第10話 新たな村に旅立ちました

「くそっ……!」


 俺は咄嵯に剣を投げようとしたが、間に合いそうにない。万事休すかと思われた時──

 ギンッ! という金属同士がぶつかり合う音がして、ゴットフリートの短剣が弾かれた。


「なんじゃと!?」


 驚くゴットフリートの腕の中で、フラウの身体が光り輝いた。そして、ゴットフリートを吹っ飛ばしながら、純白の守護龍の姿へと変化する。


「フラウ……!」


 修道院の壁を突き破りながら巨大化したフラウに声をかけると、彼女は首を下げてくれたので、その首に掴まるようにして、背中に這い上がる。


「逃げるぞ!」

「グァァァァァァッ!」


 俺の言葉に、フラウは応じるように咆哮ほうこうして、空に舞い上がった。


「うわぁぁぁっ!」


 激しい揺れに、必死になってフラウの首に掴まっていると、フラウは凄まじい勢いで大空を駆けていき、修道院はまたたく間に小さくなっていった。



「すごいな……」

「グオッッ」


 フラウが得意げに鳴く。俺はフラウの頭を撫でた。


「ありがとう、助かったよ」

「グルルゥ……」


 フラウの瞳からは、慈愛の心を感じる。本当に俺を助けられてよかったと思っているようだ。


「さて、これで王都には居られなくなったわけだが、これからどこへ行こうか」

「グアアアッ」

「わかった。お前に任せるよ。どうせ俺たちは敵だらけなんだ。行きたいところに行ってやりたいようにやろうぜ」


 こうして俺達は、新たな地を目指して飛び立ったのだった。



 それからしばらくして、俺はフラウを人目のつかない森の中に降ろすと、そこで人間の姿に変化させた。


「よし、それじゃあ行くか」

「はい、参りましょう」


 俺の隣には、美しい銀髪の少女が立っている。先ほどまで巨大ドラゴンだったフラウである。


「ところで、フラウ」

「なんでしょう?」

「改めて聞くけど、どうして俺なんかと契約してくれたんだ?」

「それはもちろん──直感です!」

「直感?」

「はい。なんとなく、ロイにはマリオンと似た雰囲気を感じましたし」

「なるほど……。そういや気になってたんだけど……」


 俺は少し聞づらいことをフラウに尋ねることにした。多分今聞かないと一生聞かずに終わるだろう。


「……?」

「フラウとマリオンはどんな関係だったんだ?」

「もちろん、守護龍とドラゴンライダーの関係でしたけど?」

「じゃなくてだな……」


 俺はこほんと咳払いをしてから改めて尋ねた。


「恋人……とかじゃなかったか?」

「……」


 フラウは無言のまま顔を真っ赤にして俯いている。


「やっぱりそうなのか……」

「はい、そうでした……」


 やはり、フラウとマリオンの間には恋愛感情があったらしい。


「じゃあさ……今はどうなんだ?」

「えっ? それはどういう……」

「だから、今も好きかどうかってことだよ。フラウはマリオンのことが好きじゃないのか?」

「……好きです。好きでした。でも、マリオンはもういません」

「そっか……」

「でも、今の私はロイのものなので……!」


 フラウは上目遣いで俺を見つめてくる。


「まあ、フラウがそれでいいならいいけどさ」


 クールにそう答えたものの、俺の心臓は破裂しそうだった。全く、可愛すぎだろこいつ。


「ロイは私の封印を解いて契約をしてくれた。危ないところを助けてくれた……パートナーであり、恩人であり……その、とても大切な人です」

「そ、そこまで言ってくれるとは思ってもみなかったが……ありがとうな。俺の方こそ感謝してる。これからよろしく頼むよ、フラウ」

「はい! こちらこそ、末永くお願いします!」


 話しながら歩いているうちに、前方に小さな村が見えてきた。日も傾いてきたので今日はここに泊まることにしよう。


「すみませーん」


 村の門をくぐった後、近くを通りかかった老人に話しかける。すると、驚いたような顔を浮かべた。


「おや、旅人さんかね。こんなところに若い旅人は珍しいのう」

「はい、実は旅をしている途中でして。今夜だけでも宿を貸していただけたらと思うのですが」

「ああ、構わんとも。ただ、最近この辺りは物騒での。昼は凶悪な魔物、夜になると盗賊団が出没するんじゃ。君達みたいな若い子は特に狙われやすいから、注意するんじゃよ」

「わかりました。ご忠告ありがとうございます」

「なに、礼には及ばんよ。わしらはみんな家族のようなもんでね、困っている人がいれば助け合うのが当たり前なのじゃ」

「な、なにかあったら遠慮なく相談させてください!」

「ほっほ、そんなに畏まることはないぞ。わしらの村はいつでも歓迎するからの」


 そう言い残して、老人は去っていった。


「親切そうな雰囲気の村でよかったな。ここならドラゴンスレイヤーとか女神の信徒に狙われることもなさそうだし」

「はい、早速宿屋を探しに行きましょう」


 それからしばらく探し回った結果、ようやく一軒の宿屋を見つけることができた。


「ふぅ、疲れた……」


 俺はベッドの上に寝転ぶと、そのまま眠ってしまったのだった。



 翌朝、俺達は朝食を食べながら、これからの方針について話し合っていた。


「私は、失われた守護龍の信用を取り戻すために、一生懸命人助けをするべきだと思います」


 フラウは真剣に考えているようだ。


「なるほど、悪くない考えだと思うが、具体的には何をするつもりなんだ?」

「まずは、ドラゴンライダーとして各地を回って、人々の役に立とうと思っています」

「それはいいんだけどさ、どうやって人々を助けるつもりなんだ?」

「それは……そうだ! 昨日会ったおじいさんが言ってましたよね? この辺りには魔物や夜盗が出るから危険だって。まずはこの村から始めませんか?」

「確かにそれもいい案だな。いきなり大きな町に行ったりしたら、ドラゴンスレイヤーや女神の使徒に目を付けられるかもしれないしな……」

「はい! では早速魔物についての情報を集めて、退治しに行きましょう!」

「よし! じゃあ決まりだな」

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