2次会 遅れてくる子は可愛い

「藤木、お前は部長の隣の席な」


 入部を認められた僕は、席へと案内された。

 部室内をよくよく眺めると、酒姫のポスターが張られていたり、棚には酒姫の名前がラベリングされた書類ファイルが綺麗に並べられていた。

 さすが推し活部といった様相であった。


 棚のファイルを眺めまわしていると、部室のドアの向こうで足音が聞こえたので、誰か来たのかと僕は席へと戻った。


 ――コンコン。



「はーいどうぞー」


「……失礼します」


 ドアが開くと、そこには、輝くばかりの絶世の美少女が立っていた。



 透き通る白い肌。ぱっちりとした大きな目。筋の通った鼻。

 肩にかかるくらいの黒髪ロングが清楚系な印象であった。

 少し眉の整えが足りていないのだろうか、少し垢ぬけなさがあった。



「すいまんせ。こちらが、推し活部の部室と聞いてやってきました」


 透き通った綺麗な声が部室内を満たした。


 慌てて部長が立ち上がった。

 勢い良く立ち上がったことで、部長が座っていた椅子が倒れてしまった。


「……そ、そ、そうでござる! こ、こんな美少女、何かの間違いでは! 茜氏ー!!」


 浮足立つ部長がいてもたってもいられず声を上げた。

 きょどきょど慌てながら部長はドアへ近づいていく。


「うっさい。部長はやっぱり黙って」


 相変わらずスマホをいじっていた茜さんが冷たく言い放った。

 茜さんはゆっくりと立ち上がり、ドアのところまで出迎えた。



「どうも、初めまして。ここは推し活部です。もしかして入部希望の方でしょうか?」


「はい、部活動紹介を見ていたら少し気になりまして……。あの、酒姫というものに少し興味が沸いたもので見学をと……」



「茜氏!! やっぱりあの熱い部活動紹介は成功……」


 そこまで言いかけたところで、茜さんからの蹴りが飛んできた。


「……いたっ。……もう、茜氏は乱暴だなぁ……。いつもはもう少し優しいのに……」


「早く戻れ!」



 ‌部長はシュンとしながら、僕の前の席に戻ってきた。


「あなたは、誰か推しのアイドルがいるのかしら? ‌なんでこんな部活に?」



「……いえ、あの、部活動紹介の熱い感じがカッコイイなって思いまして、せっかくの1度きりの高校生活、私も何か熱中してみたいと思って、この部活に来ました」


 美少女は、キラキラとした眼差しを茜さんへ向けている。

 にごりの無い純粋な目。

 あの目を見つめているだけで、僕は彼女に酔ってしまいそうだと思った。


 ……いかんいかん。



「入部希望は嬉しいけど、ちょっとあなたが推し活をする姿があまり想像できないな……すぐ部活やめられちゃうと困っちゃうしなぁ……」


 茜さんが何やら悩んでいるようだった。


「もし酒姫に興味があるなら、この高校には酒姫部があるわ。歌って踊れる酒姫を目指す酒姫部・・・。あなたは推し活部よりもそっちに行くと良いと思うのだけれども……、それでもうちに来たいの?」


「とりま、仮入部という形で、しばらくの間見学するといいのでは?」


「ちょっと部長は黙ってて! この子に聞いているの!」


 真剣な目を向けられた美少女は、困っているようであった。



「……私は、酒姫が何なのか、正直あまりわかっていません。……だけど、一度きりの高校生活、熱い人達と一緒に何かに熱中したいんです……」


 茜さんは相変わらず、美少女を怪訝な目で見ている。



「……何も持っていないこんな私ですが、一度きりの高校生活、一緒に熱い日々を過ごして頂けないでしょうか? 大人になっても色あせることのない熱い日々を過ごしたいです!」


 ――彼女の目が僕を捉えた。


 透き通った声、濁りの無い目、癖の無い水のように澄んだ心。

 それらがすべて僕の中に入ってきた。

 一気に胸が熱くなる。

 お酒を飲んだことは無いが、きっと初めて日本酒を飲んだらこんな気持ちになるのだろう。



 身体全体が熱くなり、高揚する気持ちが抑えられなくなった。

 そのままの勢いで、僕は立ち上がっていた。



「部長、茜さん! 僕は彼女をプロデュースしたいです!」


「はあ?」

「はあ?」

「はあ?」


 三人から特大のクエッションマークが飛んできた。



「僕は、彼女を酒姫にしたいです! ぜひ彼女を入部させてあげて下さい!」



「おい、藤木……。将来プロデューサーになりたいのはさっき聞いたが、いきなりだなぁ……」


 茜さんは僕の言葉にあきれていた。



「まあまあ、茜氏。部活動存続のために、入部希望者を2人以上集めなくちゃいけなかったのと、部活動の目的をあらためて決めなくちゃいけなかったことだし、藤木君の今の提案を受け入れるってのは良いのではないだろうか?」


「……ああ、そっか、それもあったな。……しょうがないか、これ以上メンバー集まることも期待できなそうだし……。わかった。入部を認めよう」


 美少女の顔に笑顔が咲いた。

 彼女の笑顔を見せらると、こちらの口角のネジが強制的に外されて、否応なしに口元が緩んでしまう。

 胸の熱さにとどまらず、顔も火照ってきた。


「じゃあ、あらためてあなた・・・のお名前と、この部活でやりたいことを宣言して下さい!」


「はい。私は、南部なんぶ美吟みおとといいます。この部活では、熱くなれる何かを皆さんとやっていきたいと思います」


 すがすがしい宣言であった。

 だが、茜さんがストップをかけた。


「南部さん? ダメやり直し。部活動の目的立てなきゃいけないから、藤木浩二・・・・にプロデュース・・・・・・・されて酒姫になります・・・・・・・・・・と宣言お願いします。これって十分熱い活動だよ?」


 南部さんはかなり困った様子であったが、茜さんの圧に負けて言わされることになった。


「……私は、南部なんぶ美吟みおとです。この部活で、藤木浩二君にプロデュースされて立派な酒姫になりたいと思います……」



「……茜氏、これ、パワハラで訴えられたら絶対勝てないよ……」

「しょうがないだろ、そうしないと5月を待たずしてこの部活自体存続が怪しいんだよ……」


 半ば強引であったが、僕たち4人・・の推し活部として活動が始まった。

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