第3話
ミカエルはルネを丸い木のテーブルに促し、暖かなココアを入れてくれた。
当たり前のように自分の分のココアも入れ、それをちみちみと飲むミカエルの姿に、「猫さんもココアを飲むのね…」などと場違いな感想を抱いてしまう。おもわずじっと見つめていると、ミカエルと目が合ってしまった。
「ん?どうした?口に合わなかっただろうか?」
「え、あ、いいえ!そんなことありません!美味しいですわ」
「そうか。何よりだ」
少し苦めのココアをひとくち口に含んで、ルネはタイミングを見計らう。
(話しても、いいのかしら。いいえ違うわ、私から話さなくてはいけないのよね。ミカエル様はきっと私が話を始めるまで待ってくださるはずだから)
ルネは意を決して顔を上げた。
「ミカエル様」
「うん?」
「これから話すことは、ネイティア家の人間にしか伝えられていない秘密ですわ。私は何をされても大丈夫ですが、これを聞いてしまえば、ミカエル様も無関係というわけにはいかなくなってしまいます。それでも……」
「そもそも君をさらった時点で無関係では無い。問題無い」
ルネは手の震えを誤魔化すように、カップを握り直した。
「そうでしたわね…ごめんなさい」
「いや」
ミカエルは気にするなというふうに首を振った。
「何から、話せばいいのか……まずは、私がどうしてあんなにもお継母様やお義兄様から目の敵にされるのか、お話しするのが良いですわね」
「ああ、頼む」
「ミカエル様は、イリス国の歴史はご存知?」
「大体は知っている。謎の気候変動で危機に陥ったところを、とある魔法使いが救い、王となって人々を導いたと。それがイリス国の初代国王イリスだという話だろう?」
「そうですわ。そして、イリス様には当時3人の弟子がいました。それが、現在のイリス国公爵家である、ラングレー家、リビオラ家、ネイティア家の、初代当主です」
この3つの公爵家の他に、イリス国には公爵の地位を持つ家は無い。実質、王の次に権力と財産を持ち、王の次に敬われる存在なのだ。この3つの公爵家は、それぞれ違った属性の高度な魔法が扱える。例えばネイティア家であれば、風魔法だ。これはネイティア家の初代当主が優秀な風魔法使い出会ったことに起因する。
ディストールが使っていた音魔法も、風魔法の仲間だ。ネイティア家の人間は、空気を操るに長けていた。そして人より多い魔力を持っている故に、より強大な魔法を扱うことが出来る。それはイリス国では権力と同義だった。もちろん、爵位を持つ人間は、他にもいるが、この3つの公爵家の力は桁違いなのだ。
「公爵家の後継者には稀に、初代当主と似た容姿を持って産まれてくる子がいるのです。まるで生まれ変わりのように、初代当主と同じ髪色、同じ瞳の色、同じ性別、同じ魔力量」
「もしや君は…」
ルネがふっと手元から顔を上げた。
「ええ。それが私。今の私は初代当主の生き写しのような姿をしているのでしょうね。初代当主の肖像画はネイティア家のいちばん大きな屋敷を入ってすぐの所に飾ってあります。ミカエル様も見た事があるのでは?」
ミカエルは少しだけ考えて、そういえばあったように思えて頷く。あまり正面玄関から入ったことがないし、興味もなかったのではっきりとは覚えてないが。
「その方が我がネイティア家の初代当主です。そして私はその方の生き写し。でも私は、魔法の使い方が平民たちより下手なのです。私がまだ小さい頃、父が言っておりました。お前がこの容姿で生まれて来なければ、とっくに捨てていたと」
そう吐露したルネの瞳は、迷い子のように不安定に揺れていた。
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