第14話

 翌日、ミカエルとルネは件の村に転移し、周辺地域の調査に出ていた。見た目はギルドに行った時同様に変えて行った。

 村の住人の話によると魔物は2週間ほど前から村の近くの森に住み着き始めたという。その森は村人にとって木の実やきのこを採るための大切な調達地で、これ以上続くと死活問題になるという。


「お願いします!どうかこの村を救ってください!見ての通り小さな村なので、あまり高い報酬を出せる訳ではありませんが……でも本当に困っているんです」

 若い男がひっ迫した様子で訴えてきた。この村の村長は、その森で採れる木の実でしか治せない腰痛を患っているという。今はもう備蓄されていた分も少なくなって、不足すればいつ寝たきりになるか分からないような状態らしい。男は村長の息子だった。


「報酬の事は気にしなくていい。そのために来た訳では無い」

「え、では……」

「仕事だ。私の力が必要なら、貸す他はない。それが私にしか出来ないことならば尚更だ」


 ルネはこの時のミカエルの言葉を心に刻んだ。自分も、ミカエルのようになりたいと思った。ミカエルのように、強かに優しい人間に。


(今の私は不安定すぎる。今だって、お父様やお義母様のことを夢に見て、飛び起きてしまうもの)


 ミカエルがルネの方を向いて訊ねる。


「ルネ。早速今から周辺を見てくる」

「え、もうですか?」


 聞くとミカエルは耳をぴくんと震わせた。


「昼間に魔物は眠っているから、明るい今のうちに行っておきたい」

「私はどうすれば」


 ルネは途端に不安に駆られる。やっぱり置いていくと言われたらどうしようと考えるだけで、しゅんと眉尻が下がってしまう。


「何を言っている?一緒に来い。少し危険かもしれないが、大切なものは私の手の届く範囲にいてもらわないと、守るものも守れない」

「は、はい。もちろんです。一緒に行きます!」


 ルネの不安の暗雲を、ミカエルはいとも簡単に払いのけてしまう。ルネはどんどんミカエルに心が傾いていることに、まだ気付いていない。


「では行こう。君は…」

「レントです」


 村長の息子、レントはこわばった表情のまま、ミカエルを見つめる。


「ではレント。私たちはこれから君たちが魔物を見たという箇所を中心に調査に出る。その間、村の住人が森に入らないように伝えておいてくれ。夜には戻る」

「分かりました」


 レントは力強く頷く。

 ミカエルはルネの手を取って、森へと入っていった。


 

 森の中は鬱蒼とツタの葉が茂っていて、どこまでも暗い。村の雰囲気とは明らかに異なるそれに、ルネは思わずミカエルの手を取った。


「大丈夫か?」


 ミカエルが気遣いの視線を向ける。


「え、ええ。大丈夫です。ちょっと、慣れてないだけで、こういうところ…というか外の世界全部なんですが」

「元、深窓の令嬢だからな」


 ルネはふてくされたように目を吊り上げた。


「ミカエル様?馬鹿にしてるのですか?」

「ははは」


 ミカエルはルネの手を引いた。驚いてつんのめるルネの体をミカエルがしっかりと支える。


「私がいる。何の問題があるんだ?」

「…え、ええ。そうですね」

「それに今は魔物が出にくい時間だ。すぐに何かが動くことは無いだろうから、心配しすぎるな」


 ミカエルの話によると、魔物は夜に活発に活動するらしい。机上の知識しか知らないルネに、ミカエルは調査中、たくさんのことを教えてくれた。

 魔物の特性、実際の大きさ、声、動き、攻撃能力など、すべてがルネにとって新鮮な内容だった。

 木の幹に付けられた魔物の爪の後を見ながら、ミカエルが言う。


「ルネ、私はこの任務中、君を守りながら魔物とも対峙するつもりだ」

「はい」

「だが、前も言った通り、君にはいずれ自分の身だけでも守る、あるいは多少の攻撃魔法や逃げる力をつけてもらわなくてはいけなくなるだろう」

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