1次会 山崎、白州 (※山崎先生視点)

 職員室には、部活動でもらったトロフィーが並べられている。

 酒姫部の歴代でもらったトロフィーも並べられている。最近は決勝戦出場止まりであったが、今回の2位の結果を受けて、大きめのトロフィーが並べられた。

 そして、特別賞の小さめのトロフィーも。


 並べられた歴代のトロフィーの中には、特に1つだけ大きなものもあった。


 全国品評会最優秀賞、白州、南部。



「山崎先生、トロフィー増えましたねー。こんな色をしたトロフィーは初めてですよ。特別賞だなんて。いやいや、お手柄ですよ。これで理事長にも顔が立つ」


 教頭は久しぶりに良い結果が出たことにご満悦であった。


「昔の感が戻ってきましたか? ‌白州先生を教えていた時の。あらためて見ると、1番大きなトロフィーですもんね」


 ‌教頭は大きなトロフィーを、うんうんと眺めている。

「……いや、やめてくださいよ。私はなんにもしてないんですって、みんながそれぞれ考えて、頑張ったんですよ」


「白州先生がここの生徒だったころ、全国品評会で最優秀賞を獲った時は、学校全体で大騒ぎでしましたなー。そんな日の事を思い出しましたよ」


 教頭先生はトロフィーの入っている棚を閉めた。

「大会のあと、白州先生は何故か酒姫にならずに、教師を目指すって言った時は驚きましたけどね。こうやって、またこの学校に貢献してくれているんで、助かりますけど。……あれから20年ですか……。長かったようで、短いですね……。こんなに大きなトロフィーがあるのに、この話あまり知られていないんですよね」


「白州ちゃん、昔ばなし嫌いだからね」


「ははは」


「山崎先生、推し活部は、この先どうするんですか?」


「ちゃんと結果残せたんで、このまま続けたいと思いますよ」


「いや、1年生、2年生共にもう進路が決まったようなものでしょ。これから先の部活ってことです。酒姫部と同じ活動になってるので、次の理事長会で聞かれたらどうしようかと……」


「うーん、あれですかね、残ったあいつらで酒彦部とかにすればいいんですかね? 」


「ははは、ご冗談が上手い。推し活部のメンバーって言ったら、黒小路君と、藤木君ですよね。どっちもビジュアル的に難しいでしょ」


「ははは。面白いですか? ‌冗談では無いんですけどね。僕でもなれたんですから」


「……はて? ‌何を言っているんですか? ‌どちらにしても、悪い冗談は止めてくださいね。せっかくの良い成果なのに、理事長からお叱り受けたらたまったもんじゃないですからね」



「はは。酒彦も奥が深いってやつですよ」


「……山崎先生、次の理事長会で聞かれねそんなこと言うなら、早々に新しい逸材でも見つけてくださいね」


「大丈夫です。 あいつらは逸材ですよ」



 そんなやり取りを教頭としていたら、白州ちゃんがやってきた。

 白州ちゃんは、僕のところに来て怒鳴り始めた。

「山崎先生。そろそろ私を認めてくれてもいいんじゃないですか?」


「認めてるよ。酒姫部、順調だよね。うちのメンバーもお世話になって、白州ちゃんも教える立場としても成長したよ!」



「……そうやって、いつまでも子ども扱いして! ‌これで、私も山崎先生に追いついたじゃないですか! ‌一緒の目線になれたら、私のことも考えてくれるって……」


 白州ちゃんが乙女な眼差しを向けてきた。

「……いやいや、そういった話は、こんな所で迫られても……」


 教頭は興味津々に、こっちを見てきた。

 やはり、この教頭は好きになれないな……。


「こんな所でいいんです! ‌いつまでも逃げないで下さい! ‌教頭に証人になってもらいます! ‌私と――」


「……教師と生徒はダメでしょ」

「私も教師ですよ!」


「……僕はもう、こんな歳だし」

「歳なんて関係ないです!」


「……部活動って忙しいじゃん?」

「もう一段落しました!」


「……僕は家でゴロゴロしてたい人なんだけど」

「そうだと思ってます! ‌そこも含めて好きです!」


 教頭は相変わらずニヤニヤして見てくる。


 白州ちゃん、僕が色んな言い訳してるのに、全部に食い下がって来て……。


「逃げんな!」


 とうとう怒り出すし……。


「……分かったよ」


 ようやっと白州ちゃんはニコニコしだした。

「推し活は、自分の好きな道に進めって教えてくれたのは、山崎先生ですからね!」


「過去の僕に言いたいね、発言には責任を持つようにって……」

「責任取ってくださいね!」


 ‌……白州ちゃん、なんか、目をつぶって待ってるし……。


 ‌教頭は女の子みたいに、自分の手で目を塞いで、指の間からチラチラ見てくるし……。


 僕が、どうしたものか悩んでいると、全然答えが来ないと白州ちゃんが片目を開けて、僕に抱きついて無理やりキスしてきた。


 ‌教頭が「きゃあ」なんて言ってるし。


 ‌……僕も男を決めて、責任を取るか……。

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