第3話
車で走って数十分の住宅街の中に星良の家はあった。
綺麗な青い屋根の立派な一軒家の前に星良らしき長髪の女の子とその母親らしきセミロングの女性が立っていた。
「
家の横の駐車場に車を停めた高橋はセミロングの女性にそう声をかけた。
「こんにちは、お義母さん。お二人も協力してくださるそうで、本当にありがとうございます。どうぞ、上がってください」
唄と呼ばれた女性に促されるまま家に上がる。広々としたリビングだ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「ああ、どうも」
唄はソファに座る私と中島の前に置かれた丸いガラステーブルにお茶を置いた。
高橋と星良、唄はすぐ隣にあるダイニングテーブルの椅子に腰掛ける。
「ええと、まずは自己紹介からするべきでしょか。私は唄と申します。この子の母です」
唄はそっと星良の背をさすった。
「星良です」
自分の名前を名乗った星良の声に覇気はない。先程から顔も俯きがちで高橋が言っていた通り元気がないのがよくわかる。
「君がモモちゃんの飼い主さんなんだね」
中島が優しく声をかける。星良は頷いた。
「うん、そうだよ。モモはあたしが公園で見つけて拾ってきたの。おじさんはモモを探してくれるんだよね? 探偵さんなの?」
「おじさん⁉︎ そ、そっか、僕はもうおじさんなのか……」
中島は星良の何気ない一言で随分とダメージを受けていた。
「えっとおじ……お兄さんは探偵ではないよ。あんまり仕事してないし」
一度はおじさんと言おうとしたが結局自身をお兄さんと言い直した中島は星良の質問を否定した。最後の言葉は目を逸らして小声でごにょごにょとしていた。
「そう、なんですか」
一番遠い位置にいた星良には聞こえなかったようだが、中島の働いてないという言葉が聞こえてしまった唄は急に視線を逸らした。
「あ。いや、普段は畑仕事の手伝いをしていまして……その、はい……」
さすがに世間体が悪いと思ったのか言い訳を並べる中島の声が小さくなっていく。
「い、いいじゃない! 私も中島さんには畑を手伝ってもらっているし、男手があると助かるのよ。それにほら、不定期みたいだけど派遣の仕事もしているでしょう?」
少し気まずい空気が漂っているのを察知して高橋が助け舟を出す。
高橋の言う通り中島は月に数回派遣の仕事をしていた。内容はほとんど土木系のもので、その細い腕で重いものが持てるのかと驚いた記憶がある。
「そ、そうなんですか。えっとそれで……」
「あ、はい。モモちゃん探しですね」
「いや、それもそうなんですけど、協力していただくのにあたってお金はいくらくらい……」
「えっ、お金ですか。いりませんよ」
「い、いいんですか? ありがとうございます」
遠慮がちに金額を尋ねようとする唄に中島は首を横に振った。
先程中島が言った通り彼は探偵ではない。これはいわゆるボランティア活動だ。そのため中島は相談相手から金銭を受け取ることはない。
今までもお礼だと言って相手の方からご飯を奢ってくれることはあっても、中島の方からなにかをせびったりすることはなかった。
中島曰く自分が好きでやっている趣味のようなものでお金を取るつもりはまったくないそうだ。
「ではモモちゃんがいなくなったときのお話を聞いてもよろしいでしょうか?」
「は、はい。星良、あのときのことお話できる?」
「うん。モモはね、急に消えちゃったの。あの日はあたしの部屋で一緒にいたんだ。あたしが一人でお絵描きして、モモはお気に入りのテニスボールを転がしていたの。お絵描きに集中してたんだけど、モモがにゃあって鳴いてるのが聞こえてお腹空いてるのかなって顔を上げたら、モモが遊んでたはずの場所にいなくてテニスボールだけが置いてあったの。モモ、モモって名前を何度も呼んだんだけど返事がなくて勝手に部屋の外出ちゃったのかなって、でも扉はしっかり閉まってて」
「それでリビングにいる私のところまで来たんです。モモがいなくなったって」
事情を話した星良は浮かない顔だ。あのときあたしが目を離さなければと小さく呟いた。
「たしか窓は開いてなかったのよね」
「はい。星良の部屋の窓は一つしかないんですけど、その窓の外に大きめの蜘蛛が巣を作ってしまって。星良が怖がるので窓は開けないようにしていたんです」
高橋の問いに唄が答える。
「……なるほど」
中島は唄を見て深く頷いた。
「あの、どうかされましたか?」
それに気づいた唄は怪訝に思ったのか中島を見つめ返した。
「あ、いえ。なんでもないです。モモちゃんが消えたという星良ちゃんの部屋を見せていただいてもいいですか?」
「うん、こっちだよ! あたしが案内する!」
中島の言葉に星良は椅子から立ち上がって手招きした。
星良について行くと二階の子供部屋に案内された。
「ここがあたしの部屋」
「……なるほど」
星良の部屋を一目見た中島が呟いた。なにか視えたのだろうか。
「すみません、この部屋を見て回ってもいいですか?」
なにか考える素振りを見せた中島はぱっと振り返り背後にいた唄に声をかけた。
「はい、もちもん構いませんけど……いいよね、星良?」
「うん、モモを見つけてくれるなら」
唄と星良の許可を得て部屋を調べることになった。中島に頼まれ星良たちはこの場にいない。
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