狭間で逢いに来て

リアドリー


「やあ!また来たね」

ここが一体何なのか、私には分からない。けれど、居心地がいい事だけは確かだった。ここを管理する彼曰く、ここは夢と現実の狭間の場所で、名前をリアドリーというらしい。ここに来れる条件があるらしいけれど、それは彼にもわからないようで、私が突然来た時はすごく驚いたそうだ。

「ここができて、初めての人間のお客さんだからね。僕だけじゃなくて、他のお客さんもびっくりしたよ」

ここに何回か来て私が分かったことといえば、リアドリーはピンク色と水色のもこもこした空間がずっと先まで続いていて、この空間では何かを痛めつけたり、傷つけたりする行為全てが強く禁止されていること。そして、ここに来る彼ら彼女らは夢の中でしか見ないような不可解な姿かたちをしているのだった。不可解な姿かたちをしているとはいえ、話せばコミニュケーションがとれるし、意思の疎通ができる。完全な人外ではなさそうだけれど。

「八千代さんこんにちは。また来たのね」

クラゲと麦わら帽子が混ざったような彼女、マリーは、度々ここを訪れては、美味しいクッキーを振る舞ってくれる。優しいお姉さんのような生き物だ。

「今日はチョコチップとナッツのクッキーを作ったわ。結構自信作なの」

そう言って彼女は美しい水色の長く薄い腕でクッキーの入った小さなバスケットをくれた。

「あら、ミミも来たの」

後ろを振り返れば、お手玉サイズのうさぎと電球が混ざった女の子がいた。初めて見る子だ。

「………」

ミミという女の子は、ぴょんぴょんと跳ねながらクッキーの入ったバスケットに近づく。

「八千代さん、ミミにもクッキーを分けてくれるかしら」

チカチカと点滅するミミに、私はバスケットからクッキーを一枚取り出すと、差し出した。

「……ぁがぅ」

「良かったわねミミ」

むしゃむしゃとクッキーを頬張るミミを見てマリーは微笑んだ。

「あ!八千代じゃん!今日も来たの?」

猫耳が生えたカメラの様な彼はパシャパシャと音を立てながら近づいてきた。

「お土産はー?」

私はポケットから棒付きキャンディを取り出すと、彼はフラッシュをますますたいた。

「わーい!いっただっきまーす!」

包み紙ごとキャンディを食べる彼にマリーは呆れた声を出した。

「メカド、キャンディの包み紙は普通食べないのよ」

「そうなのか?」

メカドは包み紙を吐き出すと、満足気に息をついた。

「ありがとう八千代!美味しかったよ」

途端目眩がした。足元がふらふらする。

「…ああ、もう時間か」

管理者の声が響いて、私はそのまま倒れた。



午前十一時四十五分。また今日も学校には行けなかった。それを咎める人はいない。とりあえず起きて、洗面台に向かうと、ぼんやりとした顔つきの自分が鏡に映った。

「…酷い顔」

呟いてみると、ますます自分の顔が酷く見えるので、私は雑に洗顔を済ませた。朝食はハムエッグとトースト。ほぼ毎日同じメニュー。飽きることはないから、構わない。スマホを開けば、担任の先生からメールが三件きていた。今日は来れそう?体調崩したりしてない?最近どう?担任とは一度しか会ったことない。まだ若くて、少しおどおどした女の先生だった。今日も行けそうにないです。体調は大丈夫です。最近は絵を描くことにハマっていますと返信する。数秒で返信はきた。なら良かった。今度描いた絵を見せてね。私はスマホをベッドに放り投げると、明日のことを思った。いつまで、私はこのままでいるつもりなのだろう。学校にも通えず、それどころか外に出ることもできず、ずっと、この一人ぼっちの部屋で、引きこもったまま。だけれどどうしようもないのだ。私が全て悪いのだから。全ては私のせいなのだから。またふと、あの日の記憶がフラッシュバックした。私はただ膝を抱えて丸くなることしかできなかった。

そうして、またリアドリーへ

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狭間で逢いに来て @nanamigawa

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