第5話
約束の時間より少し早めにホテルに到着する。
当然ながら浅川たちはまだきていないようで、私と中島は先にラウンジの中に入った。ほとんど日が落ちて暑さが和らいできた時間帯だからか涼を求める客の数は多くはない。
学生には少し財布に厳しい値段設定の飲み物を頼み浅川たちの到着を待つ。横に座る中島を見れば彼もまた財布を気にしているようだった。お土産をたくさん買ったのだ。贅沢し過ぎたのだろう。
店員が運んできたオレンジジュースを一口飲むとラウンジの入り口から声が聞こえた。
「もうきてたんですか。すみません、お待たせして」
「なんであたしまで……」
声のした方を見ると浅川と無理矢理連れてこられたのであろう、怪訝そうな表情を浮かべる咲紀が立っていた。
二人は初めてここで会ったときと同じ席順に腰を下ろした。
「きていただいてありがとうございます」
「あの、なんのご用でしょうか?」
中島が小さく頭を下げると浅川が口を開いた。
「わざわざお呼びしたのは咲紀さんの呪いについてお話しようと思ったからです」
「えっ、治せるんですか⁉︎」
「ちょっと、広美」
中島の言葉に浅川は大声をあげて立ち上がった。
咲紀が浅川を諌めると彼女は恥ずかしそうに周りの客に謝罪して腰を下ろした。
「咲紀さん、あなたは自分を呪いましたね」
浅川が落ち着きを取り戻すと気を取り直して中島が話を続ける。
「な、なにを言っているの」
「咲紀さん、あなたには力の弱い霊たちが随分とたくさん取り憑いています。普通に暮らしているだけだと、これだけの数の霊に取り憑かれるのはまずありえないでしょう」
動揺する咲紀を置いて中島は言葉を続けた。
「きっかけは咲紀さんが自分自身を呪ったことから始まりました。今、あなたの周りにいる霊たちは自分自身を呪った咲紀さんに応えるかのようにして集まってきた」
「自分自身を呪うって、そんなことできるんですか? 誰かに呪いをかけると言えば藁人形とかが有名だと思いますけど、あれって自分を呪えるんですか?」
疑問を中島にぶつけた。中島は首を横に振る。
「人を呪わば穴二つとはいうけど、今回は違うかな。実緒ちゃんはひとりかくれんぼって知ってる?」
「えっと、たしかぬいぐるみを使ってやるやつですよね。降霊術ってやつでしたっけ?」
中島の問いに答える。
ひとりかくれんぼとは夜中にぬいぐるみやその他の道具を使って行う儀式で、その名の通り一人でやらなくてはいけないものだ。
「そう、よく知ってるね。今はスマホが普及しているから若い子でも簡単にやり方を調べられるね」
中島は満足そうに頷いた。
「怖いもの見たさでやる人もいるけど、ひとりかくれんぼは自分自身を呪う儀式とも言われているんだ」
「へぇ、そうなんですか」
中島は随分といろんな知識があるんだなと感心した。
「僕が思うに、咲紀さんはこのひとりかくれんぼをしたんじゃないでしょうか。さっき言った通りやり方はスマホで簡単に調べられるし、材料だってすぐに用意できるはずです」
「ちょ、ちょっと待ってください。ひとりかくれんぼをすると自分が呪われることはわかりました。でも、どうして咲紀がそんなことするんですか?」
今まで黙って話を聞いていた浅川が口を開いた。
「それは咲紀さん本人に聞いた方が早いですよ。まぁ、予想はついていますけどね」
中島の返答に咲紀の肩が揺れる。
「な、なにを言ってんの。あんたにあたしのなにがわかるわけ? それにあたしがひとりかくれんぼとかするわけないじゃん、どうせそういうのは作り話なんだから!」
咲紀が感情的になって中島に噛み付く。
立ち上がって大声を張り上げたため、周りの客がちらちらとこちらを見ている。
「落ち着いてください。周りの方の迷惑になってしまいますから」
中島が興奮した様子の咲紀を諌める。
「あの、場所を変えるのはどうですか? 少し風に当たるのも悪くないかもしれませんよ」
「うん、そうしよう」
中島は私の提案を飲んで四人揃ってホテルから出る。
辺りは完全に日が落ち暗くなっていた。
呪いの話をしたからか、店の明かりや街灯がなければ薄気味悪い気分になっていたかもしれない。
未だ興奮気味の咲紀を連れて街を歩く。体に当たる夜風が気持ちいい。
「こことかいいかもね」
中島が足を止めたのは街の外れにある公園だ。時間帯的に子供はもちろん人はおらず、街灯の数も少ない。
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