第27話
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クロースティは静かに
(どうして?どうしてディストールじゃ駄目なのよ!!)
ここ最近は、毎日ルーカスに後継者についての話を持ち掛けていた。
(ルネがいない今、代わりの後継者をたてるべきでしょう!?それなのにいつまでもいつまでもあんな遺言にこだわって。何が初代当主よ。もう死んでる人間じゃない!考えなきゃいけないのは今のことでしょう!?)
荒々しく自分の部屋のドアを開けると、部屋の掃除をしていたメイド達が一瞬驚いて動きを止めた。その中にはリリィもいた。彼女の主人がいなくなった今、彼女は館の掃除を担当していた。
「奥様!!」
一番に声を上げたメイドはクロースティのお気に入りだった。名はホルン。
ホルンはその茶色の瞳に気遣わしげな色をのせてクロースティに駆け寄る。クロースティの震える手を優しくとって、手近な椅子に座らせた。ホルンは慣れた仕草で近くに控えていたメイドにお茶を持ってくるよう伝える。しばらくして、栗色の髪のメイドが温かいハーブティーを持って部屋に戻ってきた。ホルンはクロースティにそれを飲むよう勧める。
「どうぞ。気分が落ち着きますから」
「ええ。ありがとう」
「旦那様とは……今日も駄目でしたか?」
「見てわかるでしょう?もうあの人、私の話なんて聞きやしないんだから」
行儀悪く音を鳴らしてカップをソーサーに置くクロースティ。ホルンはカップを受け取り、もう一度ハーブティーを入れた。
「それもこれも、全部ルネがいけないのよ。あの子がいなければ、ディストールはこの家の後継者になれたのに!」
リリィは気分が悪くなって、掃除道具を片付け静かに部屋を出ていこうとした。しかしその行動が、クロースティを逆に刺激した。
「あなた!」
「!」
「そういえばあなた、ルネの専属メイドだったわね」
クロースティは皮肉な笑みを浮かべた。
「こちらに来なさい」
「え……」
「来なさい!!」
激昂したクロースティを止める術は無い。リリィは震える足でクロースティの前に来た。
「跪きなさい」
だがリリィはそれをしなかった。焦れたクロースティは指先に風を起こし、それをリリィの足元に投げつける。
足元をすくわれたリリィは小さく悲鳴を上げて、前に転んだ。必然的にクロースティに跪く格好になる。
「ふ、いい気味ね」
クロースティは満足げだ。口の端をあげて笑っている。
リリィはキッと彼女を睨み上げた。途端にクロースティの笑顔が消える。
「何よその顔は。気分が悪いわ。彼女を追いだして」
「かしこまりました」
リリィに数人のメイドの手が伸びる。
「そんなことをしなくても、自分から出ていきます!」
リリィは彼女たちの手を振り払い、掃除道具を持って出ていく。
「さっさと行きなさい!」
「痛!」
ホルンに背中を押され、結局追い出される形で部屋を出た。部屋のドアが閉まる時、濃い化粧のホルンと目が合う。
「あなたは、主人に捨てられたのよ」
バタン、と目の前でドアが閉まり、リリィはほっとしたように肩を落とす。
掃除道具を戻しに行く。
先程のホルンの言葉を思い出して、かぶりを振る。
「違うわ。お嬢様は、そんなことしないもの。何も知らないくせに」
その独り言は、誰にも聞かれることなく館の静寂に消えていった。
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