第2話 エルフちゃんは俺の家族になった

 俺がパスタをペペロンチーノのもとを使って簡単に作り、今から夕ご飯を食べるところだ。


「すごいすごい、ケート君。お料理もなんでもできるんですねぇ」

「いや、簡単な料理だけだよ。日本には『○○のもと』っていう半分の具材と調味料が入っていて、それ使うだけであとメインを用意すれば料理になるものがあるんだ」

「へぇ、なんにせよ日本の料理ってすごいんですねぇ」

「ははは、まあそう思ってくれてもいいよ」

「うんうん」


 そうして二人で席について、手を合わせる。


「「いただきます」」


 その辺の礼儀作法はすでに知っていたようで、一緒に手を合わせて挨拶を済ませる。

 そういえばお箸は使うのだろうか、異世界とやらのエルフちゃんは。


 今はパスタなので器用にフォークを使って麺を口に運んでいた。

 それにしても食べている美少女の顔もなんともイケない感じではあるし、その下にもいけないおっぱい様が鎮座していて、俺の目からするとどこ見たらいいのか分からない。


 顔をじろじろ見るのもおっぱいを凝視するのも失礼だ。

 まあ見てもいいとは言われているので、見ちゃうけど。


 だってその存在感は一際目立つ。

 まったく圧倒的だよ我がエルフ軍は。オークなんて目ではない。

 これなら対魔戦争も余裕で勝てそうな魔力タンクが目の前に2つある。

 ハイファイアが十発は撃てそう。知らんけど。


 パスタを食べながらファンタジーなことを考える。

 まあでもオークさんはこの世界にいないし、エルフ軍も対魔戦争も俺の想像でしかない。異世界がどうなっているかはまだ聞いていない。

 異世界のことを聞き始めたら、あれもこれもって妖怪「ねほりはほり」になってしまいそうだ。

 俺は何と言っても、異世界に目がない。

 ゲーム、ラノベ、漫画、アニメ。異世界モノには数多く手を出してきた。俺にだって基礎教養くらいはある。

 ただし俺の基礎教養にあるのは、すべてが空想であって、エルフの彼女のようにリアルの出来事ではなかった。

 もしかしたらララちゃんのような存在が過去にもいて、その情報が人伝に伝わっていった結果、ゲームの異世界モノの世界観に影響を与えている可能性もある。

 俺の親父が外交官のフリをして、本来の業務はそういう異世界人や宇宙人を相手にしている時点で、何かしらこの世界にもあるのだ。不思議なことが。


 すごいワクワクしてくる。

 せっかくだからダンジョンとかできないだろうか。富士の樹海あたりとかに。

 それで一大テーマパークにして、緑の制服を着た美少女エルフのガイドさんと地下ダンジョン探検ツアーとか行くんだ。

 冒険者っていうのもやってみたい。

 宝箱を開けて中から伝説の剣やマジックアーマー、秘薬とかを探して集めるんだ。

 たまにミミックとか罠解除とかもして、女の子とパーティーなんか組んじゃったりして。


 いいねいいね。ハイファンも好きだけど、そういうダンジョン物のローファンも好きだよ。


 そして目の前に意識を戻す。

 金髪碧眼、とんがり耳。異世界の美少女エルフちゃんがうちの居間でペペロンチーノをむしゃむしゃしている。

 なんだこれ。

 すげーかわいい。いや、かわいいのはいいんだ。

 おっぱいがすごい。うん、そうだった、おっぱいもべつにいい。よくないけど、今は置いておく。


 そうじゃなくて、実は俺の父親、すごいんでは。

 あのエルフちゃんがうちでご飯食べてんだよ。


 すごい場違い感。ぜったいここに居てはいけない存在が、家にいる。


「それで留学生なんでしょう? 何しに来たの?」

「えっ……」


 エルフのララちゃんが目を丸くして、ちょっと挙動不審になる。


「あの……私、留学生っていうのは建前で、ここに定住しようと思ってきたんです。あの、最初世界中の国という国、探し回ったのに、どこの国もエルフなんて受け入れてくれなくて、……ふえぇえええええ、わああんんん」


 泣き出してしまった。

 シクッ、シクシクッ、と声を詰まらせる。

 あ、そんなつもりなかったのにどうしよう。


 でも彼女は泣き笑いを浮かべて、ニヘラと笑ったんだ。


「……それで、あなたのお父さんだけが世界で唯一、受け入れを表明してくれたんです。どこにもいくところがなかった、私を」

「そうだったのか」

「はい。世界でここだけが、私が居られる場所なんですぅ」

「そっか」


 パスタはすでに食べ終わっていた。

 泣き出してしまったララちゃんを見て、ちょっと俺もしんみりする。

 そうか。そういう事情だったのか。

 それを親父が拾ってきたのか。

 まるで雨の日の捨て猫だな。道行く人は段ボールを無視して歩いていく。猫がいかにも入っていそうだったとしても、分かっていてあえて無視をする。そこに一人子猫の鳴き声を聞き付けて、立ち止まる少女。

 少女じゃなくておっさんだったけど、で実際に一緒に住むのは少女でもおっさんでもなく、俺なんだな。


「大変だったんだ。いいんだよ。ここにいても。ここは今日からララちゃんの家だから。俺が……家族に、なるよ」

「ありがとう。ありがとうございますぅ」

「ああ」

「あ、あれ、あっ、うそ、うれしいのに、こんなにうれしいのに、涙が」

「ふふっ、うれしくても涙が出ることだってあるさ」


 ぽろっ、ぽろっ目から大粒の涙が両目から順番に落ちて、それを必死に両手で拾っている。

 でも拾うのも難しくて、ぽろぽろこぼれていく。


「家族、なんですね。私たち、家族になったんだ。うれしいです。ありがとうございます」

「いいって、そんな」

「うれしいっ、うれしいですぅ」


 泣き止んだ彼女は、とびきりの笑顔を俺にくれた。


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