第19話 龍のすみかにやってきました
二人で寄り添いながら休んでいると、しばらくして、宿屋に村の長老が訪れた。
「ロイ殿! フラウ殿! 無事でなによりじゃった!」
「長老こそ、生きてたのか!」
「ああ、また死に損なってしまったわい」
そういう長老の腕は布で首から吊るされ、怪我をしているらしいことが分かる。
「村の被害はどんな感じなんだ? 女神信徒たちはどうなった?」
「それなんじゃが、村全体に被害が及ぶ前に、なにやらフードを被った女魔導師が暴徒をまとめて眠らせてしまって、被害は限られているようじゃ」
「なんだって?」
その特徴はフリーダで間違いないだろう。俺とやり合う前に、
「ロイ殿を探していたようじゃが……知り合いかの?」
「……まあそんな感じだ」
「そうか……しかし、奴らは諦めていない様子じゃ。これからも警戒しておいた方が良いぞ」
「分かってる。奴らの狙いは俺たちだ。これ以上村に迷惑をかけたくない。……フラウの怪我が治ったら、俺たちは出ていくよ」
「……そうか。寂しくなるのう」
「世話になったな、長老」
「気にするでない。また困ったことがあったらいつでも立ち寄るがよい」
「ああ、ありがとう」
俺は長老と握手を交わすと、部屋へと戻った。
数日後、フラウがドラゴン特有の回復力で怪我を治癒していき、村から出ても大丈夫だと判断すると、俺達は荷物をまとめ、宿を引き払った。
「長い間、お世話になりました」
「本当に助かったぜ。感謝してもしきれねえ」
「うむ、こちらこそ。ロイ殿たちのおかげで村は救われた。それに、この村には昔を思い出す良い思い出ができた。ドラゴンライダーの伝説はずっとこの村で語り継がれるじゃろう。……もし、また何かあった時は遠慮なく頼ってくれ」
「はい、その時には是非……」
フラウはぺこりと頭を下げる。
「ロイ、行きましょうか」
「そうだな」
長老たちに見送られて村から出ると、フラウはドラゴンの姿に変化して翼を広げる。
俺はフラウの背中に飛び乗り、フラウは力強く羽ばたいた。……こうして俺たちは新たな新天地へと旅立ったのだった。
しばらく飛んだフラウは、国境付近の険しい山岳地帯に降り立つと、俺を降ろして人間の姿になった。
「ここでいいのか? もっと開けた場所の方が、人里を探すにも都合が良いと思うんだが……」
「実はずっと昔、私はこの山岳地帯で生まれ育ったんです」
フラウは懐かしそうに目を細めると、話を続けた。
「だいぶ変わっちゃいましたけど、一度来てみたくて……」
「確かに、ここら辺にわざわざやってくる旅人なんていないし、一旦身を隠すには最適だな」
「えへへ……」
フラウは照れたように笑うと、俺の頬に手を添えてきた。
「私とロイだけの、秘密の場所ですね……」
「そうだな……」
俺はフラウの手を握り返すと、唇を重ねた。それからしばらくのあいだ、俺達は抱き合ってお互いの存在を確かめ合った。
「……さっきの話ですけど、私の故郷はここから西の方角にある山の奥深くにあります。そこにはまだ、私が暮らしていた頃の面影が残っているはずなので、行ってみませんか?」
「ああ、行こう。もしかしたら、ドラゴンライダーについて何かわかるかもしれないしな」
「私も正直、ドラゴンライダーについては分からないことも多いです。……でも、確か私の先祖も代々人間を守護していて、ドラゴンライダーと契約を結んでいたらしいですよ?」
「そうなのか……」
ということは、フラウの両親のどちらかが、人間と契約を結んでいたということか。
「そんな昔から人間を守っている守護龍が、人間に恵を与える女神ソフィアと対立することになるなんて……皮肉な話だな」
「本当ですね……。私も本当は女神と争いたくない。でも、彼女は変わってしまった。──多くの人間から信仰され、捧げ物をされることに快楽を覚えてしまったのかもしれません」
「それで、同じく信仰対象になり得る守護龍が邪魔になったんだな……」
「はい……」
フラウは悲しげに顔を伏せた。
「大丈夫だ、なんとかなる! フラウの人間を守りたい気持ちは本当なんだろ?」
「それはそうです! でも、私は過去に一度、女神に呪いをかけられて人間をたくさん殺しました。……またそんなことにならないとも限りません。それが怖いんです」
「そんな心配するなって。俺は絶対にお前を見捨てたりしない。どんなことがあろうと、お前を信じて最後まで一緒にいてやるよ」
「ロイ……!」
フラウは感激した様子で、俺の首の後ろに腕を回してきた。そしてそのまま押し倒される。
「……フラウさん?ちょっと待とうぜ」
「ごめんなさい……ちょっと我慢できなくて」
俺の胸に顔を埋めたフラウの身体は少し震えているように見えた。
「泣いてるのか……?」
「いえ……なんでもないんですよ。ただ、色々思い出して……なんで私は守護龍なのにこんなに無力なんだろうって……」
「そんなことない。フラウは強いよ。俺を守ってくれたじゃないか」
俺はフラウの頭を撫でると、優しく抱きしめ返した。
「いいえ、ロイに私が守られただけです」
「……じゃあそういうことにしておくか?」
フラウは涙を拭うと微笑んで見せた。
「ロイ……愛しています」
「ああ、俺もだよ」
再び唇を重ねると、フラウの手は自然と下腹部へと伸びていった。
「あの、ロイ……」
「どうした?……やっぱりまだ辛いか?」
「ううん、違うんです。その……お願いがあるのですが……」
「言ってみてくれ」
「私を──ううん、やっぱりこれは全てが終わった後にしましょう」
フラウは何事かを言おうとして思い留まったようだった。気にはなったものの、俺はあえて追及しなかった。多分、俺も同じようなことを考えていたから。
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