第3話 エルフちゃんはなんでも一緒にしようとする
夕ご飯も食べて日本に来た理由も聞いた。
さてお風呂に入ろうか。
「お風呂ですねぇ。家族なんだから一緒に入りましょう、ケート君~~」
「えっ、は?」
「は? え、一緒に入らないんですか?」
「うん。別々でしょ、普通」
「がーん」
めっちゃ落ち込むエルフのララちゃん。
いや、その巨乳と一緒にお風呂、生おっぱい、見たいけどさぁ。
どう考えてもそれ「国際問題」だよね。
俺たちは家族だけど、家族になったけど、それはないのではないでしょうか。
「男女は別々にお風呂だよ? いや小学生でも高学年になったら一人でしょ」
「そうなんですか? そんなの聞いてないです!!!」
そんな抗議の声上げて、心外ですみたいな顔されても、一緒にお風呂なんて入ったら問題あろう。
「家族は一緒なんです! エルフの里ではそうでした!」
「ここは日本なので。それ以前に地球なので」
「そんなの知りませんよ。いいじゃないですか、お風呂くらい。減るもんじゃないし」
「ダメ。っていうか、ごめん。俺が理性保てないから無理」
「そうですか……」
「分かりました。一人で入りますぅ」
「そうしてくれ、先にお風呂入っていいよ」
「ありがとうございます~~ぶぅううう」
あっかんベーをして、お風呂の準備を始めるララちゃん。
まったく、エルフの里はどうなってんだか。
俺は暇なのでテレビを見る。
ちょうどCMだったけど、好きなアーティストだったので注目してみる。
女の子のスリーピースバンドだ。最近ネットで話題だったもので、このスピード感でCM起用か。
『革新的新技術により全世界どこでもアンテナ五本保障。エルフィールの新携帯、アクアズ。新発売です。「君とずっとどこまでも……」』
お、すげえな。新しい携帯。
今までは地上にアンテナを建てていたんだけど、低軌道衛星のメッシュネットワークと謎の新技術を応用したどこでも超高速通信のインターネットが使えるという。
アングラ掲示板では実は電波じゃないという噂まである。なんでも異世界の技術を応用した魔力通信なのだとか。
電話料金も近年、謎の新技術の導入で年々値段が下がっている。
通信費も上限ほぼなしの無制限でこのアクアズは月五百円だそうだ。
問題は電気だな。今、核融合炉を国内四か所に実用炉を作ってる途中だった。完成すれば一気に電気需要をまかなえて、でもって安全なんだそうだ。
噂だとこっちも実は核融合炉じゃなくて本当は魔道炉なんだって。
今まで匿名掲示板なんて一切信じてなかったけど、エルフが目の前にいると、マジかもしれない、という気にもなってくる。
現実世界は確実に侵食されてるな。魔王軍が攻めてこなければいいが。
いらぬ心配をしていたところで、俺は面を食らった。
「ぶはぁっ……」
「どうしました、ケート君」
「いや、その格好、マジでダメだから。早くパジャマ着てきて。イエローカード、ワンナウトだからな」
「えっ、ちゃんとタオル巻いてるじゃないですかぁ、なんでぇえ」
「上も下もギリギリだろうがああ」
「え、まあ、そうですね。別に見られても私、怒ったりしませんよ?」
「俺が困るのっ」
「そうですか、分かりました。着替えてきます。しょぼーん」
どこでしょぼーんとか覚えてくるんだよ。
階段を上っていく音がする。
彼女の部屋は二階だ。
というかこの家には一階に広いリビング、親父の書斎、キッチン、バス、トイレ、納戸、和室がある。
二階にはトイレと、似たようなサイズの個室が家族四人分。でもって母親は父親と一緒のベッドを使うので、実質母親の部屋はほぼ使われたことがない。
使うのは数年に一回あるかどうかのけんか中のときと風邪を引いたときくらいかな。
だから母親の部屋をララちゃんの部屋としたわけだ。
母親のクローゼットが二台あるんだけど、一つの中身は出張先に持っていっていて、空いてるので使っていいそうだ。
「はい、ちゃんとパジャマ着てきましたよ。にゃーん」
「なるほど?」
にゃーんとか言って、猫さんパジャマを見せてくれる。
うん、ピンクの生地に白い猫がたくさんプリントされた薄手のパジャマだった。
あー、うん。でもなんだろうセウトだな。
生地が薄いんよ。おっぱいがな、これでもかとな、強調されてるんだわ。
でナイトブラなんだろうけど透けてんだわ。
生じゃないからいいけど、これはこれで破壊力が高い。
歩いてくると、ぼいんぼいんと非常によく揺れる。
「お風呂行ってらっしゃい」
「いってくる……」
諸行無常。もういいや。お風呂行こ。
頭を空っぽにしてお風呂に浸かる。
さっきまでララちゃんが入っていたお湯に浸かる。
なんだかそう思うと、イケないことしてるみたいだけど、お湯の共有は家庭では一般的だろう。
俺はアニメに現れるごくごく民でもないしな。
再び頭の中を空っぽにして体を洗ってお風呂から出てくる。
「いいお湯でしたか?」
「ああ、気持ちよかったよ」
「えへへ。ごくごくしちゃいました?」
「しねぇよ」
「ごくごく民ではなかったんですねぇ」
「知っているのかごくごく民」
「はい。日本語の勉強たくさんしました。通信教育だったんです。それからネットでアニメもたくさん見たんです。勉強になりました」
なんの勉強してるんだよ。
外国の人がアニメで勉強してるって話はよく聞くけど、日本の動画配信見てて、変な言葉ばっかり覚えてもらっても困る。
なんか日本人でごめんな。
「それじゃあ寝ましょうかぁ。今日は私の部屋で寝ますか? それともケート君のベッドで一緒に寝ますか?」
「え、それってどっちの部屋でも一緒に寝るってこと?」
「そうですよ?」
「当たり前のように言う……」
俺が頭を抱える。
「いや、日本ではな、個人の部屋で別々で寝るんだ。家族でもね。兄妹だって別だよ。一緒には寝ないんだよ」
「そんな……そんなの、聞いていませんっ、私、誰かと一緒じゃないとぐっすり眠れないのにぃ」
「すまん、俺の精神がもたないので、別々で」
「がーん。分かりました。……おやすみなさい。ケート君、いけず」
「おやすみなさい、ララちゃん」
ララちゃんがしぶしぶという顔で自分の部屋に入っていく。
よし、俺の安全は保たれた。
一緒に寝たら、たわわに押しつぶされて俺が朝までも一睡もできないに決まっている。
俺は一人で自分の布団に入り、安心してすぐに眠りについた。
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