3次会 祭りの準備
「揃いましたね。メンバー! さすが藤木君です。頼りになりますね!」
南部さんが僕の方を見つめながら言うので、少しドキッとした。
「……いえいえ、僕は何もしていないです」
「うーん、そうですね! 言われてみれば何もしてないですね!」
南部さんは素直なのか、ところどころで毒があると思う。
「メンバー揃ったのはいいですけど、そもそも清酒祭の演し物って、勝ち負けってどうやって判定されるんですか?」
「全校生徒が投票行って決めるんだ。男子も女子も関係なく全員。先生なんかも投票権を持っているよ」
「へえー。凄い、学校巻き込んでの人気投票なんですね!」
「あんなこと言われたからには、勝ちたいよね茜氏!」
「やるからには馬鹿にされたくはない」
「私も」
「山崎先生、勝たないと部が無くなるんですか?」
「勝ったら良いアピールにはなる。学校中へアピールする良い機会だな!」
「そうなんですね、勝ちたいですね! 茜さん、泡波さん!」
みんなの決意表明位つられて、南部さんも熱くなっているようであった。
「そうそう、団体戦は3人でやるにして、何を歌って踊るんだ?」
「一般受けするのが良いのか。知らない曲より知っている曲がいいよね。毎年だと、その年に流行ったような曲をやっているよ。敵が何をするのかはわからない状況だけど。被ったらちょっと勝ち目は薄いかも……」
「私にもわかるでしょうか?」
「勝ちたいけど、ハードル上げてしあっても完成度が上がらないだろうから、ポピュラーなものが良いのではないか?」
「藤木黙ってないで案出せ」
「あ、はい……。ここは、ド定番のSAKE48のデビュー曲なんてどうでしょうか……。僕はあの曲からハマりまして……」
「……いつの曲だよ」
「古い」
茜さんと泡波さんからなじられる。
「けど、みんな知っているから良いのでは? 南部さんも分かるよね?」
「はい! 藤木君が選んだのならこれがいいと思います!」
部長と南部さんは味方してくれた。
「……そうか? じゃあこれでいいか。明日から練習な」
不服そうだったが、茜さんも納得してくれたようだった。
◇
次の日、授業が終わり、推し活部の部室へと行く。
すると、茜さんが酒姫の衣装を着て席に座っていた。
「……えぇっと」
「これ衣装。まずは形から入るだろ普通。自分用のしか持っていなかったから、サイズが小さいんだよな。一応3着分持ってきたけど……」
――いやいや、茜さんはなんで何着も持っているんだ……。
「おつかれー。お! 茜氏さすが! キュート!」
「……ありがと」
茜さんの顔がちょっと顔が赤くなっている。
「衣装の事なら心配しなくても大丈夫だったのに。僕も持ってきたよー」
――部長が持っているのはおかしいでしょ……。
「おつかれれさまでーす!」
元気よく南部さんが入ってきた。
「えっ! 茜さん、すごい可愛い! どうしたんですか、その衣装!」
茜さんは、さらに赤くなっている。
「……南部の分もあるから着て」
「ありがとうございます。着てみます! あれ? たくさんある……。どれがいいんですかね?」
「大きいのは、僕が持ってきた分ね」
「……え、部長のはちょっと……」
「大丈夫。僕が着る用はもっと大きいから。それは観賞用ね」
「そうなんですね、なら安心です!」
――安心できない一言が含まれていたのだが……。自分で着る用も持っているのか、部長。
「どうもお疲れ様です。失礼します。茜さん可愛い」
「……さんきゅ」
茜さんは言われるたびに赤くなる。
恥ずかしいなら着なければ良いのに。意外と可愛いって言われたいのかな?
「泡波さんも衣装着てみてださい! みんなで一緒に着ましょう!」
「こっちは僕が持って生きたやつで――」
「キモイ」
泡波さんか一蹴された。
「私も持ってきているから大丈夫。コンタクトも持ってきた」
――なんでみんな衣装持っているだ……。
「流石ですね、準備万端ですね!」
「そしたら僕たちは一旦外に出るね。着れたら言ってね!アイドルに変身するところは、隠さないとだからね!」
部長は僕にウインクを飛ばしてきた。
……キモイ。
部室の外に出ると、南部さんたちが着替え始めたのであろう。キャッキャうふふと声が聞こえてきた。
変な気分にならないように、僕は窓の外を見ていた。入学式の時に咲いてた桜は少し散り始め、緑色の新芽が見えてきていた。それは新たな季節を感じさせた。
茜さんから終わったとの合図が来た。
「終わったみたいだね」
部長と共にドアを開けると、そこには3人の酒姫が立っていた。
「どうですか?」
「……とても可愛い」
赤いチェックのミニスカート。身体にぴっちりとあったジャケット。内側はスカートと同じく赤いチェック柄があしらわれている。ジャケットの袖をまくった部分にも赤いチェック柄。
部長達が待っているということは、偽物の模造品などではなく、本物の衣装と同等なのだろう。安っぽさは無く、重厚感が漂っていた。
南部さんは可愛いと言われたいのか、部長にも聞いた。
「部長、どうですか?」
「ばっちり! やっぱりミニスカートだから、小さいとまずかったよ茜氏!」
泡波さんはコンタクト姿になっている。
眼鏡に隠れていたが、目はぱっちりと大きく、鼻筋も通っており美人に分類されるだろう。
「久しぶりに見た泡波氏の酒姫姿! やっぱりそっちの方が似合うね!」
泡波さんは少しはにかんだ。
口角が上がり、整った白い歯が少し見えた。
とてもかわいい。ギャップの破壊力がすさまじい。
泡波さんは笑った顔のまま、小声でつぶやいた。
「黒小路、キモイ死ね」
毒舌はそのままのようだった。
「そうだな。一回曲に合わせて踊ってみよう!」
茜さんと泡波さんはポジションについて、ポーズをとって止まっている。
「……えっと、私はあまり知らないのですが……」
とりあえず、南部さんは横に並んで、それっぽいポーズを決めていみている。
茜さんがセンターで、隣に二人がいるフォーメーションになっている。
イントロが流れ始める。
酒彦のダンスの時と同様で、茜さんのダンスには切れがあった。
小さな身体をきびきびと動かして、ダンスを踊っている。
隣にいる泡波さんも茜さんとぴったり合うように同じダンスを踊っている。
少し身長が大きいからか、茜さんとは違ったダイナミックさが出ている。
何の打ち合わせもせず、ぴたりと合う動き。
酒姫部にいたところは、きっと二人とも相当な実力があったのだろう。
体育館で見た酒姫部に全く引けを取っていない。
南部さんは、ワンテンポ遅れて茜さんの振りを見て、それに似た動きをしている。
初めて踊るであろう、リズム感が同行の問題ではなく、ダンスになっていない。
茜さん、泡波さんが揃って歌い始める。
以前聞いたのとは違い、茜さんの女性らしい歌声。綺麗に部室へと響く。
泡波さんもしゃべり声とは裏腹に、ちゃんと聞こえる声で歌っている。
パートが分かれたりしないため、二人で一緒のメロディを歌っているが、音程もそろっていて、完成されているように感じた。
一方、南部さんの歌だけ音程が外れている。
見た目は引けを取らないのだが、むしろ僕にとっては一番輝いて見えたのだが、曲が始まると、一気に輝きを失った。
そんなことを考えているうちに曲が終わった。
「はぁはぁ。意外とできるもんだね。レイ」
「はぁはぁ。久しぶりにやりましたよ」
「ブラボーブラボー! みんな 良かったよ!」
部長がスタンディングオベーションしている。
「南部もこのくらい踊れるようにレッスンだな。私たちに大口叩いたからには、このくらいできないとね」
「手取り足取り教えるから。私も手伝う、茜」
「私から誘いましたが、私に出来るでしょうか……」
「大丈夫!私たちに任せて! はぁはぁ……」
「最初はみんな不安だけど、やってみたら楽しいから。はぁはぁ……」
先輩方は久しぶりに踊って息が切れてるのだろうが、はぁはぁ言われながら南部さんが迫られるというよく分からない光景を見せられた。
「微力ながら僕も手伝うよはぁはぁ」
何故か一緒になってはぁはぁしている部長もいたが、それはそれは完全に気持ち悪かった。
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