第11話 村で人助け始めました

 というわけで、俺達は村の人々から情報を集め始めた。


「最近、魔物が現れる回数が増えた気がしますねぇ……」

「なにっ!? 本当か?」

「ええ、この村に来る途中にも何度か遭遇しましたよ」

「そういえば、うちの畑にも現れたことがあったなぁ……」


 旅人や村人の話によると、どうやらこの村の周囲に強力な魔物が住み着き、最近活発に活動を始めているらしい。


「このまま放っておいたら、いずれ大きな被害をもたらすかもしれませんね……」

「ああ、早めになんとかしないと……」

「ちなみにその魔物はどんな見た目をしてるんだ?」

「えっと、確か……巨大な狼のような姿だったかな……」

「なるほど……」


 俺は少し考えると、フラウと二人で魔物を倒しに行くことにした。


「よし! 俺たちで退治してきてやるよ」

「えっ?……ちょ、ちょっと待て! 相手は神獣クラスの魔物、君たちみたいな若者が敵う相手じゃないぞ!」

「大丈夫です。こう見えて俺たちそれなりに強いですから」

「でも……!」


 心配そうな顔をしている老人たちに別れを告げると、俺達は問題の地点へと向かった。

 村の外れにある鬱蒼うっそうとした森の中へと足を踏み入れる。昨日着陸したはずの森は、改めて見ると不気味な雰囲気を漂わせていた。


「なんか、薄気味悪いですね……」


 フラウも不安げな表情を浮かべている。


「ああ、村人たちが言っていた魔物ってのがどこから出て来るのかもわからないし、油断しないように気をつけよう」

「はい……!」


 慎重に歩を進めながら、周囲を警戒する。するとその時、茂みの奥で何かが動く音が聞こえてきた。


「ロイ、来ます! 構えてください!」


 フラウの言葉と同時に、茂みの陰から巨大な影が現れる。俺は龍鎧ドラゴンスケイルを身にまとい、身構えた。


「あれは、フェンリル!!」


 体長5メートルほどの巨大狼を見て、フラウが叫ぶ。


「なにっ!?」


 フェンリルと呼ばれた魔物はこちらを睨むと、一気に飛びかかってきた。俺達は咄嵯に身をかわすと、次の攻撃に備えた。


「グルルルッ……ガウッ!!!」


 フェンリルは鋭い牙を見せつけるように口を開くと、勢いよく吠える。同時に全身の毛が逆立ち、周囲の空気が震えるような感覚を覚えた。


「なんて威圧感だ……!」

「さすがにただ者ではありませんね……」


 俺達が気圧されている間にも、フェンリルは再び攻撃を仕掛けてくる。今度は大きく跳躍すると、空中で身を捻りながら尻尾を振り回してきた。


「くそっ! 速いぞ!」


 俺達はそれぞれ左右に飛んで回避する。しかし、着地の瞬間を狙って再びフェンリルが襲いかかってきた。


「ガルルァアアッ!」

「危ない! 龍壁ドラゴンシールド!」


 俺はとっさに魔法障壁を展開すると、フェンリルの攻撃を防いだ。


「グオォン!?」


 予想外の反撃を受けて、驚いた様子を見せるフェンリル。だがすぐに体勢を立て直すと、連続で攻撃を繰り出してきた。


「こいつ、なかなか手強いぞ……」

「私が隙を作ります! そのタイミングでとっておきのを放ってください!」

「わかった!」


 フラウはそう言うなり、フェンリルに向かって走り出す。


「やあっ! はあぁーっ!」

「ガウゥウウン……!」


 拳を構えたフラウとフェンリルが激しくぶつかり合う。考えてみたらフラウはドラゴンだ。俺と同じように鱗の実体化なんてお手のものなのだろう。


「今だ! 龍砲ドラゴンキャノン最大火力フルブラスト!」


 俺は全力を込めて炎の塊を放つ。狙い違わず命中した。フェンリルの毛皮が炎に包まれる。


「グオオオンッ……」


 弱々しい声を上げて、フェンリルは地面に倒れた。どうやら致命傷を与えることに成功したようだ。


「ふう……。強敵だったけど、なんとか倒せたみたいだな」


 俺は大きく息をつくと、フラウに話しかけた。


「フラウ、怪我はないかい?」

「ええ、平気です。それより……」


 フラウは倒れているフェンリルを見つめると、悲しそうな表情を浮かべた。


「この子にも私と同じような雰囲気を感じました」

「どういうことだ?」

「神獣──フェンリルは本来人間に敵対的な魔物ではないのです。きっと、私と同じように誰かに操られて人間を襲っていた……」

「だとするなら、女神のせいだな」

「そうですね……」


 フラウはしばらく黙っていたが、やがて意を決したように言った。


「やっぱり私は、女神ソフィアがやっていることを許すわけにはいきません」

「ああ、俺も同じ気持ちだよ」

「だから私、決めました! ソフィアと決着をつけます!」

「そうだな。俺も協力するよ。でも、今女神と戦うのは得策じゃない。そうすると悪者になってしまうのは俺たちの方だからな。人助けをするなり、王族の悪事を暴くなりして民衆の支持を集めた上で戦いに挑むべきだと思う」

「……はい! まずはこの村の人たちを助けてあげましょう!」

「ああ、それじゃあさっそく村に戻るか」



 こうして俺達は、フェンリルを倒したのことを報告するために村に戻ってきた。村人達は驚きながらも、感謝の言葉を口にした。

 そしてその日は、盛大なおもてなしを受けた。



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