最強種の弟子は自重を知らないようです。

ふぃるめる

第1話 拾われた赤子

 「可愛そうに……」


 廃墟となったコルマールの街の一角で、最上位種として恐れられるドラゴンの中でも竜神として崇められるエンシェントドラゴンは、路傍に捨てられた赤子を見つめながら呟いた。

 その赤子は、逃げるにも邪魔で隠れるにも邪魔だと生まれたばかりにも関わらず捨てられてしまったのだった。


 「ふむ、私の姿がそんなにも面白いか?」


 赤子は畏怖の対象たるエンシェントドラゴンを見つめて泣くどころか笑顔を浮かべていた。


 「随分と肝の座った赤子ね。どれ、一つ私が引き取ってみようかしら」


 エンシェントドラゴンは人化した。

 鱗同様に白銀の長い髪は、キラキラと艶めきミスリルの輝きを彷彿とさせる。

 そんなエンシェントドラゴンは、赤子の傍にしゃがみ込みそっと赤子を抱き抱えた。


 「あうあうあう」


 赤子は抱き抱えられると何かを欲しそうに口をすぼめた。


 「そうか、お乳が欲しいのか」

 「たんと飲みなさい」


 恥じらいもなくエンシェントドラゴンは、胸元をはだけさせ、赤子に乳を与えた。


 「拒絶反応さえしないとは驚かせてくれるわね……」


 異種族、とりわけ最近種族のお乳を美味しそうに吸う赤子にエンシェントドラゴンは驚きの表情を浮かべた。


 「尚更、お前の今後が楽しみになってきたわ」


 しばらくして満足感を覚えたのか赤子はエンシェントドラゴン脳での中で眠りについた。

 その頬を指先でつつきながらエンシェントドラゴンは歩き出した。


 「そこの女、止まれ!!」


 街を出ようとしたところで、コルマール一帯を廃墟へと変えた原因であるファティマ帝国の兵士が誰何した。


 「所用で急いるわ」


 そんなのはどこ吹く風とばかりにエンシェントドラゴンは歩みを止めることは無い。


 「止まらなければこうなるぞ?」


 兵士の一人が周囲に散乱する逃げ遅れた住民たちの亡骸の一つをエンシェントドラゴンの前へと放り投げた。


 「嘆かわしいわ……」


 ため息混じりに手を水平方向に一薙ぎすれば男の首が胴体から離れた。


 「この女を討ち取れ!」


 軍馬に跨った指揮官らしき男の声とともに槍を持った兵士たちが彼女を取り巻くようににして槍を構えるがやはり足を止めることない。

 逆に怖気付いた兵士たちの側がジリジリと退がる始末だった。


 「お前たちはあれを見てもなお私の実力が測れぬ愚か者なのかしら?」


 人化したとはいえ、それでもなお人の基準では測ることの出来ない実力を有するエンシェントドラゴンは、漆黒の魔力球を生成するや否やそれを爆発させた。

 瞬く程の間に、兵士たちは武器を取り落とし絶鳴をあげることなくその場に倒れ伏したのだった―――――。


 ◆❖◇◇❖◆



 僕には父親も母親もいない。

 でも僕を拾って育ててくれている人がいる。

 名前はウィルヘルミナ、種族はドラゴンなのだそうだ。

 レオンという僕の名前を付けてくれたのもウィルヘルミナだった。


 「そうね……では次はこの魔法を試してみなさい」

 

 ウィルヘルミナが僕の目の高さに魔法陣を浮かべた。

 その魔法陣、つまりは術式を理解し魔法を行使する、というのが最近の日課だった。

 ちなみにこの前までは言語の習得と生活の術を教えて貰っていた。

 

 「う〜ん……こうかな?」


 ウィルヘルミナがくれた記憶の魔眼で術式を理解する。

 ところがいくら魔力を込めても何も起きなかった。


 「レオン、それは違うわ。もっと深く深淵を見つめなさい」

 「でも深淵に近づきすぎて堕ちてしまった人もいるってウィルヘルミナは言ってたよね?」


 魔法の深淵に近付くことで、より深く理解し更なる力を引き出すことが出来るがそれは危険との引き換えであることは、魔法を教わるのと同時にウィルヘルミナが教えてくれた。


 「安心しなさい、深淵に取り込まれそうになっても私が引き戻してあげるわ」

 

 拾われてから八年、嫌という程に母ウィルヘルミナの強さは知っていた。

 その彼女が言うのならきっと間違いない。

 僕が深淵に堕ちそうになっても必ず助けてれる。


 「わかった。深淵を見つめて来るよ!」


 魔眼を凝らして術式を凝視する。

 そしてそれを記憶し自身の魔力で展開。

 ここまではさっきと同じ、でもここから先が深淵に近付くために必要な手筈。

 展開させた術式にウィルヘルミナが浮かべた術式を転写して間違いを探していく。

 さらにその過程で術式の持つ魔力の帯同を発見し、魔力の薄い箇所に手に僕の魔力を注ぎ込む。

 この過程を術式の掌握というらしい。

 

 「掌握出来ました!」


 ウィルヘルミナにいつでもこの術式を持つ魔法が行使可能だと伝えると、満足そうに微笑んだ。


 「なら、あそこにいるドラゴンに撃ってみなさい」


 ウィルヘルミナが指さしたのは空高くを飛ぶ翼竜だった。


 「ウィルヘルミナの仲間じゃないの?」

 「あれはここが私の領域と知って飛んでいる下賎な竜よ。構わないわ」


 ウィルヘルミナは、最上位種のドラゴンの中でも頂点のエンシェントドラゴンだからきっとあの翼竜は仲間では無いということなのかな……?


 「なら、やるよ?」

 「えぇ、やっておしまいなさい」


 指先の一点に魔力をかき集めそれを浮かべた魔法陣へと解き放つ。

 空高く放たれた魔法は、翼竜を追尾し空中で大爆発を起こした。


 「やった!」

 「今のは火属性の超級魔法、【焔獄滅火ボルカノ】よ。指定した対象に対してレオンの魔力が届く限り追いかけてくれから必ず覚えなさい」


 初級、中級、上級を通り越して超級の魔法なのか……。

 ウィルヘルミナから教わった知識によれば超級魔法は威力で言えば上級魔法の十倍、帝級ともなればその十倍はあるのだという。

 僕は自分とウィルヘルミナ以外の人を知らないから、超級魔法が使えてもどれだけ強いのかは分からない。

 きっと僕みたいな八歳児でも使えるのだから、世界には超級魔法を使える人は多いのだろう。


 「魔力は今のでどれくらい減ったかしら?」

 

 そんなに疲労感はないからきっと魔力は大して減っていないはずだ。

 鑑定の魔眼を凝らしてみるとだいたい一割くらいしか減っていないことがわかった。


 「一割だよ」


 そう答えるとウィルヘルミナはニヤリと笑った。


 「ならあと十種類、超級魔法を覚えてもらうわよ!」


 魔力が枯渇した時の疲労は知っているから自然と顔が引き攣った。


 「減ったら足すだけの話しよ、安心して学びなさい!」


 ひょっとして何か焦ってるんじゃないかと思う程に、今日も今日とてスパルタだった。


†あとがき†


 とりあえず連載します。

 なぜ少年のポテンシャルが高いのか、そしてなぜウィルヘルミナは焦っているのか、それはそのうち作中で明かしていく予定です。

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