6 At a summer resort in Northern Italy./北イタリアの避暑地にて。

6 At a summer resort in Northern Italy./北イタリアの避暑地にて。



北イタリアの避暑地は涼しい夏だった。肌にあたる風は心地よさを感じさせた。その女性は美しい黒髪を靡かせていた。彼女は買い出しに来ていた。様々な店をまわり、必要なものを買い揃えていた。次に向かうのウォルター・ミティの果物屋だった。店の前に行くと十種類を超える数の果物が並べられていた。


「今日は桃が安いよ!」


店先では店主が客を呼び込んでいた。


「お、いらっしゃい。桃買ってくかい?」


店主は女性に気付き声をかけた。嘘ひとつない笑みだ。


「えぇ、二つちょうだい」


女性は流暢なイタリア語で話した。店主は桃を茶色の紙袋に詰め、女性に渡した。彼女は財布から現金を渡した。


「今日、旦那さんは?」


店主が女性に聞いた。


「まだ寝てるわ」


女性は呆れたように言った。


「そうかい、疲れてるんだろう。休ませてやりな。今日もありがとうね」


店主はそう言いながら彼女を見送った。


「あの人、結婚してるのかい?」


買いに来ていた男性客が女性の背中を見ながら店主に聞いた。


「結婚してるとは聞いたんだが、旦那さんを見たことねぇんだ。一度も」


「本当はいなかったりして」


男性客は笑いながら言った。


「そんなわけあるか。いつも二人分果物を買ってくんだ」

「もしかしたら、彼女にだけ見えてるとか」

「幽霊とでも言いたいのかい?」


店主が震えながら言った。


「俺は幽霊はいないと思うな」

「じゃあなんだってんだい?」

「頭の中にしかいないとか?」

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