第四章 逃亡劇
第29話 あんなところにモンスターが!
これまでのあらすじ。
【悲報】漫画スキルに弱点があることが判明。
聖女として異世界召喚されたわたくしは、『絵に描いた内容の通りに現実が変わる』という一見チートっぽいスキルを手に入れましたが、そのスキルにはふたつの弱点があったのです。
ひとつは『スキルの発動に時間がかかる』こと。
これは絵を描いて発動させるため仕方がないことなのです。ただ、きっと工夫の余地はありますぞ。
もうひとつは『スキルに時間制限がある』こと。
有効期限が過ぎるとスキルの効果が消えてしまうのです。これでは傷の治療にさえ使えません。
それだけでも悩ましいのに、実はもうひとつ重大な問題があったのです――。
☆ ☆ ☆ ☆
「聖女が脱走したぞ! 捕まえろ! 城から出すな!」
広い城内に怒声が響き渡ります。
怒鳴っているのはウェイ君で、脱走したという聖女はもちろんわたくしです。
だって、お外に出してくれないから悪いのですぞ。
この世界に召喚されてから三日目。
わたくしは未だ城の外へ出ることを許されておりませぬ。
この世界へ来てから日も浅く、とくに城外の様子はまったくわからない状態なので、外出にはどうしても案内が必要になります。
ジオ司祭の話では、騎士であるウェイ君を案内役にするとのことでしたが、わたくしが外に出たいと言っても彼はいっさい首を縦に振りませんでした。
曰く、モンスターが危険だの、スキルの弱点がどうだの、外に出たら死ぬだの。
現状を訴えようにもジオ司祭や創始の聖女様はとてもお忙しいらしく、お会いすることさえままならぬ状況です。
少ない楽しみといえば、一日三度のお食事と、ショタ君や兵士の皆さんとの会話、あとはもらった紙とペンとインクで城内の様子をスケッチすることくらいです。
漫画スキルは絵を描いて発動させるのだということを知った兵士の一人が、スケッチ帳のようなものを作ってくれました。紙を束ね、穴を開け、紐で綴じ、首から掛けられるようにしたものです。
最近ではそれを下げて城内を見学するのがマイ・スタイルになっております。
なお、城内についてはすでにほとんど見学済みです。
それというのも、ショタ君が張り切って案内してくれたからなのです。
「兄様! 聖女様に城内を案内して差し上げたいです!」
「名案だな。見たら満足して大人しくなるかもしれないしな」
「ありがとうショタ君! ついでにお外も見てみたいですぞ!(懇願)」
「お外は危ないのでやめましょう、聖女様(にっこり)」
「そうだな。外はやめておけ。死ぬぞ貧弱聖女(むっすり)」
……というやり取りがあったとか、なかったとか。
ウェイ君とショタ君は、性格が正反対なのに意見は合っているあたりがやっぱり兄弟ですなあ。
そんなことを思い出していると、背後からぬっと手が出てきてわたくしの襟首をがっちりとつかみました。それと同時に耳元でウェイ君の怒声も聞こえてきます。
「つかまえたぞ、ちょこまか聖女! さあ、さっさと部屋に戻るんだ!」
「いーやーでーすーぞー! きゃー! 放してー! 人さらいー! 堅物騎士ー!」
これだけ騒いでも、周囲の皆さんはすでに慣れっ子です。
兵士も侍女も「おい、またあの二人やってるよw」「仲がよろしいですわね」などと微笑みながら眺めているのです。うわーん!
「勝手にうろちょろするなと言っただろう」
「そうはいくか! こちとら異世界見学中なのです!」
「わかったわかった。城の中を好きなだけ見学していいぞ」
「もう見ました! 三周はしましたとも!」
「遠慮するな。もっと見ていけ」
「正直飽きましたぞ! でもわたくしが喜ぶとショタ君も嬉しそうにするので、ついこちらも喜ぶフリをしてしまいますぞ!」
「そうか。そのまま演技力でも鍛えるといい」
「そろそろ主演女優賞が取れそうな勢いなのですがッ!? 同じ場所を何度も見るばかりで、そろそろキツイですぞ!」
「そうか。でも城の外には出るな」
「ぬがーっ!」
この堅物騎士、まったく話が通じませぬ。
こうなったら【奥の手】を使っちゃいますぞッ!
わたくしは大げさな動作で、廊下の曲がり角に向かって人差し指を向けました。
「あっ、あんなところにモンスターが!(棒)」
「なに! どこだ!?」
本職の女優が見たら笑い出すようなわたくしの三文芝居でしたが、ウェイ君は途端に血相を変えました。彼は剣に手をかけ、廊下の奥へと駆けていきます。
ヨシッ、今のうちに逃げるのですッ!
わたくしは首から下げていたスケッチ帳を素早くめくり、あらかじめ描いておいたイラストを見つけ出します。
その上下には少し余白があり、わたくしはそこに今いる場所の簡単なスケッチを描き入れました。そして、効果も描き入れます。
サインを入れようとしたそのとき、ウェイ君の怒声が廊下に響き渡りました。
「おいっ、ほら吹き聖女め! どこにモンスターがいるんだ!」
おや、どうやらわたくしの嘘に気付いたようですな。
彼は足を踏み鳴らしながらこちらへ近づいてきますが、もう遅い。
サラサラッと素早く署名を書き入れます。
次の瞬間、周囲の光景ががらりと変わりました。
わたくしの体は先ほどまでいた廊下を離れ、別の場所にいました。
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