第32話 スマホの電池残量が12%!?
☆ ☆ ☆ ☆
階段を上り、廊下の奥へと身を潜めます。
どうやらウェイ君はまだ追ってこられないようです。思いのほかスキルがいい足止めになっているようですな。
しかし、階段を上ってしまったのは失敗でした。
城の出口は一階にあるはずですが、これでは遠ざかってしまいましたぞ。
階段にはまだあの兄弟がいるでしょうから、通れば見つかってしまう可能性が高いです。ショタ君にかけたスキルの効果時間もそろそろ切れる頃ですから、二人の混乱も収まっているでしょう。
おまけに、急いで逃げたせいで途中で靴が脱げ、どこかに落としてしまいました。
お借りしている革靴なので見つけなくてはまずいのですが、さすがに今の状況で靴を探しに行くのは呑気過ぎるというものです。
ウェイ君に捕まったらどのような目に遭わされるか、想像したくありませんぞ。
それでは、いよいよ【奥の手・その6】を使うことにしましょう。
方法はいたってシンプル。わたくしは黒猫の姿に変身し、素早く階段を駆け下りました。なお、正確には猫ではなく「ヌコ」と呼ばれる、こちらの世界のみに生息している生物なのですが、城の中庭で見かけたときに猫と見た目がほぼ変わらなかったので今回は猫で代用するものとします。
肉球に床の感触をしっかりと感じながら、全身の筋肉を伸び縮みさせて軽やかに走り抜けます。
おおおっ、猫の姿はとても身軽ですな~!
人間の姿のときに階段の上り下りだけで息が切れていたのが嘘のようですぞ!
最初からこれで逃げればよかったのかもしれませぬ。
途中、わたくしを探して目を血走らせているウェイ君と、兄の剣幕に戸惑っているショタ君の姿が見えました。
ここはサクッと通り過ぎてしまいましょう。
きっと今なら自由に駆け抜けられるはず!
……だがしかし。
ウェイ君の手が伸びてきて、わたくしはあっさりと捕まってしまいました。
彼は的確に
本当に、彼の身体能力はどうなっているんですかね?
ともあれ、こうなったらとことんシラを切るしかありませぬ。
彼につまみ上げられたまま、わたくしは精一杯猫らしく鳴いてみせました。
「ぬぁ〜ん(棒)」
「なんだヌコか。驚かせて悪かったな。どこから入ってきた?」
どうやらわたくしだと気付いていないようです。
それにしてもウェイ君ったら、ネコチャンに対してはずいぶん優しいじゃないですか。できればネコだけじゃなく
「兄様。このヌコさん、聖女様の髪の色と同じですね」
おっ、さすがショタ君。いいところに気付きましたな!
でも今は気付かないでほしかったですぞ!
「あいつより毛並みが良さそうだがな」
「もう、兄さんはそればっかり! 少しは聖女様にも優しくして差し上げてください!」
そうだそうだーッ!!
抗議をするように身をよじると、ウェイ君がぽつりと呟きました。
「野良にしては人慣れてる感じだな」
「でも、食堂では見かけたことがありませんよ?」
「もしかしたらあの
「ああ、きっとそうですよ。離してあげましょう!」
「ぬぁ〜ん?(棒)」
催促するように鳴くと、ウェイ君は「わかった、わかった」と言って解放してくれました。
あっけない解放に戸惑いつつ、わたくしは好機とばかりにその場を走り去りました。結果オーライですぞ。
ほとぼりが覚めるまで、しばらくどこかに身を隠すとしましょう。
☆ ☆ ☆ ☆
廊下の隅をとっとこ走り、わたくしは手近な部屋にするりと入り込みました。
兄弟の姿がすっかり視界から消えると、ちょうどスキルの有効時間が切れたらしくわたくしはふたたび元のガチヲタに戻りました。
スマホの充電残量を確認すると、もう12%しか残っておりません。
こちらの世界ではスマホを充電する手段がなさそうなので、省エネモードに切り替えたり、なるべくスリープ状態にしておくなど節約して使うようにしていたのですが、それでもいずれ電池残量が尽きることは避けられません。
先ほどわたくしの分身を大量に生み出したように、ペイント系アプリの機能を使えば同じ絵を量産するのに便利なのですが、充電が切れてしまえばあの手はもう使えないかもしれませぬ。
それに、スマホは壊れやすいものなので取り扱いにも注意せねばなりませぬ。
当分はスケッチ帳とペンでしのぐしかなさそうです。
あらためて見回してみると、今いる場所はなんだか不思議な作りの部屋でした。
奥に細長く、部屋というよりは廊下のような印象を受けます。
床には上等な絨毯が敷かれ清潔に保たれている様子でしたが、カーテンはすべて閉め切られ、家具がひとつもなく、生活する場としては少し息苦しく感じられました。
城内のほぼすべての場所はショタ君に案内されて知っているつもりでしたが、この部屋に来るのは初めてでした。
それにしても、逃げてくる途中で片方の靴を落としてしまったので足元がいかにもアンバランスで歩きにくいですぞ。
わたくしは残っていたもう片方の靴も脱いで手に持ち、床板の硬さを感じながらゆっくり部屋の中を歩いてゆきました。
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