第二十二話 謎の銅像
正直、驚きの出来事だった。
占ったことへの責任からついて行っていしまったけど……まさかラステルさんのお兄さんが、なにかを画策してる場面に出くわすなんて……。
そんなことがあった翌日のこと。
朝、買い出しに市場へと向かっている途中、ラステルさんのお店の前を通りかかったのだが。
「……この人だかり、なに?」
時間はまだ早朝。近くのお店で開いているところだってほとんどないし、当然ラステルさんのお店だって開店前なはず。
それなのに、お店の前には人だかりが出来ていた。
でも開店前に並んでいる、っていうのとはまた違う感じだ。お店を遠巻きに見ているっていうか、取り囲んでる感じ。しかも集まっているのは、雑貨屋のメインの客層である女性だけじゃなく、男性から子供、老人まで。
まるで、なにか事件でもあったかのよう。となれば当然――
「ん? マリー」
やはりというかなんというか。この騒動の中にウィルがいたのだ。
「どうしたの、この騒ぎ?」
「ああ、実はな……」
ウィルに促され、囲みの中心へと目を向ける。
「どうなっているんだ一体!?」
「落ち着いてください、ラステルさん」
そこには激昂して騒いでいるラステルさんとそれを宥めようとする騎士団の人達。そして……
「…………なに、あれ……?」
と、声に出して驚いたのはラステルさんに対してではない。
暴れて騒ぐ彼の傍に鎮座している、店の前に置かれた謎の巨大な銅像についてだ。
昨日お店に来た時は、こんな像は無かったはずだ。
「今朝お店に来たら、まったく知らない像が置いてあると、ラステルさんから騎士団に通報があってな」
「はあ……」
そりゃあ、突然こんなものが置かれていたら誰だってビックリするはずだ。
それにしてもこの像、全身真っ黒……おまけに背中には大きな羽、鋭い目つきにカラスのようなくちばし。手足も鋭く伸びて、まるで……そう、悪魔のような禍々しさがある。
これでは、なんていうか……とてつもなく不気味だ。
「悪魔の像だ悪魔の像」
「うへぇ……こわーい」
周囲の人垣から、チラホラとそんな声が聞こえてくる。
となると……。
「なんでもこの店、怪奇現象が起こるらしいよ……」
「ええーこの店、呪われてるんじゃねーの……?」
「それじゃあこの像も?」
「かもねぇ……」
そんな風評に繋がっちゃうよね……。
それを分かっているからだろう、ラステルさんの憤る声がここまで届いてくる。
「うーん、送り主の分からない不気味な像かぁ……」
「ああ、いや……そうではないんだ」
「?」
「じつは、送り主はもう特定できているんだ」
「え、そうなの?」
「ああ……」
と言うわりには、ウィルの表情はどうもスッキリしていない。
「配送届けがお店にあってな、それが……ラステルさんのお姉さんのお店から送られてきたみたいなんだ」
ラステルさんの、お姉さん……。
ということは、その方もまたラステルさん同様、インプレッス商会の跡取り候補で、そのお店もラステルさんにとってはライバル店になるわけか。
そんなお店から謎の像が届いた、と。
これは……なんというか。
「もしかして……そういう、こと……?」
「恐らく、はな……」
跡取りを争う姉妹のライバル店から、謎の――それもどう見たって不気味にしか見えない像が店先に送り付けられてきた……。
これ、誰かどう考えても……ライバルを蹴落とす嫌がらせにしか見えない、よね。
それでウィルはこんななんとも微妙な顔をしているのか。
うーん。でもなぁちょっと引っかかる。
嫌がらせにしては、ちょっと露骨すぎやしないか? そもそも嫌がらせにしたってご丁寧に配送届けを置いていくっていうのも、なんだかなぁ……。
どうも変だ……昨日のレックスさんの件から、ずっと感じている違和感。
ただの後継者争い、お互いが互いに足の引っ張り合いをしている……そんな風には見えるんだけど、なにかひっかかるのよね……。
「ウィル、もしかして今から、その人に話を聞きに行くところだったの?」
「ん? ああ、そうだ」
「ねぇ、私もついていっていい?」
私のお願いに、ウィルは少しだけ驚いていた。
「それは構わないが……一体どうしたんだ?」
「うん、ちょっと気になることがあって。実は昨日ね……」
と、昨日起きたことをウィルに話ながら、私達は店を後に。
ラステルさんに声をかけようか。そう思ったけれど、あれだけ激昂しているとなるとな、こっちの話も耳に入らないだろう。
今は、そっとしておくしかないな。
怪奇現象が起こっても、お店を出ない人、お客がいるのに売り上げがさがっていること、そしてキリエちゃんとラステルさんでお客を追跡したら、お兄さんのレックスさんのお店で、その人がお金を受け取っていたこと。
道中、昨日起きたことを話しながら、私達は数ブロック離れた場所にある、ラステルさんのお姉さんのお店へ。
お姉さんの名前は、ヴィヴィオさん。なんでも服飾店を開いているそうだけれど。
「失礼します、騎士団の者です」
開店時間とほぼ同時刻に私達は店へと入る。
「わっ」
と思わず声を上げてしまうほど、店内の様子に圧倒されてしまった。
小さな店舗にもかかわらず、とても広々と感じる空間。それでいて床から壁紙にカーテンまでファンシーな作りで、まるで少女漫画の世界のようなキラキラとした空間なのだ。
女性服を取り扱う服飾店らしく、並んでいる服は少し、というかかなりお高めだが、ふわふわな見た目の服達にファンシーな店内と、ここは異世界だけどそこからさらに別な異世界に飛ばされたような感覚さえしてきてしまう。
こう言う服は、見ているだけでも楽しくなる。もっとも、私には似合わなそうな服ばかりだけど……。
「いらっしゃいませ~」
店の様子に目を取られていると、置くから間延びするようなゆったりした声が聞こえてくる。
「あらあら。可愛らしいお嬢さんと、騎士団の方ですか~珍しい~」
出てきたのはおっとりしたような顔とふわふわな髪をした、まあいかにも不思議の国のアリスのような見た目の人。でもレックスさんの時同様、顔のパーツにところどころラステルさんと似ている箇所がある。
この人がラステルさんのお姉さんなのだろうか。
「ヴィヴィオのお店にようこそ~どんなお服をお探しですか~?」
「いえ、服を買いに来たのではなく……」
「まあまあ。それではオーダーメイドですか~もちろん承っておりますよ」
「その、そうではなくて」
「うちの職人達は~どれも一流の方々ばかりです~」
「えと、その……」
「一から作るとなると~少々日数をいただくことになってしまいますが~えーっと、なんでしたっけ……」
「?」
「ああ! なるはや、なるはやです。その、なるはや、でご希望でしたら~追加料金で、可能な限り承りますよ~」
「…………」
つかみ所の無い感じで非常にマイペースなのに、商魂はすごいな。
やっぱりこの人も、インプレッス家の人なのだろう。
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