第113話・生魚への挑戦

「美味そうだな~」


「前に飲んだくれの冒険者が自慢してたよな。新鮮な魚は美味いって」


「あのやろうの言うことは、嘘か本当か分からねえ自慢ばっかりだったけど、魚は本当に美味そうだ」


 昼食のメニューは、バーベキューコンロでの焼き魚と魚のスープにしたみたい。


 焼き魚は基本的には塩を振り焼くだけだが、種類によっては醤油をサッとかけて焼くと香ばしくて美味い。


 スープは塩で味付けした物と、味噌で味付けした物の二種類だ。


 味噌はあまり癖のない物を選んでいて、味もこちらの人達に合わせた物にしているようだね。


 後は本当に新鮮な魚を、これでもかと言うほど食べるだけだ。


「すげえ!」


「全然味が違う」


「固くもねえし塩辛くもねえ」


 村のみんなは焼き上がるのをじっと見つめ待っていて、魚が焼けていき脂がじわっと染み出してくるのを見ていた。


 ほとんどの人は海の魚と言えば、少し塩辛い魚や固い干物しか食べたことのないみたいで、信じられないような驚きの表情を浮かべて食べてるよ。


 川魚は食べてたみたいだけど、肉厚とか脂の乗りとか全然違うし、川魚独特の臭みとかもないからね。


 ふわふわの身は噛むと、じわっと魚の脂とうま味が染み出して、程よい塩気がまた魚の味を更に広げて美味い。


「なあ、こっちも食べられるんだよな?」


「おい! それは生だぞ!?」


「馬鹿野郎! 二度と食えねえかも知れねえんだ! 美味いなら腹壊すくらい構わん!」


 オレやエル達は普通に刺身も食べているけど、こちらもまたプリプリとした食感と、生でしか食べられないこの味が堪らない。


 ご飯持ってくれば良かったなと思いながら食べてると、若い男性が刺身に興味を示して来た。


 この人確か温泉のお湯が出た時にも騒いでた人だよね?


 チャレンジャーだなぁ。


「これつけて食べれば美味しいですよ。マスタードみたいにピリッとしますけど」


「おっしゃあ! お前らオレの生きざまを見てろよ!!」


 この人って本当、芸人みたいな人だね!


 チラチラと友人達を見つめ、止めて欲しそうな視線を送ってる。


「お前ら止めろよ!」


 しかも止めないで友人達がニヤニヤしてると、止めないことに怒るし。


「じゃあ、止めろよ。オレが食うから」


「ならオレが食うよ」


「……ちょっとまて、先に食うのはオレだ!」


「どうぞどうぞ」


 あれ? 何処かで見た気がするやり取りなんだけど?


 何処で見たんだっけ?


 周りが笑ったのを見て満足げだ。


 もしかしてこれ練習したネタか?


「あら、これも美味しいわね~」


「婆ちゃん! 先に食わんでくれ!」


「食べ物で遊んだお前が悪いんだよ」


 結局最初の奴が気合いを入れて食べようとしたけど、その前に結構お年を召したお婆ちゃんが、横からひょいと手を伸ばしてフォークで器用に刺身を食べちゃった。


 誰かと思えば芸人のお婆ちゃんか。


 見事なネタ潰しだ。


「本当に美味しい?」


「おう。美味しいよ。食べてごらん」


 意外なことに刺身にあっさり手を伸ばしていたのは、お年寄り達だった。


 若い人達や子供達が信じられないような表情で見てるけど、お年寄りは遠慮なく食べてる。


 何故だ!?


「飢饉の時は草でも虫でも何でも食べたからねぇ。食べられる物ならありがたく頂くよ」


「そうやね。こんなに美味いなら生でもええわ」


「ありがたや。ありがたや」


 異世界のお年寄りは強いや。


 オレ達が食べて大丈夫なら問題ないと平気で食べて、足りないのかお代わりの刺身を切り始めてる。


 あっ、伯爵様も普通に食べてるね。


 芸人トリオは見せ場を婆ちゃん達に取られて、ちょっと悲しそうにしつつ刺身を大人しく食べ始めた。


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