第四話 占いを終えて

「ふ~……」


 全身から力が抜けるように、私はベッドへと倒れ込む。

 ボスッとした音で私を包み込んでくれたベッドは屋敷ほどではないにしろ、十分柔らかく、なによりわずかに残るお日様の香りが今日一日の疲れを癒してくれる。


「良かったぁ……住む場所が見つかって」


 酒場での占いの後、少しだけ意外な展開が待っていた。

 私を助けてくれたウィルは、占いの結果にかなり満足してくれたようで、お礼がしたい、と改めて言い出してきたのだ。

 私も所詮は占いだし、なにより大したアドバイスが出来たとも思っていなかったら一度は遠慮したんだけれども、この街に着いたばかりで宿も見つかっていなかったことを話すと、これ幸いと言わんばかりにウィルは宿屋どころか、下宿を募集している部屋を紹介してくれたのだ。

 騎士団のウィルの紹介ということもあり、あれよあれよと話は決まりその日のうちに、私は下宿とはいえ住まいを手に入れることになった。

 小さな部屋だが、キッチンもあり日当たりも悪くない。元令嬢が住むには狭い部屋かもしれないが、現代で一人暮らしの女性だった私には、この大きさでも十分すぎる。


「初日から、色々あったなぁ……」

 

 ベッドの上で寝転びながら、私は今日一日を思い化してみた。

 街に着いて、人の多さに驚いて。

 そのあげく、ろくでもない男達に襲われそうになって。

 そこを、屋根からかっこつけて現れたウィルに助けられ。

 そのお礼に占いをして、そして絶賛された。

 色々あった。ありすぎて、困惑するぐらい疲れてしまった。


「……………………」


 婚約破棄を言い渡され、家からも絶縁を言い渡されて、見知らぬ街で生きていかねばならない。仕事だってまだ決まってないし、これからの生活にまだまだ不安な事はあるけれど。

 

「なんでだろう……私、ここでうまくやっていけそうな気がする……」 


 そんな予感は、あった。


「…………」 

 

 顔を横へと向ければ、そこには腰から外したホルダーと、タロットカード達が置いてある。

 占った後、ウィルにお礼を言ってもらえた時、すごく――すごく嬉しかった。

 婚約者の屋敷で初めて他人を占った時、暴言をぶつけられ、貶され、そして追放させられて。そんなこともあって、他人を占うことにすごく抵抗があった。

 他人なんて占うものじゃない、信じても裏切られる。そう思っていたけれど……。

 でも、彼の一言が……助けられたという一言が――私を救ってくれた気がする。

 タロットに偶然はない。どんな場合でもどんな状況でも、その時引いたカードには必ず意味がある。

 襲われた時に私が引いた大アルカナ最後のカード――《世界》。

 調和と完全、一つのゴールを示す《世界》を引いたあの時、私の人生はここで終わるんだと、どこかで思っていた。

 でも、タロットにおける《世界》は最初のカード、0番の《愚者》と同一視されることもあり、《世界》は《愚者》に続き、また一巡すると言われている。

 《世界》は完全と到達を示す。でも《愚者》は無限の可能性を秘め、新たな始まりを告げる。

 あの時このカードを引いたのは、きっと今までの私に終わりを告げ、新たなスタートを示唆していたのかもしれない。


「それにしても……あの光なんだったんだろ?」


 占っている時に見えたあの小さな光。あんなことは現世でもこっちの世界に来てからも初めての経験だ。屋敷で自分を占っている時だって見えたことなんてないし、この街に来たから、なんだろうか?

 うーん……今の状況じゃ、何もわからないな。


「ともあれ……がんばってみよ」


 ここでの生活はまだ始まったばかり。きっとこれからも色々あるかもしれないが、今はこの布団に意識を託し、夢の中へと落ちていこう。

 明日はまた、いい日であるよう――そう、祈りながら。

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