後夜祭
0次会 酒姫
「――以上で、入賞チームの発表を終わります。素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた酒姫達に大きな拍手をお願いします」
会場には、再度大きな拍手が沸いた。
「藤木君、落ち込まないで。僕たちも、彼女たちも、十分頑張ったんだ。胸を張って最後まで見届けよう」
部長も僕も精一杯の拍手を送った。
応援していたチームが入賞を逃してしまったと、泣き崩れているファンもいた。
泣きながらも、最後まで精一杯拍手を送っている人もいた。
僕たちも、泣きながらも一生懸命に拍手を送った。
たとえ負けてしまっても、よく頑張った。素晴らしかった。
そういった心の声を叫んでいる人たちも、会場には大勢いた。
みんな涙声であった。
「一生懸命やって、負けたんだ。悔いも残さないように頑張って。だからここまで来れた。拍手で見送ろう」
拍手は鳴り止まなかった。
そんな中で、司会者が困ったようにしゃべり始めた。
「……えぇと、ここでイレギュラーなのですが、1つ新規に賞を設けようと審議がありましたため、発表させてもらいます」
ここで終わりかと思ったステージにて、何か新しい発表が始まった。
司会者がしゃべり始めたため、拍手の手が止まった。
また、会場は静寂に包まれた。
「……えぇと、審査員特別賞があるとのことです」
なんの事か分からなかった。
今日のパンフレットに書かれたスケジュールには、そのような文字は一切入っていなくて。
呆気に取られていると、次々と名前が読み上げられていった。
推し活部のメンバー3人の名前も読み上げられ、入賞出来なかった二階堂さんや酒姫部のメンバーも呼ばれたり、他の学校の人も何名か呼ばれていた。
「この方たちには、特別賞を贈らせて頂きたいと思います。私は、あまり詳しくはわからないので、審査委員長、お話をよろしいでしょうか?」
そう紹介されて、ステージの上には審査委員長があらわれた。
「はい。初めまして。審査委委員長を務めさせてもらっております」
そういうと、落ち着ていた口調で話し始めた。
「今年はとても良い大会でした。逸材揃いの大会だったと思います。敗者復活戦をやるなどして、イレギュラーづくめでしたが、そうまでしてでも光る原石を見ていたいと思いました。できる限り長い時間」
一言一言、丁寧に噛みしめるように、審査委員長は話していった。
「そんな光る原石を見ていると、その原石たちは日に日に磨かれて、輝きを増していって、敗者復活戦の時よりも今日の方がもっと良くなっていたりして、入賞できなくても、ここでその原石を逃すのは惜しいと思いまして、急遽新たに賞を立てさせてもらいました」
会場がどよめいた。
どういうことなのだろう。
特別賞に呼ばれたメンバーが大きなスクリーン上に次々映し出された。
各々が最終ステージで歌っていたシーンが流されている。
「この方たちは、酒姫になるに相応しい人材です。私のところでさらに磨きをかけて、デビューを目指して頂きたいです。入賞を果たした人もですが、特別賞の皆様にはとても期待しています。これからも頑張って下さい。あなた方は、もう立派な酒姫です。以上です」
会場は呆気に取られていたが、自分の推していた酒姫がそこに選ばれたことを認識すると、喜んで叫び出す人もあらわれた。
「……藤木君……、これって酒姫としてデビューできるってことだよね……」
そう言った部長の方を見ると、両目の外側から溢れ出した涙でキラキラと輝いていた。
僕の頭には、何も入ってこなかった。
とても綺麗に輝いていた原石。
僕もずっと見ていたいと思っていた。
南部さん、茜さん、泡波さん……。
僕の思考を待ってくれるわけでもなく、入賞を果たしたメンバーや特別賞に選ばれたメンバーが次々とステージ上に呼ばれて一言ずつ今の気持ちを求められていった。
そうやって、酒姫部、推し活部のメンバーがしゃべっていても、まだ全然実感がわかなかった。
推し活部のメンバーが酒姫になれたなんて……。
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