第十二話 本音
「うん。アタシはセンセーの授業受けるよ。だって……ね? 必ず合格に導いてくれるらしいし?」
またしても、イヤミったらしい笑顔でこちらを見やる神楽坂。
「いや、まあ確かにそうは言ったけどよ。こうも急に態度が変わるものなのかって、正直驚いてるんだよ。俺は──お前のことを、信用していいんだろうな?」
あの時、ビショ濡れになりながら吐き出した彼女の思いはきっと、本気で本物なのだろう。
しかし罠に嵌められた経緯がある手前、手放しで信用できるというわけでもない。基本的に俺は、性悪説論者なのだ。
「うん、信用してくれていいよ。今のままじゃいけないっていうのは、アタシも分かってたことだから。もう逃げるのはナシにする」
「そ、そうか。だったらまあ、いいんだが」
迷わず返答した彼女の横顔は、先ほどとは打って変わって花のように凛々しくて。想定外の反応に、俺は思わずたじろいでしまった。
「たぶん、さ。アタシには、きっかけが必要だったと思うんだよね。上手く言えないんだけど、こう、ガツンとアタシの気持ちを変えるような何かが、アタシは欲しかったんだと思う」
自らを省みるように、彼女が虚空を見上げる。
「まあ、ぶっちゃけ? 今日のセンセーの説教には結構ムカついたとこはあるよ? だからアタシも我慢できなくなって、制服がスケスケになるくらいズブ濡れになってでも言い返したの」
「あ、うん。すまん。アレに関しては俺が言いたい放題言ったところもあったと思う」
一ヶ月分のストレスが溜まっていたのもあるが、あの時の俺は本当にどうかしていた。
まったく。なぜあんなに熱くなってしまったのやら。
「あはは、いや、別に良いんだよ? どう考えたって悪いのはアタシなんだもん」
「フッ。まあ、それもそうか」
「ふふ、センセーたら辛辣ぅー」
ケタケタと笑い飛ばし、バシっと俺の右肩を叩く神楽坂。
「ま、なんていうの? たしかにセンセーにはムカついたんだけど、裏を返せばそれってセンセーの言葉がアタシに響いてるってことなんじゃないかなーとも思ってさ? 言われたらイヤなことを言われたからアタシはものすごく腹が立ったんだろうけれど、結局それって自分が気にしていることに図星を突かれたから腹が立ってるってことなんじゃないかな、って。だから……きっと、センセーが言ってることは正しくて。正しいからこそアタシはイラついたんだろうな、みたいな。雨に打たれながら頭が冷えてくるうちに、だんだんそう思えてきたの」
淡々と語る彼女の姿はとても『家庭教師を騙す』なんて愚かな行為を働くような少女には見えず、むしろ聡明な雰囲気すら醸し出しているように見えた。
「なあ、一つ聞いていいか?」
ゆえに。若干の違和感を覚えた俺は、問いかけずにいられなかったのである。
「お前は、どうして俺を陥れるような真似をしたんだ?」
火遊びをするようには思えない彼女が、どうしてあんなことをしたのだろうか、と。
その動機だけは、どうしてもハッキリさせたかったのである。
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