異世界アパート~玄関は異世界なのでベランダから出社します~

ちゃろくん

第1話 玄関を開けると、そこは異世界でした。

「おはようございまーす。ウキウキモーニングの時間です!今日も朝から元気に情報をお届けしますよー!はじめにお送りするのは・・・」


 1ルームの安アパートに置かれたテレビ。流れる朝の情報番組をBGMに朝食を済ませた俺は、いつものくたびれたスーツに着替えて会社へ向かう準備を整える。

履きなれた革靴に足を入れてからふと玄関の鏡を見れば、眠たげな自分の顔がこちらを見ていた。

連日の残業に疲れがたまっているせいかな・・・?

頬をペシペシと軽くはたいて気合を入れ直し、狭い玄関の無骨なドアのノブに手をかけると、指先からひんやりとした冷たさを感じて、少し眠気が覚めた気がした。

ぐっと手に力を入れて少し重い鉄製のドアを開けば、登り始めた朝日が目に沁みる。

ホワイトアウトした視界が戻ると――――


そこに広がるのは、アスファルトと平屋の住宅街・・・ではなく、

レンガ造りで絵本から出てきたかのような西洋建築と、およそ現代日本には似つかわしくないファンタジー世界のような緩い衣服を着た人や、金属の装備に身を包んだ男たち。なんということでしょう!体毛に覆われた、猫や犬のような生き物も2足歩行で人々と同じように街を歩いているではありませんか。

俺はそっと鉄のノブを引いてドアを閉めた。

んー、今日はちょっと疲れすぎかもしれない。まるで異世界、ゲームの世界のような景色がこの家の外に広がっているなんてそんな馬鹿なことがあるはずがない。

もう一度鏡に向かってみる。俺の顔は先ほどよりも少し驚きで目が開いたくらいで、いつも通りの眠たげな顔がこちらを見返している。

もしかして頭がおかしくなったのか?俺の名前は、澄田耀平(すみだようへい)・・・

め、名刺も確認してみよう・・・うん、間違いない。黒田広告代理店の澄田。

そう、俺は今から名前の通り真っ黒な環境の会社に出社しようとしていたところ。

ってやばい!もう駅に向かわないと電車に間に合わなくなる!さっきのは何かの間違いだろう。しっかりしろ俺。異世界だかに行けるのは子供やお年寄りを庇ったところをトラックに轢かれて交通事故って相場が決まってるらしいじゃないか。

あまりにも現実離れした状況にかえって頭が冴えた気がする。ふうっとため息を一つついてから玄関ドアを開ければ・・・

そこはいつものアパートの出口ではない。やはりまごうこと無き異世界であった。

開いた口が塞がらないまま、今の状況を何とかせねばと思い澄田はおもむろにスマートフォンを手に取る。

「あの、先輩。澄田です。すみません。今日、ちょっと体調というか、頭が調子悪くてお休みをいただきま・・・す。」

それだけ伝えると、罵詈雑言が吐き出される板から手を放し、その場にへたり込んでしまうのであった。

「おれ、これからどうすればいいんだ・・・?」

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