追放されたら美少女が師匠で、勝てたら彼女を好きにしていいって!?

佐々木直也

第1話  死んでも意識は残るんだな?

 冒険者パーティを追放され、職を失ったカルジオレは、借金返済のために一か八かで単独の魔獣討伐に出掛ける。


 大物さえ仕留めることが出来れば、当面の返済と生活費はなんとかなるのだ。


 しかもオレの魔法なら一撃でいい。一撃当てることが出来れば大型魔獣だって仕留められる。


 そう──たった一撃だ。


 それを当てるだけでよかった……のだが。


「群れがあるなんて聞いてないぞ!?」


 オレは叫びながら、夜の森を全力疾走していた。


 つい先ほど、目的の大型魔獣は仕留めたものの、その配下にベアウルフという魔獣がわんさかいた。


 そしてオレは、そいつらに追い回されていた。敵討ちとでも言われんばかりに。


 背後からは、ベアウルフの息づかいが聞こえてくる。気配からして数十頭はいるはずだ。


 ベアウルフは、四足歩行だというのに人の背丈よりも大きい魔獣だ。熊と狼を掛け合わせたような姿をしている。そんな魔獣数十頭が、オレめがけて追いかけてきているのだ。


 魔法で走力を上昇していなければ、とっくの昔に食い殺されているだろう。


 とはいえこちらは、身体能力が貧弱な魔法士であり、対するあちらは、人間を圧倒する膂力と走力を持った魔獣だ。距離は徐々に詰められていた。


(くそ……! 方角が分からなくなった!)


 しかも今は深夜で、鬱蒼とした森の中だ。そんな中をでたらめに逃げていたら、来た道を見失っていた。


 そして今は疾走魔法を使っているから、方角を見定める魔法は使えない。


 魔法を切り替えるのには十数秒かかる。そのわずかの時間に、魔獣は追いついてオレを食いちぎるだろう。


「ハァ! ハァ! ハァ──!」


 もはや息も上がって助けも呼べないし、呼んだところでこんな時間では、森に出向いている冒険者なんていやしないだろうが。


 そんな絶望的な状況で、オレは、無意識のうちに明かりを求めて疾走して──


 ──月明かりが差し込んだ、開けた場所に出る。


 まずい! 遮蔽物がなくなっては距離を一気に詰められる!


 オレは走りながら後方に視線をやると、獰猛な牙を剥くベアウルフたちが一段とその速度を上げた。


(もはや……ここまでか……!)


 雄叫びを上げて迫り来るベアウルフたちが、まるでスローモーションのように見えた。


 まったく……29年生きてきたが、ろくな人生じゃなかったな。


 魔法士になるべく、子供の頃から修行に励んでいたというのに、今やその魔法士はお払い箱。世の中でいらない職業ナンバーワンと来た。


 もちろん、魔法の修行ばかりしていたから、友達はもとよりカノジョも出来なかった。


 でも、それでいいと思っていた。


 なぜならオレは、魔法士になると決めたのだから。


 だから脇目も振らずに精進して、死に物狂いでがんばって──その結果が、魔獣に食い殺される、か。


 はは……オレの人生、こんなもんか。


 面白くもなんともないが、笑うしかないな。


 そしてオレは足をもつれさせて、盛大にスッ転ぶ。


 疾走魔法で勢いが増していたから、数十メートルも吹き飛んだ。


 錐揉みしながら後方を見れば、ベアウルフの1頭が、オレめがけて大きな口を開けたところだった。


(これで終わりか……)


 妙に冷静なオレは、なんとなく願った。


(もしも生まれ変わりがあるのなら、来世は、忌々しい魔力なんて持たない人間になりたいもんだ……)


 その直後、オレの視界が真っ白になる。


 いよいよ死んだか、ってか死んでも意識は残るんだな?──などと場違いなことを考えたのはつかの間、地面を転げ回る痛みにオレは顔をしかめる。


 痛いってことは、まだ死んでない?


 オレは、痛みに呻きながらも起き上がり──そして絶句する。


 オレを食い殺そうとしていたベアウルフは、一本の雷槍に貫かれて、地面に縫い付けられていた。


 視界が白くなったのは、あの雷槍の光のせいか。


 そして次の瞬間、森の広場が至る所で爆発した、かのように見えた。


「な……!?」


 雷槍、火炎、氷結、竜巻……多種多様な攻勢魔法が、次々とベアウルフたちを屠っていく。


 その爆音と閃光の中、オレはあっけにとられていた。


(冒険者パーティがいたのか? だが、こんな時間に……)


 魔獣討伐は日中に行う。それがセオリーだ。


 夜は視界も悪くなるし、魔獣の活動も活発になるから、今回のオレのように、思わぬ接敵を許して窮地に陥りかねないからだ。


 にもかかわらず魔獣討伐に出向くとしたら、オレと同じく何かしらの事情があることになる。


 攻勢魔法の種類からして、かなりの大規模パーティのようだが……


 そんなことを考えているうちに、ベアウルフたちはあっという間に壊滅した。


「た、助かったのか……?」


 間もなくしてベアウルフたちの体は掻き消えて、紫色に輝く魔力が空気中に放たれる。


 討伐された魔獣の魔力は、討伐した相手へと吸い寄せられる。


 なぜなら、冒険者パーティなら吸収晶を持っているからだ。


 だからオレは、魔力が吸い上げられていく上空に視線を向けていき──


 ──その上空には、月明かりに照らされて、二人の女性が浮かんでいた。

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