第4話 ハニートラップですね。ご愁傷様です。
泥棒猫の正体に、ちょっとだけ興味が湧きましたわ。
「その愛らしい御令嬢とはどこでお知り合いに?」
「ふんっ。差別意識の塊であるお前は、男爵家のご令嬢のことなど知るまいッ!」
さっきから差別意識をふりまいているのは貴方ですけど。
「彼女とは、オーゼンブルッケン侯爵の舞踏会で出会ったのだ!
高貴な人々との歓談にも疲れ、月光に誘われて裏庭へ出てみたら――」
ああ。判りますわ。
オーゼンブルッケン侯爵が催す会は、知的な会話が飛び交う場ですもの。
貴方は話題についていけず壁の花か、無理に話題に加わろうとして恥をかいたか。
いたたまれなくなって、裏庭へ逃げ出したのでしょうね……。
「月の妖精が泣いていたのだ!
裏庭でしくしくと泣いているから、高潔な騎士にして紳士でもあるオレ様として放ってはおけず、どうしたかと優しく聞けば」
好みの容姿だったから話しかけたのですね。
「社交界でいじめられていて、助けてくれる知り合いもいないと泣いていたのダッ!
それからも会う度にいつもひとり。ひとりぼっち。なんという哀しい立場なのだ。
しかも実家では、なんでも欲しがる姉にいじめられているというではないか!
そんなかよわい女を放っておけるわけがあるか!? いや、なイッッッッ!」
露骨に怪しいですね。
なんですかそのなんでも欲しがる姉って。
普通はせめて妹でしょう。設定がいい加減すぎますわ。
それに、貴方の行くところ行くところに現れるとか怪しさ大爆発ですよ。
行動を把握されてるとしか考えられません。
ハニートラップ間違いなしです。ご愁傷様です。
小動物女が、舌足らずにさえずります。
「そうなんですぅ。ふりーどりひさまはぁ、いつもあたちをなぐさめてくれてぇ、すてきすてきぃ。
あなたみたいなぁ、おたかくとまったひとはぁ、かれにふさわしくないわぁ。
さっさとこんにゃくはきにー、どういちなちゃいよー」
ですが疑問ですわ。
ハニートラップだとすれば、何者が何のために?
私にとっては好都合な事態なんで乗るのにやぶさかではないんですけど。裏が判らないと気持ち悪いです。
このアホの実家であるサクセン家は爵位以外無価値です。
領地は荒廃しきっているので、再開発の費用を出せるうちくらいしか手を出す貴族はいないはず。
玉の輿狙いのバカ? この女の単独犯?
ですが爵位だけにつられるような情弱なら、このバカの好みを完璧に知ってるのはおかしいです。
そもそも私以外に、このバカの好みを完璧に知っている人間なんて――
「あ」
いた。いました。
全身から血の気が引くのを感じました。
まさか、そんな、どうして!? でも、あの子ならやりかねない!
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