第114話・王国側の近況・その二

「連中はどうあっても、王国を潰したいのかな?」


「そうなのかもしれません。何か理由があると考えるべきですが」


 地引き網は好評だった。


 今後も定期的にやろうと決まり、田畑の整備と作物の世話に教会建設にと村のみんなと頑張ってる。


 ただオルボア公国は、そんなオレ達の事情など察してくれない。


 事件からもうすぐ一月ほど経つ最近では、冒険者の名を借りた工作員が数百名ほど、帝国や第三国を迂回してワイマール王国に入ってるのをうちの諜報活動が掴んでいた。


「この冒険者って本当微妙な制度だよね。よく言えば国籍や人種に問わず活動する個人の便利屋って感じ? 悪く言えば盗賊の養成兼工作員の隠れ蓑かな」


 王国ではこの実態は掴んでない。


 工作員達は第三国で偽名で登録したら、適当に仕事をしながら王国に入ってるみたい。


 元々冒険者というのは氏素性を問わない戦闘技能者のような扱いなので、国境を越えるのが比較的楽なようだ。


「冒険者ギルドを設立した人には、どうも異邦人が絡んでいたようです。国家の権力に縛られない冒険者の為の国際組織として、かなり無理をして作ったようです」


「その人はきっと、立派な人だったんだろうね」


「当初の理念は以前にも話しましたが、冒険者の保護です。しかし最初に無理をしたのが、現状でも影響してます。小国や小さな領地では、冒険者ギルドが権力を持ちすぎて、国家や領主を圧迫して影から操るところまであります」


 誰かは知らないけど、ファンタジー世界に来てゲームやラノベのような自由な冒険とか夢見たのだろうか?


 それとも封建的な反権力でも考えていたのか?


 どちらにしろ中途半端なことをしたもんだね。


 オレ達が出会った冒険者達は、いい人も居れば海賊と一緒になっていた人も居て様々だ。


 だけどヴェネーゼのギルド長のように、中途半端な人間が力で成り上がり権力を持つと、あまりいいことになるとは思えない。


 伯爵様のように強ければ問題ないだろうが、小国の王や貴族はマフィアや暴力団に、半ば乗っ取られかけてるようなものだ。


 悲壮な情況かもしれない。


 将来的な歯止めや自浄能力を考えず、国家以上の国際組織なんて作れば腐敗するに決まってるのに。


「そういえば宗教は?」


「宗教は信仰する神や宗派により違いがありますが、基本的に保守的です。それに神が実在すると信じられていますので、冒険者ギルドよりは理性的なんです」


「冒険者ギルドの抑えになれないかと思ったんだけど」


「現状では無理です。冒険者ギルドは治療に必要な神官を多数抱える教会には、手を出しませんから。それに教会の側も世俗の争いに関わりたがりません。恐らく権力を得て腐敗したくないのでしょう」


「賢いというかなんと言うか。地球みたいに宗教が好き勝手するよりはマシか」


 世の中には完璧なシステムや組織なんてない。


 腐敗や失敗を想定しない組織なんて誰が作ったんだ?


 まあ日本でもそんな組織いくらでもあるけどさ。


 ただまあ現状だとオレ達が動く必要も無ければ、動くべき案件でもないんだよね。


 オルボアが何を企んでるかも分からずに、工作員が入っただけで潰すのは良くない。


  冒険者ギルドに関しても関わって良いことは無さそう。


 島に仮に冒険者が来るようになったら、警戒するくらいは必要だけど。


 国家権力と冒険者ギルドのバランスなんて、一朝一夕じゃあ絶対無理!


「引き続き情報集めるしか、やることないな」


「はい。王国にはしばらく試練が続きますが、私達が介入してもいいことになるとは思えません」


 考え過ぎると何も出来なくなるけど、積極的に介入するような危機でもない。


 オルボアは本当邪魔というか厄介にしか思えないけどね。


 動くならば後始末まできちんと、見えてから動かないと。


 子供じゃないんだからさ。


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