【アドベントカレンダー2022】暮木くんは『彼女』が欲しい
葛生 雪人
一日目 十二月一日の告白
私の幼馴染みに
この男がどういう人間であるかを説明するとき、私はいろいろ考えた挙げ句、こう説明するようになった。
「小学生くらいのときって、『何番目に好きな人』とかいうのあったでしょ? 緩士の場合はさ、そのランキングがコロコロ変わるのよ。昼休みだけでクラスの女子一巡することがあってね。悪いやつではないんだけど、そういうやつ」
その説明で理解できる人はまずいない。
だけど一ヶ月、いや一週間ほど同じ教室で過ごせば「ああ、なるほどね」となる。
恋愛事情にさえ目をつぶれば、彼はむしろいいやつなのだ。
「なあ、
重大な秘密を打ち明けるかのように真剣な顔で打ち明けた幼馴染みに、私は「あっそ」とだけ返した。
「冷たくないか?」
不機嫌な顔。
「知ってるでしょ。さっさと食べて体育館に行かないと場所とりに負けるの」
そう言いながらガツガツとお弁当をかき込む。今日は私の好きな白身魚のフライだった。ソースはかけない派。
その様子を見て、緩士はいっそう渋い顔になった。
「ソースはかけろよ。おばさんがせっかく入れてくれてるのに」
「言いたいことはそれだけ?」
「昼休みに体育館にダッシュって、男子かよ」
「それから?」
「だから。俺、クリスマスまでに彼女つくる」
「そう」
「そう、ってもっと何かあるだろ」
私は箸を止め、緩士を睨みつけた。
今さら何を言えというのか。
緩士のこの宣言は、去年もあった。その後約一ヶ月の間、告白しては振られ、振られてはまた次へと移り――そんなことを繰り返したことは幼馴染みの私だけでなく学年中の誰もが知っていることだし、なんなら先輩後輩、先生方、いろんなところに知れ渡っている。
だから十二月一日に緩士が真剣な顔をしていたなら、皆が皆、「ああ、今年もやるのね」と思うはずだ。
それなのに、この男だけは新鮮な顔でやってくる。
そして人の気も知らずに言うのだ。
「そういうわけで、まずお前に言おうと思う。才苗、俺の彼女にならないか?」
去年も第一号は私だった。
「丁重にお断りします。他を当たってちょうだい」
「やっぱりかあ!」
わかっているなら言わなければいいのに。
「まあ、二十四日までに彼女ができなかったら、うちにおいで。今年もうちのクリスマスケーキは花園町のお店のだから」
「お。なんて魅力的な。おばさんの料理もなんでもうまいし、それは捨てがたい。だがしかし、今年こそ俺はあの店のケーキを『彼女』と食べるんだ!」
「予約は早めにしといた方がいいよ。最近またお客さん増えたらしいから。あといろいろ種類あるから店頭で確認するのがおすすめ」
「マジか。そうだな、それじゃあ今日の帰りにでも寄ってくか」
「行くならついでにショートケーキ買ってきて」
ポケットから五〇〇円玉を取り出す。緩士も当然のように受け取った。
「お釣りは手数料ってことでいいよな? それでさあ、さっそく作戦会議といきたいんだが――」
この辺までがお決まりのやりとり。もはや様式美。まわりもなんとなくニヤニヤしながら聞き耳を立てている。
私はため息をついてから時計を見た。
ああ、こんなくだらない話に付き合っていたせいで、いつもより数分押している。まともに聞いていたら昼休みが終わってしまう。
「わかった。話は聞く。ただし、お弁当食べ終わるまでの間ね」
「え! 待て、お前の早食いじゃほとんど相談できないじゃないか」
そううろたえている間にも私はひとくち、ふたくちと、ご飯を口に運ぶ。「おい待て! 加減しろ!」と言われても容赦はしない。私には私の予定があるのだ。
「わかった。じゃあいろいろすっ飛ばして要点だけ言おう。俺、明日にでもB組の橋本さやかに告白してみようと思うんだけど、どう思う?」
彼がごくりと唾を飲み込んだのとほぼ同時。私は最後にとってあった花豆の煮物を口に放り込んだ。今日のは少し甘みが強くて胸焼けしそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます