3つ星ピエロ 第1章
悠山 優
プロローグ:サーカス団
とある国の小さな港町。
潮の香りが街全体を包み、心地良い風と小鳥のさえずりが鼻をくすぶる。
「はぁ…はくしゅん!」
漁業と農業が盛んな"イシュメル"という街に
「リズワルド楽団」というサーカス団が街に賑わい届けに来ていた。
サーカス団が街に滞在するのは5日間。
初日の客寄せから始まり、5日目のフィナーレ公演には沢山の人々が来場する。
そしてまた次の街へと旅立つ、移動式のサーカス団である。
今回このイシュメルに訪れるのは2回目である。
5年前に訪れた時と街並みも活気もまったく変わらない落ち着ける街だ。
「寄ってらっしゃい、観てらっしゃい~
今この手にある不思議なボール、なんと言うことでしょう、一瞬にして!小鳥に早変わりだぁ」
数人ほどのお客さんの前で客寄せをするのは
リズワルド楽団に所属している
ピエロの"ウィル"だ。
ピエロといえばトレードマークの赤い鼻に白い顔と涙のメイク。二股に別れたカラフルな帽子から伸びるオレンジ色の髪、腰までの長さの髪を三つ編みにしている。
「すごーい!ピエロさん魔法使いみたい!」
目を丸くして喜んでいる少女が1人、
ぱちぱちと拍手をしながら話しかけた。
「そうだよ。ぼくは魔法遣いさ。ほらみてごらん」
ウィルは少女に近づき指をパチンと鳴らす。
すると鳴らした指先から黄色い花がポンと顔を出す。
「はいどうぞ、お嬢さん」
「わーい、ありがとう」
一緒に来ていた母親らしき女性が「ありがとうございます」と微笑み軽いお辞儀をした。
「さぁアリシア、お家に帰りましょうね」
「は~ぃ。ピエロさんまた見に来るからね。
バイバイ」
「バイバイ」
少女は手を振り母親と一緒に帰っていった。
(アリシアちゃんっていうのか、覚えとこ)
とウィルは心の中で思った。
「さぁ皆さん!リズワルド楽団の余興を存分に楽しみたい方は5日目のフィナーレ公演にぜひ足をお運びください!お待ちしております。
リズワルド楽団ピエロのウィルでした。」
まばらな拍手の後、観客たちはその場を立ち去った。
この街に滞在して3日目の客寄せが終了した。
ウィルが道具の片付けをしていると背後から声がした。
「おい、ウイルス。ちゃんと客捕まえられるんだろうな。」
リズワルド楽団の団長の息子の"ネルソン"だ。
団長は2年前に病気を患い他界。
その後、ネルソンが後を継ぎ17歳にして団長をしている。
「おまえガキの子守りばっかしてねぇで、大人を客寄せしろよな。ガキなんて金にならねぇんだからな」
「わ、わかりましたよ…」
まぁ、この一言で分かる通り、金儲けのことしか考えていないヘソ曲がりである。
ネルソンは一言だけ言ってフン!と鼻を鳴らし去って行った。道端に落ちていた空き缶を海に向かい蹴り飛ばした。
「相変わらず荒れてるわねぇ、ネルソン」
「お疲れ。ウィル」
すると街の反対側で客寄せをしていた
"シエル"と"マイル"がウィルの元へ歩いてきていた。
シエルとマイルは双子の姉弟でリズワルド楽団では空中ブランコとトランポリンを使った息の合った技を得意とする、リズワルド楽団では人気の二人である。
二人は誰がどう見ても美男美女の双子。
赤い髪と褐色の肌、エメラルドの様な瞳が魅力的な二人。姉のシエルはナイスバディで弟のマイルの方が姉より背が高い。
「あぁ、シエルとマイル。お疲れさま。」
ウィルは二人に手を振り、ニコっと笑った。
「まぁ、気にするなってその分俺たちが客寄せしてやるよ。飯食い行こうぜ。」
とマイルはウィルの肩に腕を回し、体重をかける。
「ぉ、重いよマイル…」
「わたしミートパイが食べたいわ、この街のミートパイのお店美味しいのよ。よく覚えてるわ」
シエルは右手でお腹を擦り、左手はウィルの手を握る。
「いきましょ♪」
「はいはい」
支えあえる仲間って良いなぁ、と最近よく考えるようになった。
なんだかんだ楽しくやって行けると思う
そんなぼくの出会ったサーカス団の物語。
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