第2章 アオハル
大会が終わって高校最後の夏休みを迎え、ようやく喧騒から解き放たれ、ほっとするひと時を過ごせていた。
京都にも海があることはあまり知られていないだろうか。天橋立、伊根、八丁浜、いずれも美しい海水浴場となる。我が家は夕日ヶ浦という名前の通り、黄昏れが美しい漁村の町で温泉の楽しめる舟宿をやっている。
海を眺めて釣り糸を垂らすと、潮騒の音色が耳元に伝わり心を癒してくれる。
俺は、まだ十七歳の若造だ。
本当に自分の将来の姿や思い描く夢とは何だろう……。甲子園への夢を絶たれた時からかすみに覆われた心境となり、大学の進路すら決断を下せなかった。
けれど、故郷はのんびりできる良いところだが、あまりにも刺激となるものが無さすぎる。ぼんやりしていると、母さんが西瓜を切ってくれ話しかけてくる。
「浩介、進学はどないすんのや?」
「ああ……。東京に行かしてくれんか」
決めかねていたが、本音を口にする。そろそろ決めなくてはいけない。
通天閣はなにわの名物としてよく知っているが、東京のシンボル、超高層ビルの連なる摩天楼の狭間に美しい花畑があるような気がしていた。
中学生の頃、日記にも綴っていたことを思い出す。もちろんのこと、恥ずかしくなり両親にも話していない。
「なんでや? 近くの大阪でええやろう」
「いやあ、東京の大学に進学したい」
これまで、長男として両親の言いつけ通り中学・高校と坊主頭で厳しい男子校を過ごしてくる。野球をやりながらも勉学に励んできた。偏差値だって悪くない。大学ぐらい自分で決めても良いはずだ。
「あほんだら、何言うか」
「もう一度、アオハルを探すのや」
「アオハルって、何や?」
「俺のもうひとつの青春だよ」
恋を探しに東京へ行くなど恥ずかしくて母親には言えない。きっと、両親は変な虫がつかないよう、中学から男子校へ行くように勧めてきたはずである。
都会の街で過ごす一人暮らしには夢や希望があり、新たなアオハルが待っていてくれると、仄かな望みを描いていた。
「またそんなんこと言うて」
「母さん、下宿も探さなくてはいけない。冬休みになったら下調べに行ってくるわ」
「まだ、合格もしてへんのに変な子供や。きっと、おとんも怒るで」
なぜかしら、母親の顔は怒りというより、眉を曇らしているように思えていた。
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