ナチュラルに4時なんですけど。
絵 具丈夫
はじめに
黒い箱はずっとそこにありました。
誰が置いたわけでもない黒い箱は隙間を持ちませんでした。
はじめは皆が箱の中を暴こうとしました。
しかし、誰一人として箱の中を見ることはできませんでした。
黒い箱は誰からも箱として認識されなくなりました。
箱は相反を持たねば箱と呼ばれません。
黒い箱は箱でしたが、箱ではありませんでした。
ある日のことです。
この箱の風上にも置けぬ黒い箱が置いてある町のことです。
青年が一人、家の中で即席麺にお湯を注ぎました。
お湯は熱を空気に奪われながらもお湯であることを維持していました。
ただ、青年の食欲が満たされ、排水口に注がれるとお湯はお湯であり続けることを諦めました。
結局、元々お湯でなかったお湯の意地などその程度のものでした。
お湯を捨てた青年の趣味は、夢を見ることでした。
夢の持つ魅力の一つに、非現実というものがあります。
しかし、青年はその魅力に嘆き、悲しみ、憂い、泣きました。
非現実と名乗っておきながら、結局現実でない現実ということが耐えられないのでです。
夢の中で黒い箱を開けたとき、中に入っていたのは昔に失くした玩具でした。
そんなもの、この現実を見て回ればありふれた非現実です。
黒い箱は、箱ではない箱なのです。
その中身が箱に入れるもののはずがないのです。
青年は悔しくなって涙を滝のように流しながら黒い箱に聞きました。
「お前は何を仕舞っているのか」と
すると箱は答えました。
「長くここに置かれている私の体に苔が生えてはいないか見てくれないか」
青年ははっとしました。
理解したのです。黒い箱が箱であることをです。
ひどく忘れがちになることですが、くっつけた磁石を剥がすのには、くっつけたときと同じだけの力が必要であり、動いた歯車を止めるのは容易ではありません。
それは物体でも思考でも変わらない絶対のことです。
青年は箱を開けようと思いました。
寝る前に箱の中に狐を一匹入れたことを思い出したのです。
青年が箱に手をかけ、箱の上面を持ち上げました。
中には狐が一匹いました。
当たり前のことです。入れたのだから入っている。
黒い箱はお湯よりも強い矜持があったのです。
青年は心に喜びを感じながら、改めて寝る前のことを思い返しました。
そういえば金の延べ棒を三本ほど箱にしまっていたのです。
そのことを思い出した青年は、目を輝かせながら箱の中を見ました。
するとどうでしょう。何もありませんでした。
青年はこの黒い箱が箱だということを忘れていました。
青年は自分の阿呆さを泣き、目を覚ましました。
夢から覚める夢を見るのが、止まりませんでした。
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