最寄りの役所へと向かった。


 シズクやイリスの住んでいた地域は、丁度田畑と街中の境目付近にあたる、いわゆる街外れの地域だった。


 ただこの地域は、政府の管理する役所へ赴くのに都合がよかった。

 どういった事情なのか、役所も、町から少し外れた野原の方に建てられていたからである。


 毛足の長い絨毯のような草原が続く小高い丘の上に、その役所は構えられていた。政府の運営する公共機関というだけあって、この町でも一、二を争うほど上等で綺麗な外観の建物である。そして当然のように、そこへ向かうための一本道も、コンクリート敷きで整備されている。


 久しぶりに訪れたシズクとイリスは、建物に入る手前で、ぼんやりとその外観を見上げた。


「立派な建物だなぁ、いつ来てもさ」


 白を基調とした、清潔そうなその外観がまぶしい。


「そうだね~。まぁ、早く入ろ? 混んできちゃうし」


 イリスの言う通り、二人の後方から、じわじわと沢山の人々がこの建物を目指して丘を上がってきているのが見えた。

 イリスに手を引かれるようにして、シズクは中に入っていった。


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