癒しの力を使えない聖女ですが、ガチヲタゆえ【漫画スキル】で奮闘しますぞッ!
ハルカ
序章 異世界召喚
第1話 ガチヲタ、異世界に召喚される
――午前1時53分。
すっかり深夜だというのに、わたくしは同人誌の〆切に追われてパソコンに向かっておりました。
「寝るな
そう自分自身を奮い立たせつつ、液晶タブレットにペンを走らせます。
三徹目のまぶたは重く、気を抜けば一瞬で眠りの世界へ引きずり込まれそうになります。
だがしかし! 本日中にデータを入稿しないと、次回の
ヲタクの端くれとして、作品を愛する者として、それだけはなりませぬ!
サークルスペースの机に「新刊落ちました」と書いた看板を掲げなくてはならぬ、あの絶望と屈辱。想像するだけで身が震えます。
ああ、時よ止まれ。
止まってください、お願いしまぁぁぁすっ!!
朝から5億回はそう願っているのに、時が止まる気配はありません。ぴえん。
こうしているあいだにも締め切りの時間はじりじりと迫ってきます。
「おっしゃオラオラァッ! ファイトォォオ
ブーストをかけるべく、机の上の栄養ドリンクに手を伸ばします。
だが悲しいかな、あるのは空の瓶ばかり。
締め切りまではあと22時間と少し。確実に入稿を終えるまで気は抜けません。
これは早急に
疲労ピークもなんのその。
愛用の黒縁眼鏡をグイッと上げ、気合でどうにか椅子から立ち、パーカーのポケットにスマホとお財布を突っ込みます。
いざ行かんと振り返ったとき、視界に青白い光が飛び込んできました。
う~ん、朝日が青い。
徹夜のし過ぎで目がおかしくなりましたかな? しかし時刻はまだ深夜。
よく見ると床の上には人ひとりが立てるほどの大きさの円がありました。
円の中には緻密な模様が描かれ、文字のようなものも並んでいます。青い光の正体はどうやらこの円のようです。
「おや、こんなところに魔法陣が」
かような奇妙な物を作った覚えはありませんが、コスプレ用の小道具でしょうか。見れば見るほどハイクォリティですぞ。
ホログラム?
魔法陣からは、あたりを浄化するかのごとく清らかな光の柱が立ち昇っています。
その光に照らされて、部屋の壁や床、それにコミックス雑誌や同人誌、フィギュアやキャラクターのぬいぐるみやポージング人形、あとアニメキャラの抱き枕など無数のヲタグッズが青く染まっています。
光は見る者を誘うように明滅をくり返し、なんかセーブとかできそう。
もしくはもしくはHP・MP全回復とか、ステータス異常を回復してくれるとか。
「どうせなら三徹目の疲労と眠気も回復してくれると助かりますなぁ~」
そんな冗談を言いながら魔法陣を踏んだ刹那。
わたくしの体は、光の中心に向かって勢いよくシュポッと吸い込まれたのであります。
☆ ☆ ☆ ☆
「うひゃあぁあああぁッ……ぁあ、あれ?」
吸引力を感じたのはわずか一瞬。
はは~ん。さては、ただの立ちくらみですかな? 不摂生はいけませんゾ☆
などと思いながら足を踏み出すと、靴下ごしに伝わってきたのは我が家の絨毯ではなく砂利の感触。
「えッ?」
おそるおそる目を開くと、眼前には戦場さながらの光景が広がっていました。
もうもうと舞い上がる砂埃、漂う血のにおい。
響き渡る怒号や唸り声、硬い金属同士がぶつかり合う音。
周囲では鎧をまとった者たちが武器を手に戦っています。魔導士や神官のようなローブ姿の者もいます。
しかし、その戦いの相手はどう見ても人間ではなく異形の生き物。
まさにゲームや映画で見たゴブリンやコボルトそのものです。人間離れしたその体躯は、着ぐるみや特殊メイクなどではなく、機械の動きとも思えません。
「な、なんぞこれ……!」
困惑していると、周囲の人々がわたくしを見ながら口々に何かを言っていることに気付きました。
異国の言葉らしく、意味はわかりませんが、やたらと【セイジョ】という言葉が耳につきます。
しかも、心なしか皆さん、期待を込めるような目でわたくしを見ているような。
「セイジョ、せいじょ――――えっ、せ、せせせせ聖女!?」
ひょっとして【セイジョ】って、あの【聖女】でしょうか!?
怪我を治したり祝福を与えたり結界を張って国を守ったりするやつ!?
なぜわたくしが聖女に!?
その瞬間、わたくしはすべてを悟りました。
これ、漫画とかアニメとかラノベとかWeb小説とかで見たやつだーーー!
主人公が異世界に飛ばされて、勇者だったり聖女だったりチートだったりレアなスキル持ちだったりで、無双したりざまぁしたり追放されたりするやつだ!
「つ、つまり異世界ッ? ここ異世界なのですか!? わたくし異世界召喚されたのですかッ!? わたくしが聖女!? ただのヲタクですぞ!?」
今まで読んできた数々の作品のシーンが嵐のようにぐるぐると駆け巡ります。
勇者や聖女が召喚されるのは、その世界に何らかの問題が起きているとき。
そしてここは戦場。目の前には無数のモンスター。
もしかして、わたくしがなんとかしなきゃ全滅エンド!?
どっ、ど、ど、どうしたらいいのでしょう!?
とりあえず、こんなときに使える言葉をひとつだけ知っています。おそらく、どこの異世界でも通用するはずです。
わたくしは声高らかに叫びました。
「ステェェェタスッッ! オォォォプンッッッ!!!!!」
やけくそでしたが、なんと空間にパネルのようなものがシュンッっと開きました!
――――――――
【名前:未登録】
【職業:聖女】
【レベル:1】
【HP:1】
【MP:∞】
【特殊スキル:漫画】
――――――――
さいわい日本語にも対応している様子。これは助かるッ!
ひとまずこの場を打開できる策はないかと素早く目を通します。
えっと、職業は……うわぁあん、やっぱり聖女だったーッ!
そんなことより、うわっ……わたくしのHP、低すぎ……? ミジンコ並みじゃないですか! かすり傷で致命傷になるレベルなのではッ!?
こんな危機的状況で知りたくありませんでしたぞ!
そして、もうひとつ気になることが。
それは【特殊スキル】。
よくある異世界ものですと主人公にチートな特殊能力が与えられるパターンが多いのですが、わたくしに授けられたものは――、
「ファッ!? ……ま、漫画ッ!?」
もしかして漫画を描けと? この状況で?
この異世界の戦場のど真ん中で――ッ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます