第26話 調子に乗ってすみませんでした
前回のあらすじ。
スキルの力を利用してウェイ君にわたくしを褒め讃えさせたら、ウェイ君が激おこな件。
☆ ☆ ☆ ☆
「何を考えているんだ!? 妙な真似をするな!」
「あ、あははは……やってみたらできちゃったのですぞ☆」
「戦闘時に同じことをしてみろ。お前の首を斬り落としてやる!」
「ぬひぇ~ん、申し訳ありませぬッ」
たしかに、モンスターと戦っているときに自分の体を意図せず操られるのは大惨事につながる可能性があります。
怒られるのも当然です。これはさすがに反省せねば……。
「ウェイルド隊長、いったいどうなさったのですか?」
「先ほどまで聖女様を褒めていらっしゃったではありませんか!」
何が起きたのかわかっていない兵士たちに、ウェイ君が事情を説明します。
二人はかわるがわるスマホの画面を覗き込み、戸惑うように顔を見合わせました。
「なるほど。まさに描いた通りのことが現実に起こるのですね」
「モンスターを倒したのはともかく、人の言葉まで操るとは……」
ああッ、視線が痛い。
そりゃそうですよね。わたくしだってここまでうまくいくとは思っていませんでしたぞ。
っていうか、そろそろ返してわたくしのスマホ……。
「調子に乗ってすみませんでした。反省いたします」
わたくしが深く頭を下げると、兵士たちはいえいえと首を振りました。
「それでも聖女様があのグリフォンを倒されたのは事実です。それに、私は今まであのモンスターに対する恨みや憎しみを支えに生きてまいりましたが、なんだか肩の荷が下りた気持ちです」
「そうですよ、聖女様。あれほど見事なスキルを操れる人間は、この国にそう多くはありません。そうでしょう、ウェイルド隊長」
「…………」
ウェイ君はしばらく黙っていましたが、やがて深いため息をつき、スマホを返してくれました。
「いいか、もう二度とこんなことをするな。わかったな?」
「はい。申し訳ありませんでした」
改めて深く頭を下げると、兵士たちも頷きました。
それから二人は改めてグリフォンの死骸へと近付き、その様子を確認し始めました。
「それにしても、見事な消し炭だな……」
「本当に、完全に燃え尽きている」
「これでもう、こいつの餌を調達しに行かなくていいんだな」
「ああ。小型のモンスターといえ運び込むのは重労働だったからな」
薄暗い部屋の中で床に目を凝らすと、グリフォンの死骸のまわりには無数の骨が散らばっていました。その骨格は一般的な動物のそれとは異なり、まさに「異形」という言葉がふさわしい形をしています。
ここへ来たときに感じた刺激臭も、グリフォンの餌となったモンスターたちの死肉が腐敗したことによって発生したものだったのでしょう。
いくらグリフォンの使い道があるとはいえ、家族を殺したモンスターを生かすために『餌』を運び続けた兵士たちの気持ちを考えると、やるせなくなります。
二人は「これで明日から仕事をさぼれるな」なんて軽口を叩き合っていましたが、ふいにウェイ君が厳しい声で言いました。
「おい、二人ともすぐにそこから離れろ」
「どうしたのですか、ウェイ隊長」
「不死鳥じゃあるまいし、こいつはもう動きませんよ」
「いいから離れるんだ!」
その言葉が終わらないうちに、地下牢に醜い咆哮が響きました。
ピギャァアアアアッ!
鳴き声の正体を確認するよりも早く、衝撃音とともに兵士の体が勢いよく飛ばされていくのが見えました。彼の着ている鎧が耳障りな金属音を立て、体ごと床の上に落ちてゆきます。
見れば、すっかり消し炭になっていたはずのグリフォンがいつのまにか立ち上がり、怒りに満ちた鋭い目つきでこちらを睨んでいました。
その姿はわたくしが地下牢へ来たときと変わらないように見えます。
まるで時間が巻き戻ったかのような感覚にわたくしは戸惑いました。
「なッ……どうして!?」
グリフォンの攻撃を受けた兵士は、床の上に倒れたまま動きません。
その腹部からは大量の血が流れ出しており、彼の体からみるみるうちに命が失われていくのがわかりました。
「ひ、ひぃ、こいつ死んだはずじゃ……!」
もう一人の兵士も、腰を抜かしてその場に座り込んでしまっています。
ふたたびグリフォンが足を振り上げた、そのとき――。
空気を揺るがす轟音とともに、一閃の炎が放たれました。
ピギャァアアア!!
グリフォンがひるんだ隙に、ひらりと舞うように飛び込んでくるウェイ君の姿が視界に映りました。
彼はあざやかな動きで剣を操り、グリフォンの首筋を狙って一撃を与えます。
グリフォンは鋭い鳴き声を上げ、異形の翼を大きく広げました。
地下牢に強風が巻き起こり、ウェイ君はその風を利用するように素早く後ろへ飛んで距離を取ります。彼は慎重に次の一手を見極めている様子でした。
息を詰めるほどの緊張感の中、彼は床を蹴って風のように素早く跳びます。
鋭い爪を持った前足がウェイ君に向かって振り下ろされますが、彼はそれを素早く除け、一気に間合いを詰めました。
その剣先がグリフォンの首に触れた瞬間、鋭い刃が肉を切り裂き、血しぶきが飛び散るのが見えました。
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